感想例「メイクアップ」太田忠司作

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コラム
 ストーリーが面白いです。日常的な物語から入り、顔だけになってしまう非日常世界で終わりました。読み終わると、主人公は中年男性でよかったと思いました。女性や若者にも共感できる内容で読者の幅を広げることに成功しているようです。いろいろな読者を意識されているようで感心しました。

 順を追ってお伝えします。冒頭。主人公は中年男性。男性用メイクアップとは? これから始まる物語に期待が高まりました。
 主人公と同じく「真の自分」という言葉にひかれ、すんなりと感情移入できました。また、主人公と同様に体や顔が凝ることに悩みがあり、共感できました。主人公を通してストーリーにひきこまれていきました。 
 マッサージのシーンが丹念に描写されていて印象に残ります。丁寧に練り上げられているのを感じました。
「鏡を見ると変わっていないようなのに、マッサージは効果的だった」と細かい設定が絶妙です。小説世界の構築が丁寧です。
 主人公の周囲が一変し、誠意にあふれて親しみやすくなりました。いままで雑に扱われてきた主人公はマッサージをやめられなくなります。ここまでは主人公がマッサージに通うだけで努力をしない、シンデレラストーリーですが皮肉を感じます。ピリリと入るのがいいですね。
 曖昧な会話をストーリーにうまく取り入れています。単に「おすすめしません」だけでなく「土台が保てなくなる」を入れて効果的です。曖昧さにじれったくて、前のめりで読んでしまいました。
 強烈なラストシーン。主人公の顔だけが浮かび上がります。「土台が保てなくなる」ってこういう意味だったのか、と驚いてしまいました。誰もが予想しないラストではないでしょうか。
「真の自分」というフレーズと「土台を保てなくなる」のフレーズの2つのバランス力が素敵だと思いました。(700字以上)。
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