「絆の証―自動車整備工が見た、命と優しさの絶妙な融合 パート9」

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義男、調子はどうだと言いながら休憩室に社長が入って来た。
丁度昼飯を食べ終わって横になってスマホで自分のYouTube配信のナミちゃんを見ていた。飼い主から見ても可愛い。視聴者がうなぎ昇りになる譯だ。
先輩の西村は近所の中華屋さんへ昼飯を食べに行っていた。
あ、社長。
義男、お前今年は絶対に整備士1級試験に合格しろ。
今年で三回目だ。
ずっと落ちている。
お前は2級の整備士の免許は有っているが、やっぱり1級の方が断然いい。
陸運事務所の車検申請の時も役所の手続きの時も1級と2級では箔が違う。
この自動車整備工場にしても1級整備士が居ると言う事が良い信頼性をお客に持たれるのだ。
だから今年こそは絶対に1級整備士の資格試験に合格するのだ。
受験に係る一切の費用は会社が負担するから頑張ってくれ!
1級の資格手当も支給するぞ。
と言った。
義男:俺1級の合格には自信がありません。
先輩の西村さんが取ればいいのに。
社長:あれはダメだ3級の資格も取れない、仕事中もどうもサボり気味だ。
俺が見ている事も知らないで手にオイルが付いた儘、隠れて饅頭を食っていやがった。
だから義男頼むぞ。
社長、華厳の滝の旅行のお土産ありがとう御座いました。
名物の湯気ゆばまんじゅう、迚美味しかったです。
1級取ったら連れて行ってやるぞ
と言って社長は休憩室から出て行った。

義男は半ば1級の整備士の国家試験を取るのは諦めていた。
1級も2級も俺には余り関係が無い。2級持っていれば十分だと思うのだ。
社長は会社の信用の為にと言うが俺にはどうでも良い事だ。
一年目は一所懸命に勉強して落ちた。二年目も頑張って勉強して落ちた。今年はもう受験する気は無く勉強は殆どしていない。
現代の車はメカだけの構成、構造物では無く電子制御満載の装置がタイヤを付けて走っているようなものだ。
だから社長が整備士の試験を受けていた頃の内容とは全く違う。
当時は電子の問題など全然出題されていなかった。現在はどうだ。電子回路の理論とメカに連動する理論、三相交流モータ回転トルクの滑り率計算式、三角パルス制御、回生ブレーキ発電制御理論、誘導起電力、リチウム電池の充放電率など複雑多岐に亘って出題される。それに物理の数式など微積分、3乗根を使った計算式も出題される。1級の自動車整備士の国家試験に合格するのはかなり厳しい。

義男はこの先ずっと受験しないと決めていたが、さっき社長があんな事を言って来たので気分が憂鬱になった。
今年は全く勉強していない。100%無理だろう。
仕事が終わり会社の専用駐車場に義男の愛車カローラスポーツハイブリッドの所に行く時は隣の美容院の前を通る、大きな一枚ガラスの入り口の扉越しに中で仕事している、かずちゃんの姿を見るのが好きだった。
相変わらず可愛いなぁかずちゃんは。と心の中で呟きながら通るのだった。

夕飯を食べ終わってからいつものようにナミちゃんと遊んでいたが、昼間社長から言われた今年は絶対に1級の免許を取れと言われた事を思い出した又気分が憂鬱になった。
今年はまったく勉強していないのにあんな難しい問題をクリアして合格できる譯が無いじゃん。
そんな思いに耽ってナミちゃんと遊ぶ手を疎かにした時に、脳裏に疑問のような感覚を感じた。
何かを問われているような感覚だ。言葉では無い。感覚だ。
その感覚を人間の言葉に翻訳すると、”どうしたの” と言う言葉になった。
ナミちゃんが俺をジッと見つめている。

義男とナミちゃんと ついでに社長から一言
最後まで読んでくれて有難う
パート1から読んでね(^^♪


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