よく、「株式トレードはゼロサムゲームだ」などと言われます。株式を買う行為の裏には必ず、株式を同じ価格で売るという行為が同数存在するため、そのように言われているのですが、これは実は正しくありません。
これは、「短期トレードにおいては」という条件下で近似的に成り立つものであり、「ゼロサムゲーム」という言葉が独り歩きして、「株式トレードはギャンブルである」などと言う識者が少なくない現実には、嘆かわしさすら感じます。
株式トレードがゼロサムゲームであるということは、株式の時価総額が上場以来変わらない、ということになりますが、これが間違いであることは明らかです。
上場来、多くの株価は上昇しています。それに従って、時価総額もまた上昇します。時価総額が上昇するということは、新たな資金が流入していることに他なりません。
この新たな資金の流入という現象を、市場のエネルギーが増加したと捉えてみることにします。新たな資金がエネルギーの増加分に相当します。
この資金は、「(流入後の株価-流入前の株価)×発行済み株式数」ということになります。すると、市場のエネルギーとは、「株価×株式数」に比例したものと定義することができます。
この比例定数をGとおくと、「市場のエネルギー=G×株価×株式数」ということになります。さて、この関係式を見ると、これが物理学における位置エネルギーを表す式と同じ形式となっていることに気が付きます。
すなわち、「市場のエネルギー=位置エネルギー」、「株価=高さ」、「株式数=質量」、「G=重力加速度」と置き換えてやれば、これらは同じように扱えることになります。
そうすると、例えば「速度」に相当するものも考えることができるでしょう。
「速度」とは、「単位時間当たりの位置の変化」のことですから、これを株式に当て嵌めてみると、「単位時間当たりの株価の変化」に他なりません。すなわち、「株価のボラティリティ=速度」ということになります。
そうなると、「運動エネルギー」に相当する株価の「変動エネルギー」なるものを定義することができます。物理学における運動エネルギーは、「(1/2)×質量×速度の2乗」で定義されますから、「変動エネルギー=(1/2)×株式数×ボラティリティの2乗」ということになります。
ここまで目を通してきて、市場のエネルギーなどというものを考えることに、何の意味があるのかと思われるかもしれません。
「位置エネルギーと運動エネルギーの和は不変である」という「エネルギー保存則」に倣って、「市場エネルギーと変動エネルギーの和は不変である」という"法則"を仮定して、そこから市場の動きを読もうという試みが考えられそうです。
しかし、それとて単なるこじ付けに過ぎないのかもしれません。
結局のところ、位置エネルギーや運動エネルギーのような物理的な実在に対し、株式市場におけるエネルギーというものは、便宜的に考えた虚像に過ぎないかもしれません。
しかし、それを現実の株式市場に当て嵌めて考えることにより、株式市場というダイナミックな動きの中には、巨大なエネルギーが渦巻いているということを実感しやすくなります。
この実感を持てるかどうかが重要であり、株式市場はけして「ゼロサムゲームの賭博場」ではないのです。絶えず資金というエネルギーが流入し、それが株価を変動させ、その結果株価が上昇するという巨大なサイクルを描いている、「価値創造の工場」なのです。
私たち投資家は、それが短期トレーダーであろうと長期投資家であろうと、等しく市場に参加しエネルギーの変換を担う工員なのです。そして、可能であるならば、私たちは市場から報酬を得ることで、価値創造のサイクルを将来にわたって回し続けていく役目を担っているのではないでしょうか。
しかし、残念ながら、多くの投資家が市場からの退場を余儀なくされている、重い現実があります。そのことを捉えて、「株式市場は賭博場である」と言うことは簡単ですが、それはあまりにも早計ではないでしょうか。
市場のエネルギーは、確実に増加し続けています。それならば、少しでも多くの人々が市場から報酬を得ることができる方法が存在しても、おかしくないのではないかと思うのです。
それは、単なるトレード必勝法ではない、国家や国際社会をも巻き込んだ壮大な市場エネルギーの生産・分配サイクルであるべきではないかと考えます。
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