中小企業経営のための情報発信ブログ293:父が語る経済の話

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今日は、ヤニス・バルファキス著「父が娘に語る経済の話」(ダイヤモンド社)を紹介します。著者のバルファキスは、イギリス、オーストラリア、アメリカで経済学の教授を務め、ギリシャの経済危機の最中、2015年にギリシャの財務大臣に就任し、EUが主張する財政緊縮策に「ノー」を示し、大幅な債務帳消しを求めました。この強硬な姿勢のためにのちに退任を余儀なくされますが、この大胆な主張が世界的に大きな注目を集めました。
この本は、バルファキスが、十代の娘に向けて、「経済についてきちんと話すことができるように」という思いから、できるだけ専門用語を使わず、わかりやすく血の通った言葉で経済について語ったものです。
この本は、まるで小説のように、章を追うごとに話が深まり、ついついページをめくってみたくなるような見事な構成になっています。「一気読みしてしまった」「読むのがやめられない」という声もあり、経済の本らしくなくベストセラーになっています。
この本では、「格差がなぜ存在するのか」という娘からの問いに、バルファキスなりの答えを出していく形で進んでいきます。その過程で、経済がどのようにして生まれたのかにさかのぼり、金融の役割や資本主義の歴史と功罪について、正論や建前でなく、バルファキスの真摯な本音を、「ブレードランナー」「マトリックス」などの映画や「ファウスト」「フランケンシュタイン」などの文学作品やギリシャ神話などを題材にとりながら説明されていきます。
バルファキスは、「誰もが経済についてしっかりと意見を言えること」が「真の民主主義の前提である」と言っています。専門家や政府に経済をゆだねることは、自分にとって大切な判断を他人にゆだねることに等しいと言えるのです。大切な経済に関する判断を他人任せにしないために、経済とは何か、資本主義がどのようにしてい生まれ、どのような歴史を経て今のような仕組みになったのか、資本主義のメリットは何か、資本主義が犯す功罪は何かを、自分の頭で理解して考える必要があるのです。
経済の誕生から現在に至るまでの壮大な物語を読んでいると、今私たちが普通に受け入れ常識と考えていた「お金とは何か」「経済とは何か」ということも常識ではなく当たり前のことではないと思えてきます。
日本の民主主義指数は先進国で下位の22位で、「欠陥のある民主主義」と言われています。政治家が特定の業界や団体と密接に癒着し私利私欲に走り、国民のための政治を行っているとは言えない現状を見ても、大きな欠陥があり、似非民主主義と言ってもいいように思います。
また、労働者の自己決定権がどこまで保証されているかを調査した経済民主主義指数においても、OECD 加盟国32か国中29位となっています。日本ではG ⅮPに占める教育支出が少なく、ひとり親家庭の貧困率が先進国中で突出して高く、日本に住む子供の7人に1人は貧困と先進国中最悪の水準となっているのです。
日本においてこそ、一人一人が経済について理解し、自分の頭で考えて発言できるようになる必要があると思います。
先ほども書きましたが、経済を専門家にゆだねることは私たち自身が責任を放棄したようなものです。今の経済学者の理論は科学を求めすぎた結果、難しい数式を利用し机上の学問になっていると言っても過言ではありません。経済学者がいくら理論を唱えても私たちの生活を変えることはできないのです。
バルファキスは、皮肉めいて「経済学者も星占い師みたいに科学者のふりをし続けてもいいのかもしれない。だが、経済学者はどちらかというと科学者ではなく、どれほど賢く理性的であっても人生の意味を確実に知ることはできない哲学者のようなものだと認めた方がいいのではないか?」と言います。
私たちの生活は経済の影響を大きく受けています。私たち一人一人が経済のことを学んで理解し、声を上げなければならないのです。この本は、若者が経済のことを自ら学んで自分で考える力を身に着け、荒波に負けず生きていく手がかりをつかんでほしいというバルファキスの思いで書かれたものです。しかし、この本から学ぶ必要があるのは若者だけに限りません。すべての世代がこの本を読んで学ぶ必要があると思います。
この本のプロローグで、バルファキスは「私たちの人生を支配している資本主義という怪物とうまく共存することができなければ、結局は何もかも意味をなさなくなってしまう」と言います。私たちの人生だけでなく、貧困の問題も格差の問題も環境破壊の問題も、すべて「資本主義という怪物」を抜きに語ることはできません。
しかし、バルファキスは、本文の中では「資本主義」という言葉は使っていません。バルファキスは、「この言葉が悪いわけではない。この言葉に付きまとうイメージのせいで、本質が見えなくなってしまう」と言い、「資本主義」の代わりに「市場社会」という言葉を使います。
この「市場」という言葉が、この本のキーワードです。市場があれば、買い手は欲しいものが手に入り、売り手にはお金が入ります。人と人とのつながりも広がります。このように市場は大切ですし、魅力的ですが、お金がないと欲しいものを買うことはできません。そこが問題なのです。私たちの生活はお金を介さないと何もできないのです。「人生にとって大切なものはお金では買えない」などと言いますが、現実問題として、お金がなければ生きていくことも難しくなるのです。
お金を介したやり取りが私たちの行動や考え方に深く入り込んで、「そればっかり」になった社会が、「市場社会」なのです。
この市場社会が、貧困の問題も、格差の問題も、環境破壊の問題もその根底に存在しています。このことを理解しない限り、今現在経済が抱える問題を解決することはできないのです。
最後に、バルファキスは、「人を支配するには、物語や迷信に人間を閉じ込めて、その外を見させないようにすればいい。だが、一歩か二歩下がって、外側からその世界を見てみると、どれほどそこが不完全でばかばかしいかがわかる」と言います。「遠くから俯瞰してみる視点を持っている限り」現実とかかわりを持ち続けられるのです。
市場社会は、私たち人間に幻想を吹き込み、人間はその幻想に押されて行動し、創造性や人との絆や人間性や地球の未来を犠牲にしてしまいます。市場社会の求めに応じて行動するか、あるべき社会の姿を求めて行動するかは、社会の規範や決まり事から一歩外に出て世界を見ることができるかどうかにかかわってきます。「外の世界」からの視点を持つことが大切なのです。
バルファキスは、「君は、いまの怒りをそのまま持ち続けてほしい。でも賢く、戦略的に怒り続けて欲しい、そして、機が熟したらその時に、必要な行動をとってほしい。この世界を本当に公正で理にかなった、あるべき姿にするために」と言います。
社会や経済を変えるのは、政治家や経済学者ではありません。我々一人一人が真剣に民主主義や市場社会のことを考えて行動を起こさなければ社会や経済を変えることはできないのです。日本国民こそこの本を読んで経済のことを自分の頭で考え、よりよい社会を作らならなければなりません。
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