光と影(終)

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コラム
あんた、そのサンドウィッチは売り物かと聞いて来た。
これは自分が食べる為に作った物だと言った。
良かったら一つ、そのトーストにウィンナーとレタスを挟んだホットドッグを売ってくれないか握り飯は夜釣りの為に持って来たが夕べ食べてしまって今腹が減っている。
サンドウィッチとホットドッグの違いなど構わない人の様だがどうでも良い問題だ。
早川は三つ作っていたのでその一つを取って、無料で良いですよと言った。
釣り人は500円玉を早川の手に強引に握らせて礼を言いながら自分の車に戻って行った。
これはひょとしたら、これで此処で商売になるかもしれないと直感した。
釣り人は三度の飯よりも釣りが好きだ。
だから一晩中釣りをしても飽きない。
夜食を持って来ているにしても夜の内に食べてしまって無い。
猛烈に腹が減るのは夜よりも寧ろ早朝だろう。
そんな時に熱い、うどん、ソバ、パスタなどが有ればきっと飛ぶように売れるだろうと思った。
善は急げだ。
早川のポケットにはもう残り少ないお金しかない。
このまま、海に車ごと飛び込んで死のうかと思って居たのだ。
どうにでもなれと覚悟を決めた早川は又、量販店に向かった。
今度は鍋やフライパン、調味料、水タンク、調理器具、箸、プラスチックどんぶりなどを最低限買い揃えた。

その翌朝同じように夜釣りの人達の車が停まっている。
早朝4時頃から調理を始めた。
調理の腕は社宅に居た時に覚えたものだ。
自炊の社宅だった。
早川は先ず、うどん、ソバを作った。
出汁は粉末の煮干し、こんぶ、シイタケを使い、それに薄口しょうゆで味を調えた。
味見してみると、凄く美味しかった。
これなら、売れると言う確信が沸いて来た。
軽ワゴンのドアを全開して車のボディに紙をはり、うどん、ソバ350円と書いて準備した。
待つ事もなく様子を感じた夜釣りの人達が集まって来た。
昨日、サンドウィッチを買ってくれた、ヒゲ面の大将も居た。
うどん屋を始めたのかい、
こんな時間にこんな場所で熱いうどん、ソバが食えるなんて嬉しいよと感激した様子で釣り人達が買ってくれた。
握り飯は無いのかと言われて次回は握りもメニューに加えようと思った。
仕事が仕事を教えて呉れるとはこの事だと思った。
躊躇しないで飛び込む時に仕事が要領を教えて呉れる。
やる前にどんなに考えてもダメだ。
ジョギングの人も帰り際にソバを食ってくれたし、早朝の散歩の人からはコーヒーは無いのかと聞かれた。
明日はコーヒーやコーラも用意しようと思った。
早川は忽ちお金に少しの余裕が出て来た。
一月ばかり経った頃に保健所の役人が来て、あなたは保健衛生業務法に抵触している不備な点が沢山あるから今すぐに商売は禁止すると、お上の威光で抑えつけられてしまった。
俺は、死ぬか生きるかの瀬戸際なんだ、公務員のように良い給料とボーナス各種社会福祉に護られて、ヌクヌクと生きているあんた達とは違うんだと言う憤りを感じた。
公的機関の建設費用、給料、ボーナス、役人の制服、エアコンの電気代、紙代、全ての費用は俺達が払ったお金で買ったものじゃないか。
俺だって今目の前で文句を言っている保健所の役人が乗って来た公用車のタイヤ代くらいは払っているのだ。

しかし早川の心は晴れていた。
この感触経験を生かして次回はもっと、でっかい事をやってやるとアドレナリンを大量に分泌させて岸壁を後にした。


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