中小企業経営のための情報発信ブログ100:ゲーム理論

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今日もブログをご覧いただきありがとうございます。
昨日「行動経済学」について書きましたが、今日は「ゲーム理論」について書きます。行動経済学と同様、ゲーム理論も経営・ビジネスに大きな影響を与えます。
1ゲーム理論とは
 ゲーム理論とは、ある種の意思決定を行った場合、何が起きるかを予想する理論です。要は相手の出方をどう読むかということです。自分にとって得かどうかは相手の出方によりますので相手の出方を読む必要があります。これは経済に限ったことではなくあらゆることに当てはまり、当然企業の戦略にも当てはまります。したがって、ゲーム理論は企業戦略(例えば、新商品の価格設定、新規市場への参入戦略の策定など)に極めて役立つ理論なのです。
 世の中には3つの意思決定問題があります。それは、①ラスベガスのカジノでの意思決定、②競馬での意思決定、③じゃんけんでの意思決定です。
 ルーレットのどのスロットにボールが入るか、サイコロの目がどういう確率で出るかは客観的予想で、1/36, 1/6とか、その確率は計算できます。
 競馬の場合には、過去のデータや当日の馬の状態などをどう見るか主観的予想が絡みます。
 じゃんけんの場合、相手はサイコロではないので、グーを出す確率、チョキを出す確率、パーを出す確率は1/3とはならず、主観的予想に基づく確率です。この主観的予測は、これまでの対戦での相手の傾向(過去のデータ)だけでなく、「自分は相手の出方を予想して意思決定するし、相手も自分の出方を予想して意思決定する」という戦略的状況によっても変化します。この戦略的状況をゲームと呼び、この最も難しい意思決定問題で何が起きるかを予測するのが、ゲーム理論です。  
 ゲーム理論はじゃんけんの結果を予測するのに有効なだけではありません。NTTドコモとソフトバンクとauは新しいスマホ格安プランをリリースしています。顧客は各ブランドの値段や品質を見比べて、どれを買うか、どの料金プランにするかなどを決めます。ドコモは他の二社がいくらにするか、どんなプランを用意してくるか、どんな広告を打ってくるかを予想し、ソフトバンク(又はau)が他社の戦略についてどのように予想しているかについて予想しなければなりません。自社の戦略を決定するためには、「ドコモは、ソフトバンクが(auが)・・・どう考えているのか・・・さらにそのように考えているドコモについて、ソフトバンクが(aUが)どう考えているか・・・」と企業間の無限の思考の連鎖が必要になるのです。 
 この複雑怪奇な戦略状況でどのように予測を立てていくかがゲーム理論なのです。
2.囚人のジレンマ
 ゲーム理論の要点は、①ミニマックス戦略と混合戦略ナッシュ均衡囚人のジレンマの3つです。
 ①ミニマックス戦略は、二人のプレイヤーの利害が全く相反したゼロサムゲームで自分にとって最大(マックス)の損失を最小(ミニ)にするような戦略です。混合戦略はプレイヤーがランダムに行動することを言います。
②ナッシュ均衡は、各人の戦略がお互いの最適となっている状態のことです。  
 ここでは③囚人のジレンマについて詳しく見ていきます。鎌田雄一郎「ゲーム理論入門の入門」(岩波新書)の例を挙げましょう。
 ルパンⅢと次元の2人が捕まり別々に取り調べを受けています。二人が共謀して軽い犯罪(ルーブル美術館への不法侵入と落書き)を犯したことは分かっています。更に重い犯罪(ミロのビーナスの窃盗)を犯したことが疑われている状況です。そこで銭形警部がルパンⅢに言います。
 「なあ、ルパンよ。そろそろ白状しないか。二人とも自白しないなら、証拠のそろっている不法侵入と落書きで2年の刑だ。もしお前が自白せず次元が自白して見ろ。お前は黙秘したということで窃盗も含めて5年、次元は正直に自白したので情状酌量、無罪放免となる。代わりに自白したのがお前だけなら次元が5年、お前は無罪放免。もしお前も次元も白状すれば、証拠がそろい二人とも4年ムショに行ってもらうことになる。さあ、どうする?ルパン」
 また、銭形警部は同じことを次元にも言います。
 この場合、本来であれば、二人とも黙秘するのが一番良い選択となるのですが、自分の刑だけを考えると、無罪放免のいう甘い蜜に誘われて、ルパンも次元も自白してしまい、結局二人とも4年の刑に処せられることになってしまうのです。
 「ゲーム理論の入門の入門」は、ゲーム理論の基礎的内容を上のようなルパンⅢやAKB48のじゃんけん大会(若干古い例で、篠田麻里子vs藤江れいな)などの例を挙げて面白可笑しく分かりやすく説明してくれています。ゲーム理論の初歩を学ぶにはよい本です。
2.完全情報ゲームと後ろ向き帰納法ー将来のことから考える
