花開く才能の鍵 第4話

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「はぁっ!くっ!」
「おっと、よっ!ほいっ!」
 体育の時間に、私達はタレンテッドキーを用いた模擬戦を行う。
 私も刀を手にしてクラスメイトの女子と練習をしていた。
 相手が使っているのは二丁のサブマシンガンだ。本人曰く『スコーピオンっぽいよね』とのこと。悪いけど銃には詳しくない。
「とりゃあっ!」
 適度に間合いを取っていると、相手が銃の引き金を引いた。それと同じに私も刀を振るう。
 サブマシンガンが火を吹いて、高い音が鳴り響く。訓練用のキーを使っているので死にはしないが、痛いので当たりたくない。
 発射された何十発ものの光弾は、私が出現させた裂け目に吸い込まれていった。
 さらに裂け目は相手の右隣に出現した。そこから吸い込まれた光弾が吐き出される。
「わひゃあッ⁉︎」
 ある程度は予想していたようで、送り返した光弾は全て避けられた。でもある程度隙はできた。
 その隙をついて私は大きく踏み込んだ。刀を振るってトドメを刺そうとする。
 しかし相手が素早く背中を丸めて私の視界から姿を消した。
 慌ててその姿を目で追うが、こうなってしまうと………
「ほい、私の勝ちだね」
 私の真隣で声がした。こめかみには銃口が突きつけられている。
「はぁ………また負けかぁ」
 私は負けを認めて身体の力を抜いた。それを見て彼女も銃を下ろす。
「これで二勝一敗。これで今日の昼ごはん奢ってもらえるぜ!」
「おい、そんな事聞いてないよ」
 歩射《かちゆみ》 |九十九《つくも》。高校に入ってからできた友達だ。
 クラスの中で一番背が低く、髪は短髪でぴょこんとアホ毛がある。身体も全体的にほっそりしていて、ボーイッシュな女子の典型みたいな見た目だ。
 いつも元気で明るくノリがいい。それ故のとっつきやすさが、彼女と仲良くなれた理由だろう。
「これでも戦い慣れてきたはずなんだけどなぁ」
「ふっふ〜ん、大刀石花もまだまだ隙だらけよのぉ」
「アンタ相手に隙のない人はいないっての」
 得意気に胸を張る歩射に返すと、私はその場に座り込んだ。あぁ、疲れた。
 歩射の能力を一言で言うなら『感覚探知』だ。
 相手のどの感覚がどんなものに向いて、今何をどれだけ感じているのかが一発で分かるそうだ。
 逆の言い方をすれば、相手の意識が向いていないところも分かるわけで。いわゆる隙が分かるのだ。
 オマケに小柄な体格を生かして素早く動き、隙をついてフルオートの光弾発射。
 隙のない歴戦の戦士からしたらなんてことのない能力かもしれないが、一学生からしたらかなり厄介な相手と言える。
「それにしても、すごい光景だよね。未だに目の前で見ても慣れないモンだ」
 歩射が模擬戦をしているみんなを見た。
 まぁ高校生がアイテムを持って超能力で戦うなんて、数年前じゃ考えられないような状況だ。
「あ、そういえばさ、あの人」
 体育かを見渡した歩射が、隅っこの方を手で示した。
 そこには模擬戦に参加出来ずに見学している海金砂が、体育座りで座っている。
 少しだけ視線が下に下がっていて、どこかをぼんやりと眺めている。その目にはみんなに対する羨ましさとか尊敬の念は感じられず、ただ無感情に見ているだけだ。
「えっと………名前なんて言うんだっけ?」
「海金砂。海金砂 瘧」
「そうなんだ。最近大刀石花と一緒にいるの見かけるけど、仲良かったんだね」
「え?あぁ、そうね………」
 仲良くなったというか、流れで一緒にいることが多くなったというか………
 まぁ一緒にいて落ち着くし、最近はよく話すようになった。仲良くなったと言ってもいいのだろうか。
 何せ私も友達が多い方では無いので、その辺の区切りはイマイチピンときていない。
「私あの人が大刀石花以外と話してるの見たことないんだよね。どうやって仲良くなったの?」
「そうだねぇ………色々あったんだよ」
「大雑把だなぁ、答えになってないぞー」
 自分でもそう思うけど、だからといって本当の事を話してしまえば歩射を心配させてしまうかもしれない。
「噂によるとタレンテッドキーが使えないから、イジメられてるらしいよ」
 どうやら歩射もそのくらいなら海金砂のことを知っているらしい。
「バカみたいな話だよなぁ」
「そうだね」
 歩射も私と同意見らしい。
 たしかに海金砂はタレンテッドキーを使えないから、一般人からしたら弱いのかもしれない。
 けどそれはイジメる理由にはならないし、何よりそれじゃあそっちはちゃんとキーを使えると言えるのかって話だ。
 仕組みすらまともに分かってないものを創意工夫無しで、言われた通りのことをしてるだけ。それが本当に『使える』と言えるのかどうか。
