祇園祭という神事

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コラム
7月の中旬は祇園祭が全国で行われる。
祇園祭は「御霊会」と言って、「お盆」と同じくご先祖様を祀る行事であると共に、「感染症」や「伝染病」に対する予防や未病・注意喚起といったような、病気予防の性格を持つお祭りでもあるようだ。

集中豪雨や梅雨の長雨などの活発なこの時季日本では、河川の氾濫や決壊・土石流などといった言葉が、毎年のように場所を替えながら発生し、聞くことになる。それだけ夏直前のこの時季は、日本では水害が繰り返されるがそれは日本の地理的環境に由来している。
幸いなことに今年は例年ほどの被害は発生していない様であるが、大雨の災害は日本に暮らす以上避けて通ることは出来ない・・。

以前私はある物語の取材のために新潟の上越地方を訪れたのであるが、やはりかの地にもしっかりと祇園祭が根付いていた。

上越の湊町「直江津」には「越後府中八幡神社」や「八坂祇園神社」といった神社が在り、そこでも「直江津祇園祭」が行われている。(現在の名称は「上越祭り」と言っているが、地元の人は「祇園さん」と言っている)コロナ禍の前は、盛んにおこなわれていたという。

直江津は上越を代表する湊町で、今から5・600年前の室町時代ではすでに「三津七湊」と呼ばれる日本を代表する湊の一つであったという。
かの『安寿と厨子王』の物語の舞台はこの直江津だということだ。

この直江津は、現在は「関川」と呼ばれている大河が、日本海に注ぐ場所であり、関川はかつて「荒川」と呼ばれやはり暴れ川として有名だったらしい。

長野県との県境の妙高山系に降り注いだ、長雨や集中豪雨・台風などがこの川から大量に流れ込むわけである。この河川が「荒川」と呼ばれたその名の通り、昔から大きな水害に見舞われる街であったのだ。

直江野津.gif


直江津にはこの関川だけでなく「保倉川」や「飯田川」といった、主として「米山」山地などの上越の北側に位置し、中越との境になる山々から流れ込む川が幾筋も在り、やはり暴れ川であったという。
それらの河川が会し、集中する場所が直江津近郊であったというわけだ。

そのような地理的背景があって、あばれ河川の集中するこの街には「直江津八坂の祇園神社」が在り、雨の多い梅雨のこの時季に「祇園祭」が行われているのである。

そして同じことが本家の京都祇園神社の祇園祭(=御霊会)にも言うことが出来る。
周囲を比叡山や北山・東山等の山々に囲まれた山城(背)之國京都では、梅雨の時期には高瀬川や鴨川・桂川・宇治川・木津川といった河川がたびたび氾濫し、市中の人々に大きな被害や犠牲をもたらせて来た。

そして、その氾濫や水害に伴って感染症や伝染病といった疫病が広がり、そこから更なる二次被害や犠牲者が発生してきた歴史を持っている。

京都の祇園祭はちょうどこの7月の中旬に 二度にわたって催されるが、それはこの時期の集中豪雨と深いつながりがあるからなのである。
集中豪雨による河川の氾濫が起こる事や疫病が発生する事を、祭りといった季節の行事とする事で、住民たちに注意を喚起する、という目的もあったのだろうと思われる。

祭りの準備期間から本祭までの諸々の行事を通じて、これから直面する確率の高い集中豪雨への、意識付けや備えの予告といった効果を狙った事も、あったようだ。
と同時に、かつて河川の氾濫や感染症等の疫病によって亡くなられた親類や縁者の、鎮魂のための御霊会という側面を持つのだ。

そんなこともあって祇園神社の祭神としては、スサノウノミコトや蘇民将来という、伝染病に打ち勝つ霊力を持った神様たちが祀られているのである。

京都祇園祭.jpg


また福岡博多の山笠という名の祇園祭なども、この時期にそういった集中豪雨に依る災害が勃発する可能性や、そこから派生する確率の高い疫病の発生を思い起こさせるのであろう。
那珂川といった河川の河口域であり、「三津七湊」の一つである「博多港」の在る湊町博多は上越の直江津と同じ地理的構造を有しているのである。

その意味では祇園神社(八坂神社)が祀られ祇園祭の行われている地域というのは、かつて集中豪雨などによって河川の氾濫が起こりやすく、その後の疫病の被害に見舞われた、という歴史を有する地域であったという事を、知ることも出来る。

という事は自分の居住地域に祇園神社や八坂神社が在り、祇園祭の風習が残っている地域住んでる人達は、「祇園祭」という祭りを通して先祖が残してくれた警告に思いを馳せ、自分の生活区域は自然災害がいつでも起こりうる地域である事を自覚する必要があるだろう。

と同時に、大雨に見舞われる可能性が高い時期には、常に災害から身を守るために備える準備があると、考えたほうが良さそうである。

日本全国に鎮座する「八百万(やおよろず)の神」や「神事」には、そう言った先祖や先住者が残してきた知恵や警告の、記憶や記録の一つという側面も持っているのではないか、と私は想っている。

因みに今年の京都八坂の祇園祭は「先祭」が7月17日で、「後祭」は7月の24日だそうだ。
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