 戦略決定が同時とは限らない状況が前提とされています。ラーメン店が新店舗をオープンすべきかどうかという問題を軸に、同時に意思決定がなされない場合のために考案されたのが「後ろ向き帰納法」です。
 帰納法というのは、まず1つ目を分析し、それを基にすると2つ目のことが分かり、それを基にすると…といった解法ですが、一番将来に起きることを分析し、その分析結果を基にその直前に起きることを分析し、と後ろ向きに過去にさかのぼって問題を考える方法を「後ろ向き帰納法」と言っています。
 ここでも「ゲーム理論入門の入門」の例を挙げます。
 一風堂がアメリカ・バークレーラーメン界で断トツの人気店ですが、ここに、博多天神が出店を考えているというケースについて説明されています。
 博多天神が出店しなければこの地域では一風堂の独り勝ちになります。仮に博多天神が出店した場合にどれくらいの利益が見込まれるかは一風堂の反応にかかってきます。一風堂が積極的な値下げ攻勢を仕掛けてきたら、低価格での競争を強いられ初期費用を回収できなくなってしまいます。しかし、一風堂が高値をキープして共存を目指したなら、博多天神も値段を高く設定することができ黒字を出すことができます。市場に参入すべきかどうかという問題は、新規事業を立ち上げる時にはたいてい既存企業がいるもので、その既存企業の反応を予想しながら事業立ち上げをすべきかを考えなければなりません。
 まず後ろ向き帰納法で、一番将来に起きることを考えます。それは、一風堂の意思決定の問題です。一風堂には「値下げ攻勢」と「高値キープ」の選択肢がありますが、値下げ攻勢を仕掛ければ赤字化する危険もあり、一風堂の意思決定としては「高値キープ」ということになります。博多天神はもし出店しなければ利潤ゼロなので、一風堂の意思決定が「高値キープ」と予想されるのであれば、出店すれば黒字となり、博多天神のベストな反応は「出店する」こととなるのです。
3.タカハト・ゲーム
 ここではトム・ジーグフリード著「最も美しい数学 ゲーム理論」(文春文庫)の例を挙げます。「最も美しい数学 ゲーム理論」は、ゲーム理論の基礎を説明したうえで、生物学、経済学、社会物理学、グラフ理論、量子力学、確率論ときわめて幅広い分野でゲーム理論を取り扱っています。
 とくに興味深いのが、進化について、「ゲーム理論を使えば、生命体が生態系からの攻撃を生き延びて子孫を作り、その戦いを未来の世代に引き継がせるために様々な戦略を使うさまが説明できる」としている点です。つまり、生物の多様性もゲーム理論で説明できるというのです。
 そして、巧妙かつ単純な生き物同士の闘争ゲーム「タカハト・ゲーム」で説明します。鳥しかいない世界で鷹のように(攻撃的で餌を巡って常に戦う)こともできれば、鳩のように(穏やかで餌を巡って争わない)ふるまうこともできます。適者生存(勝者生存)で、全員鷹のようにふるまうことが最良の戦略かと言えばそのようなことはなく、全員鷹のようにふるまうことは「進化的に安定した戦略」ではないのです。鷹と鳩とがある割合で共存することが進化的に安定した戦略となるのです。このように多様な生物が存在・共存する世界が進化的に安定しているというのです。すると、最良の混合戦略は、例えば3回に1回は鷹のようにふるまい、3回に2回は鳩のようにふるまうのがベストの戦略となるのです。
 このことはビジネスにおいても当てはまります。企業やそこから生み出される製品やサービスも生命体と言ってよく、企業や製品・サービスの多様性もゲーム理論で説明できます。また、様々な行動戦略の中で、鷹のようにふるまうのか鳩のようにふるまうのか、ゲーム理論を使って検討できるのです。もっと言えば、競争地位としてリーダー、チャレンジャー、フォロアー、ニッシャー(鷹と鳩の2つではなく4つの地位)がありますが、どのような地位でどのようにふるまいどのような行動戦略をとるのが最適かがゲーム理論を応用すればわかるはずです。
いずれにしても、色々な分野がゲーム理論によって説明できるというのは面白いことだと思います。
なお、上に上げた本の他に、逢坂明著「ゲーム理論トレーニング」(かんき出版)という本もおすすめです。この本は、ゲーム理論を実践できるように96問のトレーニングを紹介しています。96問のトレーニングを自分の頭で考えることで、自然と戦略思考が身につくように工夫されています。ゲームや勝負には相手がいます。勝負に勝つには、単純な足し算だけでなく、駆け引きや頭脳プレーが必要です。この駆け引きや頭脳プレーを教えてくれるのがゲーム理論です。日本人は、政治や外交、ビジネスにおいても駆け引きが下手です。
これからは、ゲーム理論を学びそれを応用してビジネスの世界で役立てるべきでしょう。
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