あるとき人類は、ずっと先の、はるかに高い空に行くと決めました。
きっかけは宇宙人の来訪でした。
たったひとり、最新鋭の宇宙船で地上に降りてきた宇宙人は、地球にないさまざまな技術を、呼吸をするようにたやすくやってのけました。
人類はびっくりです。
魔法だという人もいました。
侵略だという人もいました。
けれども宇宙人は親切でした。自分たちの技術を、当時の人類の知的認識でもわかるよう、懇切丁寧に教えてくれたのです。
人類は、だんだんと宇宙人に傾倒していきました。
どこからきたのかと尋ねると、宇宙人は上を指さしました。
はるか上には、うつくしい世界が広がっているのだと、宇宙人はいいました。
そのとき人類は決めたのです。
いえ、決めたということばは正確ではありません。
人類は、知ったのです。
そのうつくしい世界に、いつか我々は行くだろうということを。
宇宙人は、そのために地上に遣わされたのだということを。
人類は宇宙人に、さまざまなことを学びました。
それは喜びでした。
長年の人類の課題をあっさりと解決する機械。
効果的な政治システム。
未来予知に近い技術もありました。
宇宙人が着陸した土地を中心に、未来都市の建設が始まりました。
多くの人が集まり始めました。
けれど、一部の人類は、その進化に否定的でした。
これまで受け入れてきた常識が丸ごと更新され、急激に社会が変化していくのに、ついていけないものや、危機感を抱くものが現れはじめました。
そうして、彼らは宇宙人を攻撃しはじめました。
宇宙人は、彼らに対しても、懇切丁寧に、自分の知識を教えてあげようとしましたが、聞く耳を持たない彼らに、説得は無意味でした。
諦めた宇宙人は、最新鋭の宇宙船に乗り込み、地上から去っていきました。
残された人類は途方に暮れました。
都市はまだ半分も出来上がっていません。
この先の作り方は、まだ教わっていませんでした。
人類にはどうすることもできませんでした。
宇宙人が去ったあとの、作りかけの都市は、あっという間に廃墟になってしまいました。
けれど、そんな廃墟で、諦めずに研究を続けるものたちもいました。
彼らは、宇宙人の残した技術の解読を始めます。
そして、未来都市の建設予定地に、ひとつひとつ、建物を作り始めました。
まだ宇宙人が戻ってくると信じて研究をする人もいれば、
地球を捨てた宇宙人を恨んでいる人もいました。
宇宙人を追い出した人類の愚かさを悔いている人もいました。
でも、どんな人も、これだけは意見が一致していました。
宇宙人が指さした、はるか高い空へ。
彼らは信じていました。
宇宙人に様々なことを教えられた人類は、きっともう、自分の力で上に行けるのだと。
彼らは、都市の中心、つまり宇宙船が降り立った場所に、
大きな施設を作り始めました。
それは宇宙エレベーター。
いつか高い空で、宇宙人のいう「うつくしい世界」をこの目で見るために、長い長いエレベーターを作ります。
どれくらい上なのかはわかりません。
だから、たどり着くまで、作り続けると決めました。
きっとそこは素敵なところでしょう。
自分たちの力でたどり着けたら、きっと何倍もうつくしく見えるはずです。
その空には、もしかしたら、最新鋭の宇宙船が浮かんでいるかもしれません。