「ヘイトスピーチの法規制に対する賛否」奈良教育大学教育後期2018 年

記事
学び

(1)問題


現在,日本では外国人などへの差別的なヘイトスピーチが問題になっています。何らかの歯止めが必要という点では一致し,2016年には罰則を伴わないヘイトスピーチ対策法も制定されましたが,刑事罰を課すといった法規制については賛否両論あります。ヘイトスピーチに歯止めが必要ということを前提にして,解答用紙のA欄には,刑事罰を課すといった法規制に賛成とすればどのような理由が考えられるかを,B欄には,反対とすればどのような理由が考えられるかを,それぞれ600字以内で書いてください。

(2)考え方


A欄
刑事罰を課すといった法規制に賛成の理由

① 人権教育の充実、啓発活動の実施だけで実効性が保たれるかは疑問。罰則による強制力がなければヘイトスピーチによる人権侵害を防ぐことが困難であ
る。

② 外国人に対しても基本的人権は保障される。

③ 第14条1項には、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と規定されいて、法の下の平等を保障している。この平等権などの基本的人権については国際協調主義を基本理念とする憲法の精神に照らし、国民のみならず外国人についても尊重される。

④ 日本国内で外国人に対するヘイトスピーチに対して罰則を含む厳しい対応がなされないまま放置され続けると、諸外国から非難され、我が国の国際的な地位が低下するおそれがある。

⑤ ドイツではヘイトスピーチを刑法上の「民衆扇動罪」として罰則を設けて規制している。

B欄
刑事罰を課すといった法規制に反対の理由

① 1)裁判所によるヘイトスピーチの集会等の禁止という処分によってある程度の実効性を保障することができる。
<参考>ヘイトデモ事前差し止め 地裁川崎支部が仮処分
~「朝日新聞」河井健 金子元希2016年6月3日版朝刊
 特定の人種や民族を標的に差別をあおる「ヘイトスピーチ」を繰り返す団体の主催者の男性が、川崎市で5日にデモを予定していることをめぐり、横浜地裁川崎支部(橋本英史裁判長)は2日、在日コリアンの男性が理事長を務める市内の社会福祉法人から半径500メートル以内でのデモを禁止する仮処分決定を出した。
2)個人対するヘイトスピーチは名誉棄損や侮辱罪などの刑法で対応が可能。

② 憲法の規定する表現の自由に抵触する。

第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
戦前の治安維持法や特別高等警察による思想弾圧が軍国主義を助長した我が国の歴史的事実に照らして、集会結社などの表現の自由は民主主義を守る根幹となる。

③ 罰則を設けることで強制力が生じる。将来この法律が拡大解釈されて政府に悪用される危険性がある。

※解答例はOK小論文を受講された方に配布しています。




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