「けどさぁ、何でタレンテッドキーが使えないんだろうね」
 あんまり休みすぎると先生に怒られるので、立ち上がるとチラッと横目で海金砂を見て歩射は首を傾げた。
 本人からしたら大きなお世話かもしれないけど、私もそれは気になったことがある。
 とはいえ私達一般人からしたら、タレンテッドキーは使える仕組みすら分かってないような謎の武器なのだ。使えない要因なんていくら頭を捻っても出るわけがない。
「色々あるんじゃないかな」
「色々、ねぇ」
 歩射はぼんやりと呟きながら自分の銃を見た。
 けどそんなよく分からないものに身の安全を任せているのかと思うと、それはそれでゾッとする話だ。
「そういえばさ、最近いいカフェ見つけたんだ。放課後一緒に行ってみない?」
「放課後かぁ………今日は無理かも」
「何だよぅ。最近付き合い悪くて、私泣いちゃうよ?」
「こっちも色々あるんだよ」
「お前『色々』ばっかだな」
「海金砂、そろそろ帰る?」
「うん、行こうか」
 放課後になって大刀石花に声をかけられて、私は席から立ち上がるとスクールバッグを肩にかけた。
 あれから何となく私と大刀石花は一緒にいる事が多くなった。一緒にお弁当食べたり、一緒に帰ったりして。
 まぁよく周りで見かけるような女子同士がキャッキャしてるような感じではなく、適当につるんでるという感じだが。
 一応クラスメイトのお礼参り防止という名目で一緒にいるわけだが、今のところ特に被害は受けていない。
 それなら一緒にいなくてもいいんじゃないか、と言われそうだし私自身そうは思う。大刀石花もそれは分かってると思う。
 けどお互い波長のようなものが合ったのか、一緒にいてはのんびりとした時間を過ごしていた。
 実際のところ、私は大刀石花といる時間を楽しいと思っているのだろう。でなければこんなに長い間一緒にはいない。
 大刀石花が私をどう思っているのか。それは分からないし分かろうと思ったことも………無くはないけどけど、聞くことはしない。
 校門で待っていると大刀石花が自転車を引いてやってきた。それから私と並んで歩いていく。
「そういえば、大刀石花って空間転移できるんだよね?登下校もわざわざ自転車使わないで、キー使えば?」
「うーん、実際にそうしようと思ったことあるよ。でもこの力使いすぎると酔うんだよね。車酔い、みたいな感じで」
「三半規管弱いの?」
「いや、昔から車酔いしたことはないよ。というか空間の裂け目作ってから通るし、それ関係無いと思う。たぶん能力の副作用的なものじゃないかな?ある人にはあるって聞いた」
 そんなものなのだろうか。たしかに前に家に送ってもらった時は、私は何ともなかった。
「まぁそうでなくても学校でキーを使うのは、体育の時間以外原則禁止だからね」
「真面目だねぇ」
「もっと褒めてくれてもいいのよ」
 こういった単調な会話が心地よくて、私は大刀石花と一緒にいるのかもしれない。
 難しいを考えずに思った事をスッと言える。大刀石花もそれにぼんやりと返す。それが私には合っていた。
 歩きながら話していてそろそろ別れる頃だ。
 その時、いきなり目の前に何人かの学生が現れた。同じ学校の制服を着ているが、校章の色がバラバラだ。上級生もいる。
 さらに後ろや横からも複数の学生が現れる。
 よく見ると見たことのある顔がいた。初めて大刀石花と話した時に、私を痛めつけていた男女達だ。
 でもあの時よりも確実に人数が多い。何ともイヤらしい笑みを浮かべて、友好的でないのは明らかだった。
「よぉ、久しぶりだなぁ」
「………何のようですか?」
 大刀石花もそれはすぐに感じ取ったようだ。タレンテッドキーが入っているスクールバッグに手を入れた。
「この前は随分と世話になったからよぉ、お礼に可愛がりに来たぜぇ」
 私達を取り囲む学生達全てがタレンテッドキーを取り出した。訓練用ではなく本物をだ。
 背筋が震えて、額に冷や汗が浮かぶ。大刀石花の顔も強張っていて、身がすくんでいる。
 これまでも複数人に痛めつけられたことはあったが、こんなに多いのは初めてだ。
 そこで私は自分が油断しきっていたことに気づかされた。
 万が一襲われても大刀石花の能力で対処できると考えていたが、まさかこれほどの人数を相手にすることになるとは。
 学生達は一斉にキーを起動させた。彼らの手にアイテムが生成される。
「海金砂………こ、この人数はさすがに相手できない。逃げるよ」
「う、うん」
 私も大刀石花の意見に賛成だ。というか戦闘力の無い私じゃ頷く以外に方法はない。
 大刀石花の能力があればどこにでも逃げられるはずだ。人に助けを求めるしかない。
 大刀石花がスクールバッグからキーを取り出して起動させようとした。
