「日本近代美術の様式」青山学院大学文学部比較芸術学科

記事
学び

(1)問題


次の文章は、哲学者和辻哲郎が昭和26年(1951)に著したものである。

(1)次の文章を読み、内容を200字以内で要約しなさい。

(2)ここで述べられている主題を、あなた自身の関心分野(美術・音楽・演劇映像)に照らして論じなさい。その際、具体的な芸術作品に触れること。
(600字以内)

① 日本の美術史だけに限って考えてみても、それぞれの時代が顕著な様式を持っていることは明らかであるが、明治以後の日本の美術はどうであろうか。明治時代や大正時代の作品を江戸時代のものと比べてみると、はっきり見分けはつくが、しかし明治様式とか大正様式とかと呼び得るものは、果たしてあるであろうか。優れた画家の個人的様式というようなものは非常にはっきりと取り出せると思うが、時代的様式としては、顕著なものはないのではなかろうか。それは明治以後にいまだ新しい様式が創造されていないということである。

② その原因は、恐らく西洋美術の輸入であろう。西洋美術は日本美術に対して、時代的様式の相違などよりももっと根本的な、文化圏の相違に基づく異種の美術様式を示している。両者はそれぞれ長い歴史的伝統を背負い、時代的な様式の変遷を経て、今日の様式に到達しているのである。そういう深い相違を持った美術の様式を新しく採用したということは、時代的な様式の変遷などよりもはるかに深刻な事実であった。明治以後の美術界における最大の問題は、日本画と西洋画、日本彫刻と西洋彫刻とかいうごとき、二つの異なった様式の対立である。時代に即応した新しい様式の創造よりも、この対立をいかに解決するか、あるいはこの対立のなかでいかに自らを保持して行くか、という問題の方が、一層切実な関心事となったように見える。だから明治維新後すでに一世紀近くたっているにかかわらず、われわれ、時代の様式というべきものは、いまだ創造せられていないのである。

③ 洋画と日本画との対立は、はたから見るほど解決の容易な問題ではないらしい。第三者から見れば、西洋の絵の具や技法を用いても、日本人の製作である限り「日本画」ではないかと言いたくなる。しかし日本画と呼ばれるのは、日本人の描いた絵というだけの意味ではなく、様式の上でかなりはっきりとした限定を持っているのである。従って洋画と日本画の区別は何十年たっても弱まって行かない。在来の様式を破って絵の具や技法の制限をのり超えた新しい様式が作り出されるまでは、この区別は到底取り除くことができまい。ところでそういう様式の創造には、まずこの区別を克服するような第一歩が必要である。そういう第一歩は個人的にはすでに踏み出されていると思うが、それが一つの時代の動きとして新しい様式の創造に達するまでには、まだまだ大きい努力がなされなくてはなるまい。

日本近代美術.png

(2)解答例


明治時代、西洋美術の様式を採用したことは、深刻な事実であり、異なった文化圏や歴史を背景として西洋美術様式と深い相違を持った日本美術の様式はこれと対立した。明治以後の美術界ではこの対立の解決が切実な関心事であったため、維新後一世紀近くたっても新時代の美術様式の創造が遅れた。従来の様式を破って絵の具や技法の制限をのり超え、洋画と日本画の区別を克服して新しい様式が創造されるには、大いなる努力が求められる。(200字)

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