日本のエネルギー政策改善のための提案

記事
ビジネス・マーケティング
※記事の執筆が2015年ですので、古い情報によって書かれています。あくまでサンプル記事としてお読みください。

①記事の概要                                     

2011年3月11日の東日本大震災で、日本の原子力発電所の安全問題が取り沙汰されるようになった。そのなかで、欧米諸国の電力供給にかんする対応は今後の日本のエネルギー政策について思案するうえで、参考になるだろう。今回は、日本の電力事情を簡単に整理し、それに似た歴史的経緯を持つアメリカ合衆国の対応を紹介する。

②ベストミックス                                     

ベストミックスという観点から、日本の電力供給の歴史と現状を整理してみよう。ベストミックスとは、火力・水力・原子力などの発電方法を最適なバランスで組み合わせることを言う。日本はエネルギー資源に乏しいため、このなかでも原子力発電を重視してきたという歴史的経緯がある。原子力発電が占めるエネルギー原の比率は、二度にわたるオイル・ショックによって戦後上昇してきた。1998年の電気事業審議会の報告は以下のようなものだった。
・供給安定性、経済性、環境特性、各電源の運転特性等を踏まえて中長期的観点から最適な電源構成を目指さねばならない。
・とくに原子力については燃料供給と価格の安定性、CO2を排出しないという環境特性等を考慮して、ベース電源の中核を担う電源として、位置づけ、安全確保に万全を期しつつ開発を推進すること。
・また、石炭火力、LNG火力、水力、地熱についてはそれぞれの特性を生かしながら適性量の開発を進めること。
・石油火力については石油依存度の低減を図りつつ、老朽設備のリプレースに合わせた高効率化等を推進すること。
・さらに、太陽光・風力発電といった自然エネルギーは気象条件に左右され、安定した出力が期待できないこと、現時点ではコスト高であることから、電力供給力としては補完的な位置づけになるものの、CO2排出等の観点で優れいているので、導入促進を図ること
 以上が報告の一部要約ではあるが、この議論は十数年変わっていない普遍的な考え方だといえる。すでに各電源の特性については1998年の時点である程度まとまっていたのである。そこに発生した福島第一原子力発電所の事故によって、原子力依存の電源構成から脱却しようという意見も目立つようになった。それでも、結局のところは原子力発電所の多くを再稼働させるような動きは随所にみられるものである。長い年月をかけて形成されてきた原子力依存の構造を変化させるのは、そう簡単ではない。

③節電の限界 

現在でも各個人や施設が、節電することで、電力不足を補おうと呼びかける報道は多い。例えば、2015年7月2日、日本経済新聞は「節電を続けやすくする仕組みを広げよう」という見出しの記事を掲載した。
震災後の電力供給の不安はいまだに解消されておらず、景気回復で電力需要を絞り、無理のない節電を促す仕組みを広げるべきである。供給余力を示す「予備率」は九州電力がマイナス3%、関西電力が1%弱にとどまる。両者は安定供給の3%をほかの地域からの融通によって確保するという。東日本では、予備率は5%~11%である。電力各社は震災後、老朽化した火力発電所をフル稼働させて急場をしのいできた。それが5年目を迎え、事故やトラブルによる急停止が増えている。不足の事故が起きれば大停電につながりかねない。
しかしながら、市民一人ひとり、あるいは施設ごとの節電の効果には限界がある。電力供給のシステムそのものを見直すべき時期であるということは、明らかではないだろうか。

④スマートグリッド  
そこで、アメリカ合衆国のスマートグリッド(次世代送電網)について取り上げたい。一般的には、電力の流れを供給側・需要側の両方から制御し、最適化できる送電網のことを言う。原子力発電に依存しながらも、日本では長い期間高品質な電力が提供されてきたために、スマートグリッドについて検討の必要性が認識されていなかった。しかし、何度も触れている通り、東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故によって、電力供給不足が顕在化したことで、スマートグリッドの導入が議論されはじめている。ただし、議論は始まったばかりであるために、根本的な理解が不十分なままというのも現状である。
合衆国における電力事情の歴史的な経緯から説明しよう。同国では、2001年カルフォルニアの電力不足や2003年のニューヨーク大停電によって、安定した電力供給が積極的に取り組むべき課題として浮上した。そもそも合衆国独自の問題として、多数の電力会社が存在することで、過当競争が発生していた。過当競争のために、各電力会社が送配電設備のコストをカットした結果、設備全般における老朽化が進んだところに、上記のような停電が引き起されたのである。
この合衆国の電力供給の問題に対処するために、様々な施策が検討された。そのなかで、「米国2007年エネルギーおよび安全保障法」(EISA2007)が制定されるに至ったことで、スマートグリッドの考え方が政府の政策として初めて表舞台に出てくることになった。2009年11月には、NISTが業界の多くの関係者を巻き込んで、SGIPを設立した。SGIP(Smart Grid Interoperability Panel/次世代送電網相互運用性パネル)は、
ビジョンとして、
・さまざまなエネルギー源を安全でインテリジェント、かつ効率的に統合することによって個人の生活の質を高めること
ミッションとして、
・顧客にエネルギー利用の権限を与え、持続可能なエネルギーの未来を実現するため、教育と相互運用性や標準規格の推進を通して、電力網の最新化とエネルギーIoTの発展を加速させること
を掲げている。
2013年1月からは、NISTを軸とした「官民の協力体制」から産業界手動のNPOへと移行し、引き続き、スマートグリッド技術の標準化活動を行っている。
福島第一原発での事故をきっかけに電源構成の見直しが始まった日本と、カリフォルニアの電力不足問題やニューヨークの大停電をきっかけに、スマートグリッドの導入が推進された合衆国の事情は非常に似通っている。合衆国が実施したように、エネルギー政策について官民の垣根を越えて議論し、問題の解決に向けて行動する団体や組織の存在が、日本には必要不可欠ではないだろうか。
次回以降では、より詳細なデータとともに合衆国の動向について、そして日本でも同様の展開を期待することができるかについて解説します。

【補足】                                           
NIST(National Institute of Standards and Technology/米国立標準技術研究所)
アメリカ商務省に属する、科学技術分野における計測と標準に関する研究機関。ミッションとしては、経済的安全保障を高め、生活の質を向上させるような方法で測定科学、標準、および技術を進歩させることによって、米国の技術革新および産業競争力を促進することを掲げている。

サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す