ビルの上にはモガがおりました。
モガはたいへん退屈しておりました。
そこにおりなさいと言われてからもう何年も、ずっと通りを眺めるだけでしたから。
昼時にはサイレンが鳴りました。
これがたいへんうるさいのです。
モガの隣でびりびり泣き喚くものですから、右耳だけおかしくなりそうです。
モガの座るのは、黄色の紙で丁寧に包装された、なんだか大きな箱でした。
この箱は少しばかり強度が足りないのか、
また座り心地が悪いのです。
モガは通りのひとびとの目を盗んでは、そっと座り直したり、足を組んだりしておりました。
モガはこのまちをなんでも知っていました。
いちばん高いこのビルからは、なんだって見えたからです。
でも、なんでも知っていることと、なんでもわかっていることは違うんだわ。
モガはいつからか思いました。
だからモガは、ときが来てビルが解体されるとき、
真っ先にビルから飛び降りました。
そうして、ひじょうに幼かった私のもとにやってきました。
モガは、本当は姉のところにいく予定だったのだそうです。
でも、モガは自分で決めたのです。
この話は、私のうちにいたモガが、両親に隠れてこっそり私だけに教えてくれたことなのです。