No,100 かけっこは途中で止まり、ダンスは棒立ち…それでも母が感動の涙を流し

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かけっこは途中で止まり、ダンスは棒立ち…それでも母が感動の涙を流し、父がわが子を褒めまくったワケ


 10月は運動会シーズンです。昨年、おととしと、新型コロナウイルスの影響で運動会が中止になったケースは多いと思いますが、今年は開催する園や学校も多いのではないでしょうか。



 運動会は、普段の生活ではなかなか分からなかった子どもの成長に気付き、驚きや喜びを感じることができる特別な機会でもあります。
知的障害を伴う自閉症の息子ときょうだい児(障害や病気を持つ兄弟姉妹がいる子ども)の娘を育てる筆者が、コロナ禍に突入する前の2019年に経験した運動会の思い出を紹介します。
初めての運動会だった息子



 現在、筆者の息子は、特別支援学校に通う小学2年生です。
知的障害を伴う自閉症がある息子は、未就学児だった頃、療育(障害のある子の発達を支援する施設)と並行して幼稚園に通っていました。



 当時の息子は発語がまったくなく、身の回りのことも1人ではできません。そのため、幼稚園では担任の先生とは別に加配の先生(障害のある子や発達の遅れが気になる子を支援する職員)がついてくださり、安全に楽しく園生活を送ることができました。



 しかし、運動会は日常生活とは違い、広い運動場で、観覧席にいるたくさんの保護者たちの前で競技をすることになります。
「いつもと違う」状況が極端に苦手な息子がパニックにならないか、筆者は不安でいっぱいでした。
 筆者の中では、息子が運動会の間、とにかくみんなと一緒に最後まで運動場にいられたら花マル。
競技のときに、ちゃんと自分のいるべき場所にいられたら大満足。



 もしかしたら、息子が不安定になってどこか離れた所に避難してしまい、自分の子がいない運動会を見ることになるかもしれない…。
しかし、たとえそうなったとしても、それはそれでよい思い出としよう。
そんな覚悟で臨みました。



 夫にもそのことを話し、当日は予想外のことがあっても対応しやすいように、当時1歳だった娘は家で母に見てもらい、夫と2人で運動会に参加しました。
号泣する筆者と息子を褒めまくる夫



 当時、年中だった息子が参加する競技は、かけっことダンス、そして親子競技の障害物競走でした。



 まずかけっこは「ちゃんと真っすぐ走れるのか」「そもそもスタートできるのか」「自分のかけっこの順番まで並んで待機できるのか」。
もっとさかのぼれば「かけっこのときまで運動場にいられるのか…」。
考えれば考えるほど不安は募りましたが、息子を信じてドキドキしながら観客席で見守りました。



 しかし、筆者の心配をよそに、園児席には驚くほど穏やかな息子の姿がありました。
息子は運動会が始まってからずっと、クラスの友達と一緒に自分の椅子に座り、落ち着いて自分の出番を待つことができたのです。



 かけっこでは、自分の順番をしっかり待ち、スタートを切ることができました。
途中で止まってしまうこともありましたが、みんなが注目する中、先生たちと一緒にゴールまで走り切りました。



 そして、一番の鬼門だと思っていたダンス。息子は乳幼児の親子教室や療育の場などでも、ダンスや体操が特に苦手だったのです。
踊れないことはもちろんですが、立ち上がることもせず座ったままだったり、パニックになって大泣きしてしまったりすることもありました。



 しかし、運動会での息子は違いました。みんなと同じように踊れませんでしたが、自分がいるべき場所に静かに立ち、みんなとおそろいのボンボンを持って、少しも騒がず、最後までその場に居続けることができたのです。



 多くの親御さんにとっては、「そんなの当たり前のこと」と思われるかもしれません。
しかし、筆者は息子のその静かな立ち姿を見て、過去のさまざまな思い出がフラッシュバックし、感動とうれしさで涙がボロボロこぼれました。



 はたから見たら、かけっこは途中で止まり、ダンスは棒立ちだった子の親が号泣していたら、「何をそんなに泣いているんだ?」と不審がられたかもしれません。
しかし、筆者にとってはそれほど感動的なシーンだったのです。
夫も同じで、息子のことを「親バカ上等!」というくらいに褒めたたえていました。



 その後の親子競技は夫が参加し、息子と2人で仲良くゴール。息子もうれしそうな笑顔を見せてくれました。
 帰り道は、息子の成長した姿に筆者も夫も興奮冷めやらぬまま、3人でほくほくした気持ちで歩きました。
テンションが上がった夫が「今日はすしだ!」と言って、その後、家族が大盛り上がりとなって回転ずしに行ったのは、よい思い出です。
「普通」と比べなくなり、心が自由に



 息子はこの運動会の1年ほど前に、知的障害の診断を受けました。
筆者は息子の発達に遅れを感じていても、診断前はどうしても「普通」にすがり、周りのお子さんたちとの違いに焦ったり落ち込んだりすることが多かったと思います。



 運動会も、もし診断前の筆者の状態であれば、「うちの子だけ浮いている」「どうしてみんなみたいに踊らないの?」と、落ち込む思い出になっていたかもしれません。



 しかし、当時息子が通っていた幼稚園には、障害があって加配の先生がつくお子さんが、息子を含めて3人いました。
さらに、そこまで重い障害がなくても、何らかの発達の遅れがあるお子さんが数多く在籍している、非常に多様性のある幼稚園だったのです。



 そういう環境だったからこそ、筆者も他の親御さんたちも、周りと比較せずにわが子の成長を喜び、他のお子さんの成長もみんなで喜び合っていけたのかもしれません。



 加配の先生がついていた子の親御さんたちとは、運動会の予行練習のときからすでに一緒に感動で泣いていました。



 仲間がいてくれたこと、先生たちが十分なサポートをしてくれたこと、周りの親御さんたちがみんなで温かく成長を見守ってくれたこと。
そうしたありがたい環境に身を置かせていただいたおかげで、筆者は「普通」と息子を比べなくなり、心が自由になっていったように感じます。



 障害の有無にかかわらず、運動会では、緊張して普段と同じようにはできなくなってしまうお子さんもいるかもしれません。
でも、周りと比べるのではなく、子ども自身の過去と今で比べたら、すてきな思い出がたくさんつくれるかもしれません。
「言うはやすし」ではありますが、せっかくの久しぶりの運動会、親子で楽しく過ごしていきたいですね。
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