「アート思考」も「デザイン思考」と同等に必要!

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【アート思考が求められる時代背景】

前回のブログでは「デザイン思考」のことを書きましたが、「デザイン思考」と同じぐらい現代ビジネスで注目されているのが「アート思考」です。ビジネスでアート思考が求められる時代背景としては、次のようなことが考えられます。

(1) これからビジネスの主流となり得るAIでは不可能な、人間独自の発想を鍛える意味で「アート思考」が必要となります。AIによって技術革新はかなり進むでしょうが、人間のニーズや感情を理解して、新しい発想を生み出す部分では人間の想像力が求められます。

(2) 人々が求めるニーズや価値観が多様化している現代では、企業が提供するサービスにおいても、競合他社と同じような商品開発を進めるのではなく、価値観の多様化に合わせて、独自の価値を提供することが重要となってきます。他と差別化する意味でも、アート思考によって個性を磨くことが求められます。また、イノベーションを起こすには、従来の発想にとらわれない思考が必要となってくる意味でも、既成概念に捕らわれない思考法であるアート思考が必要となります。

(3) 企業や商品の存在価値を突き詰めた上でそれを表現していくことが、目まぐるしく変化する社会の中で生き残っていく手段になり得ます。その方法として「アート思考」が適しています。

【「アート思考」の定義】

アート思考とは、「クリエイターのアイデア、感情、信念、哲学の表現を目的とし、限りない試行錯誤を経て自分の哲学を成し遂げようとする思考法で、ビジネスにおいては、革新的な発想のために、アーティストが作品を生み出すプロセスを応用するという考え方」です。

ビジネスにおけるアート思考は、強い意志に基づいたオリジナリティあるモノを生み出すことを目的とします。それによって顧客の共感を生み出し、人々を惹きつけることが目指せるような考え方が求められます。

【「デザイン思考」と「アート思考」の違い】

デザイン思考は、人々にある種の印象を与えたり、何がしかの課題解決が目的となります。デザイン思考の対象は他人であるクライアントです。それに対して、アート思考の目的は、人々に感動をもたらしたり、世の中に問題提起をしたりすることにあります。アート思考の対象は、自己や価値観の表現を基にした考え方にあり、自己中心的な世界観を作るための自分軸の中にあります。

「デザイン思考」と「アート思考」については、どちらが良いということではなく、どちらも兼ね備えておいた方が良い思考法だと言えるでしょう。特に経営者は、「ロジック思考」を核にしながら、「デザイン思考」と「アート思考」の両方をバランスよく用いることができるのが理想と言えます。

【経営における美意識】

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』(著者:山口周)という著書では、「今までのような分析、論理、理性に軸足をおいた経営から、それに加えて、全体を直感的に捉える感性、真・善・美の感覚(これらを総称して美意識という)を持った行動が求められる」と書かれています。

この書では、「経営における美意識」を、企業活動における良い・悪いを判断するための認識基準であるとし、例として、次のような具体的基準を挙げています。

① 従業員や取引先の心をワクワクさせるようなビジョン
② 道徳や倫理に基づき、行動を律する行動規範
③ 合理的かつ効果的な経営戦略
④ 顧客を魅了する商品・サービスや広告宣伝

この書が訴える「経営における美意識」といった概念は、「デザイン思考」と「アート思考」を統合するような考え方のように思えます。

デザイナーが、この「経営における美意識」を意識するとすれば、クライアントと自分の二面において意識することが必要でしょう。
「クライアント」においては、アート思考が活性化するように、上記のような美意識をうまく引き出せるよう意識する必要があります。
「自分」においては、デザインされたものの価値が顧客の心に響くように、アート思考に裏打ちされた作品が創れるよう意識する必要があります。

デザイナーが、自分において「美意識を鍛える」必要がある理由は、価値観や倫理観の観点からクライアントを啓蒙しなくてはいけない場合も生じるからです。

没落に向かって瀕死の状態であった「今治タオル」を、見事に高級ブランドへと押し上げたデザイナーの佐藤可士和氏は、「ブランドをつくることは難しい。しかし、もっと難しいのはつくったブランドを守っていくことだ」と言っています。今治タオルの知名度が上がり、東京に南青山店をオープンさせた頃、今治タオル組合は、戦略的な広告宣伝として、毛を刈り取られた羊が今治タオルのバスローブを着て気持ち良さそうにしているイラストを看板にしようとしていました。これを見て佐藤氏は、「せっかく築き上げてきたブランドイメージを、コミカルなイラストでこわしてしまいかねない深刻な状況」だと考えました。彼は、時間をかけて今治タオルが築いたブランド価値について組合を啓蒙していきました。

この佐藤氏のような、デザインが築き上げた美的価値を熱意をもって守ろうとする姿勢がデザイナーには必要でしょう。

倫理観の観点で、鍛えられた美意識が著しく欠けていたと思われる例は、「2020年(実質2021年)東京オリンピック」における、電通をはじめとするデザイン関係の業者が絡む汚職事件です。乱暴な解釈をすれば、「デザイン思考」的なものが暴走すれば、2020年東京オリンピックの汚職事件のようなことも引き起こしかねないのかも知れません。そのようなことを防ぐためにも、アート思考も身につけて、バランス良い思考でクリエイティブ活動が必要なのだと思われます。
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