キス―された。
いきなり抱き締められ、抵抗する間も無くキスされた。
拒絶なんてしなかった。
された後だって―しなかったのに。
「…んでっ」
「えっ…」
「何で抵抗しないんだよっ! キミは!」
…と怒られてしまった。
「はあ…。すみません」
「何で謝るんだよ! オレは謝ってほしいわけじゃない…!」
そう言って、再び強く抱き締められる。
息も出来ないほどの強い抱擁は、イヤじゃない。
だから抵抗しない。
彼とは、近隣の高校の生徒会の交流会で知り合った。
彼は有名私立の生徒会長。明るく行動的で社交的。
自分とは正反対のタイプだと、一目で気付いた。
自分は生徒会書記。無口で、人付き合いがヘタなタイプだった。
人はキライじゃない。
けれど人の心は複雑過ぎて、分かりにくかった。
だから距離を置いていた。
なのに彼はどんどん自分の領域に入ってきた。
不思議とそれをイヤとは思わなかったので、そのまま受け入れていた。
だけど今日、交流会が終わった後の生徒会室で、いきなり彼に抱き締められ、キスされた。
「もしかして…他のヤツにもこういうこと、させてる?」
「する人なんて、あなたぐらいなものですよ」
そう言って、彼の背に手を回した。
熱い体―。
冷たい自分とは、何もかも正反対だ。
「じゃあ、何で抵抗しないの? イヤじゃないの?」
「イヤでは…無いですね」
イヤならとっくに張り倒している。
これでも武道有段者だ。
「イヤじゃないなら、何?」
少し体を離して、顔を覗き込んでくる。
あまり見たことの無い必死の表情。
何故そんな顔をするのか、自分には分からない。
「あなたこそ、何故自分にこんなことを?」
「そんなのっ、決まっているじゃないか!」
…決まっているのか?
「キミのことが好きだからだよ!」
「好き…」
好き…というのは、個人的意見だろうか?
「好きなんだ、キミのことが。誰にも渡したくない、誰にも譲りたくないぐらいっ…! 出来れば誰にも見せたくないよ」
切なそうに囁く彼は、真剣だ。
そのせいか、胸の辺りがじんわり熱くなる。
彼の熱がうつったのか?
「キミは…オレのこと、好き? 好きじゃないなら、今すぐ逃げて。逃げないならもう二度と離さない…っ!」
そう言ってまたきつく抱き締められる。
目も眩むような抱擁に、けれど心が満たされる。
―もしかして、これが愛という感情だろうか?
今まで感じたことのない感情だ。
この感情はイヤじゃない。
このまま…感じていたい。満たされていたい。
「…良いですよ」
「えっ?」
びくっと彼の体が震えた。
「あなたなら、大丈夫です。このまま愛してください」
「…言うね。もうホントに二度と、解放しないから」
「ええ、構いません」
彼と自分は間近で見つめ合った。
「どうぞ自分の全てを愛して、離さないでください」
「キミはっ…!」
何かを言おうとした彼だったが、すぐにキスしてきた。
離れないよう、きつく彼を抱き締めた。