逢瀬 その23

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小説

※(21) 過去に掲載したものを、改正して再投稿。

【短編集(シリーズ)より】


本文


 妙な興奮がさめやらぬまま、帰宅した神津は
頭を整理するために、一睡も出来ずに朝を迎えた。














出社するなり、


一番に、本田部長から社内メールで呼び出しが掛かった。


神津は、もう話が漏れたのかと疑いながら、
営業部長室のドアをノックした。


本田は 
未だ、外套を着たままで、机上パソコンの社内メールをチェックしながら手招きで、神津を机の前に促す。

オーバーコートを脱ぎながら


昨日、島崎会長の道楽個展に行ってくれたのだな。

と尋ねてきた。


はい。思ったより、見事な技量の力作ばかりで、ご盛大な御様子でした。


美鈴の水彩画を思い出しながら答えた。

うむっ、その君が何故、美人女性と銀ブラしていたのかな。目撃した者が、ご注進してくれたぞ。未だ、眼が赤いようだが、鬼の居ぬ間の洗濯かな、女遊びも程々にな。

と茶化すように、イヤミ無くたたみかける。

神津は、しまったと思った・・。


美鈴と歩くことで、すっかり舞い上がってしまっていたが、通行人の中に、社内の者が居たに違いないのだ。

これからは周囲にもっと気を配らねばと思い直した。

神津は深呼吸してから・・


実は、そのことについて重大なお話がございます。


と、本田に詰め寄った。



神津の、ただならぬ気配を察した本田は、島崎からの個展の招待状に 一番信頼できる部下をよこしてくれとの、添え書きが有ったことを思い出し、やはりあの爺様は・・何か仕込んだな、と直感していた。




立ったままでは何だ…そこにかけたまえ。


そう言って、カシミヤのオーバーコートと黒色のダブルの背広を脱ぎながら、机の脇の応接セットを示した。


神津が座った斜め向かいに、本田も腰を下ろした。

聞こう。何があった。








神津が、

昨晩の島崎とのやり取りを一通り説明すると・・




さすがに、本田もみるみる顔色が変わり、熱くもないのに、ネクタイを緩め・・プラチナのカフスをテーブルの上に投げ捨てた。

オーダーメイドのシルクのワイシャツの袖をまくり上げ、


そうか…話は分かった。君は、部署に戻って普段通り仕事に掛かってくれ。くれぐれも他言無用にな。


と、念を押し、手で神津に退室を促し机に戻ると、

不器用な太い指で、極秘社内メールを打ち出した。










その日のうちに、秘密裏に昼食会を兼ねて、部長以上の緊急取締役会が開かれた。午後には取引銀行の、頭取クラスの要人も招かれていた。



※この話はフィクションです
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