あかつきは激怒した。②

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あかつきは税務署長の元を離れ、会計ソフトのもとへと急ぎ足で走り出した。
署長は彼の背中を見送りながら、嘲笑した。「あのあかつきに確定申告などできるはずがない」と。

あかつきは開業届を提出し、独立を決意したばかりだった。
しかし、確定申告の手続きの煩雑さにすでに疲れを感じていた。
会計ソフトを購入し、青色申告の手続きも済ませたものの、専門用語が、まるで山賊のように次々と襲いかかる。

DALL·E 2024-01-23 18.30.54 - In an ancient Roman setting, a scene unfolds in the mountains. A lone man is being attacked by four bandits. The surroundings are rugged, with steep h.png

用語について調べ、記入すべき箇所を見つける作業は、まるで絶え間ない戦いのようだった。
特に難解なのは経費の計算で、何が認められるのか、どう分類すべきか、頭を悩ませた。
彼は知識不足を痛感しながら、それでも一つ一つの困難を乗り越えていった。
確定申告の期限は刻一刻と迫っていた。あかつきは、遅くまで明かりをつけて作業に没頭し、ついに期日直前に手続きを完了させた。

ほっと一息ついた彼は、王の元へ戻る準備を始めた。
心の中では、王のあの嘲笑がずっと響いていた。
しかし、自分が証明したかったのは他でもない、自分自身のためだった。確定申告の困難を乗り越え、彼は新たな自信を胸に秘めていた。



DALL·E 2024-01-23 18.41.13 - In an ancient Roman atmosphere, depict a man running at full speed during sunset. The focus is on the man's side profile, showing his desperate expres.png


路行く人を押しのけ、跳はねとばし、あかつきは黒い風のように走った。
少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。

風態なんかは、どうでもいい。あかつきは、いまは、ほとんど全裸体であった。呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。

見える。はるか向うに小さく、神戸の街並みの光が見える。
夕陽を受けてきらきら光っている。

言うにや及ぶ。まだ確定申告会場は営業している。最後の死力を尽して、あかつきは走った。

あかつきの頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。
ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。
陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、あかつきは疾風の如く申告会場に突入した。間に合った。



DALL·E 2024-01-23 18.54.58 - In an ancient Roman setting, illustrate a man inside a building calling out to someone amidst a crowd. The man is prominently featured, perhaps gestur.png


「待て。あかつきが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」

と大声で申告会場の職員にむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれてしわがれた声がかすかに出たばかり、職員たちは、ひとりとして彼の到着に気がつかない。
すでに職員たちは長机や書類を整理しようとしている。

あかつきはすでに申告を済ませた人々を掻きわけ、掻きわけ、

「私だ、職員!確定申告をするのは、私だ。あかつきだ。私はここにいる!」

と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに窓口にたどり着いた。
すでに申告を済ませた人々も職員も、どよめいた。あっぱれと口々にわめいた。

あかつきはついに、確定申告に間に合ったのである。
職員の中からも、歔欷の声が聞えた。



DALL·E 2024-01-23 19.05.21 - In an ancient Roman atmosphere, depict a man and a king shaking hands. The two figures are surrounded by a crowd that is celebrating and admiring the .png

税務署長は、職員の背後からあかつきの様子を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに近づき、顔をあからめて、こう言った。

「おまえの望みは叶かなったぞ。おまえは、わしの心に勝ったのだ。納税とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえの仲間の一人にしてほしい。」

 どっと職員の間に、歓声が起った。

「万歳、署長万歳。」

 ひとりの少女が、緋のマントをあかつきに捧げた。
あかつきは、まごついた。そばに居た職員は、気をきかせて教えてやった。

「あかつき、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、あかつきの裸体を皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」

あかつきは、ひどく赤面した。






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