「起動させる前に、やっちまえ!」
 しかしそれより前に取り囲んだ学生達が襲いかかってきた。
 その内の一人が手にしたナイフを大刀石花に向かって投げた。ナイフが彼女の腕に刺さった。
 私の目の前で大刀石花の腕から鮮血が散る。
「ッ⁉︎きゃあぁぁぁッ‼︎」
「大刀石花‼︎」
 蹲った大刀石花に慌てて駆け寄るが、割って入ってきた女子が私を蹴り飛ばす。
「オラァッ!」
「ぐっ!」
 思いっきり蹴られて、私は後退した。その隙に二人の男子生徒に腕を掴まれて拘束される。
 私はもちろんのこと、大刀石花だってキーが使えなければただの女子高生だ。ガタイのいい男子からの拘束に抵抗できるはずもない。
 その上で何人かが私たちに武器を振り下ろす。短剣が私の脚に刺さり、棍棒が大刀石花の腹を抉った。
「ぐあぁぁッ‼︎」
「がはッ‼︎」
 それだけでは終わらず、私達は四方から斬られ、殴られ、刺され、痛めつけられた。
「ギャハハハッ!こっち寄越せよ!もっと、やっちまおうぜ!」
「おい、一応殺すなよ。面倒な事になるから」
「そしたらその辺の暴漢にやられたって事にすりゃいいだろ」
「おっ!名案じゃん!それじゃあもっとやっちゃおう!」
 憂さ晴らしというよりも彼らは愉悦に浸っていた。笑い声をあげながら武器を振るう。
「このッ!オラッ!よくも俺らを、びしょ濡れにしやがったな!このクズが!」
「ぐっ!きゃッ!ぐあッ!」
 やはり彼らの怒りは大刀石花に向いているのか、あの時の六人に囲まれて嬲られている。 
「たち、せ………」
「おい、よそ見してんなよ!この無能が!」
「あ゛ぁぁぁぁぁッ‼︎」
 大刀石花をたすけようとするが、その前に私を捕まえていた男子が炎を纏ったハンマーを私に押しつけた。
 熱された金属が背中に押し当てられて、皮膚が爛れて突き刺すような痛みが襲ってくる。
 制服が擦り切れ血まみれになるまで痛めつけると、彼らは私達を地面に叩きつけた。
「ぐっ!………か、海金砂………」
 大刀石花が力のない声で私を呼びかける。口から血を吐いて、身体中に傷とあざができている。
 私のせいだ。私のせいで、大刀石花がこんな目に………私なんかと、友達になってくれた人を、私が苦しめたんだ。
 やっぱり私なんかが、誰かと関わる資格なんて………いや、存在する資格なんて無いんだ………
 何の才能も無い私なんて、存在する価値なんてないんだ。このまま死んでしまえばいいのかもしれない。
「おい、コイツらどうする?この前の続きヤんのか?」
「やっぱいいや、こんな血まみれのヤツいらね」
「だったらさ、二度と俺らに歯向かえないように、この無能共の手足全部砕こうぜ」
「いいねぇ!おい、まずはそっちの女からだ」
 私達を見下ろしている学生達は、大刀石花の方へと群がる。
 助けなきゃ、でも私には何もできない。たった一人の友達を守る事すらできない。
「海金砂………」
 すると大刀石花が私の手に触れた。意識がぼんやりしているのか、譫言のように呟く。
「笑顔………見せてよ………」
 その小さな声は私の頭に響き渡り、身体を熱くした。
 私の、笑顔………どうすれば………
 顔を上げれば、目の前には大刀石花がいる。傷だらけになりながらも私を見てくれている。
 彼女といれば、私も…………笑えるかもしれない。
 そのためにも、こんなところで死ぬわけにはいかない。
 身体に残る力を振り絞って、ポケットの中のタレンテッドキーを取り出した。
 たとえ使えなくても………最後まで抗ってやる。
 キーで円を描くと、差し込んで起動させた。
 しかしキーは光になって、私の手元に集まるだけだ。
「ん?おい、そこの女、キーを起動させてるぞ」
「あ?ほっきなよ、どうせ何もできないただの無能だもん。ぺっ!」
 私を見下ろして女子が唾をかけた。それから大刀石花の真上に斧を振り上げる。
「それじゃあ、せいぜい良い声で鳴いて、ねっ!」
 大刀石花の腕に斧が振り下ろされた。もう、私には止められない。見ていられず、私は目を瞑った。
 ダメだ、このままじゃ、何もできない………せめて、大刀石花の盾になれれば………
 バチッ‼︎
 その時、鳴り響いたのは肉を斬り裂く音ではなかった。
 まるで静電気のように何かを弾く大きな音が、私の頭上で鳴り響く。
 謎の音を確かめようと、私は目を開けた。
 斬られたと思った大刀石花の腕はまだ繋がっている。目の前の光景は何も変わっていなかった。
 いや、一つだけ違った。
 私の手元にあったはずのキーの光が無くなっていた。
 そして私達を斧から守るように、ドーム型のエネルギーバリアが私達を囲んでいる。
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