IT業界を目指す上で最初に知っておきたいこと〜ITベンダーと社内IT部門

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IT・テクノロジー
よくこんな相談を受けることがあります。「IT業界で働きたいのですが、どのプログラム言語を勉強したらいいですか?」

この質問、実は答えるのが難しいんです。なぜかというと「IT業界」という言葉の定義が曖昧だし、IT業界の仕事 = プログラムでもないからです。

「IT業界」はごく一般的に耳にする言葉ですが、それが具体的に何を含んでいて何を含まないのかを厳密に問われると私も答えに困ってしまいます。そこでIT業界を目指す人のために、一般的に「IT業界」と呼ばれている業界がいかにバラエティーに富んでいるかを数回に分けてお話ししてみたいと思います。今日はITベンダーと社内IT部門の違いについて少しお話ししましょう。

ITベンダーと社内IT部門

「IT企業」という言葉は情報技術関連のサービス(ITサービス)を提供している企業を指します。同じように「IT業界」はITサービスを扱う業界を指します。しかし、「IT業界」が「IT企業」だけを指す言葉なのかというと必ずしもそうではないのです。ITサービスはクライアント(お客様)企業に対して提供されるケースもありますが、社内のユーザーに対しても提供されます。例えば社員に配布するPCを管理したり、社内メールシステムを運用したり、社内ネットワークのセキュリティを守ったりするために、多くの企業には「情報システム部」とか「IT部」と呼ばれる社内IT部門があります。マーケティング部門で広告出稿に携わっている人を「広告業界で働いている」とは普通言いませんが、「IT業界」が話題になるときには、この社内IT部門も含めて話されているケースが多くあります。先ほどの「IT業界に就職したい」と言う人の選択肢には、しばしば社内IT部門も含まれているのです。

さて、「IT企業」にはハードウェアやソフトウェアを開発して製品として販売する「プロダクトベンダー」、それらの企業が提供しているハードウェアやソフトウェアなどを組み合わせてシステムを構築する「SIer(システムインテグレーターの略で一般的にエスアイヤーと呼ばれる)」、クライアント向けにオーダーメイドのソフトウェアを開発する「ソフトウェアハウス」、ハードウェアやソフトウェア自体を販売するのではなくそれをサービスとして提供する「クラウドベンダー」などが含まれています。ちなみにここで括弧書きで書いた名称も厳密な定義があるわけではなく、人やシーンによって異なる意味で使われたりします。例えば「ベンダー」という言葉は狭義にはプロダクトベンダーやクラウドベンダーを指しますが、広義にはSIerやソフトウェアハウスなども含めたクライアント向けにITサービスを提供する企業全体を指して利用されます。今回は特に注釈がない限り「ベンダー(ITベンダー)」という言葉を広義の意味で使います。

一方、「社内IT部門」という言葉は、企業のIT部門に加え、IT子会社を指す用語としてしばしば利用されます。特にIT子会社がグループ企業以外から収益をあげていない場合には「社内IT」として扱われるケースが多いようです。ところでこれは全くの余談ですが、最近、IT部門のトップを指す言葉として「CIO(Cheif Information Officer)」という役職名がよく使われます。海外でCIOというとIT担当役員を指すことがほとんどで、役員ではなく単なる部門長の場合にはIT Directorという言葉が使われることが多いのに対し、日本では役員かどうかに関わりなくCIOという言葉が好まれる傾向があります。ITベンダーの営業現場で「CIOのXXさんは、実質IT部長だからな・・・」みたいな会話が交わされることがあるのですが、これはIT部門のトップが役員ではなく、意思決定機関である役員会に影響力を行使できないことを嘆くような場面でしばしば使われる言い回しです。

話を元に戻すと、IT業界の外から見るとITベンダーも社内IT部門も大差ないように見ると思いますし、だからこそ「IT業界」という言葉が曖昧な意味で使われるのだと思いますが、ITベンダーと社内IT部門は、同じITを扱う仕事ではあっても全く異なっています。


給与の違い

ITベンダーと社内IT部門の違いをいくつかの面から話しましょう。まずは多くの人が関心があるであろう給与面。

日本オラクル株式会社(外資系プロダクト/クラウドベンダー)
平均給与 1,073万7,692円’(2021年5月期 有価証券報告書より)

富士通株式会社(日系SIer/プロダクトベンダー)
平均給与 865万1,494円(2021年3月期 有価証券報告書より)

社内IT部門
平均給与 450.7万円(出典:doda「あの職種とはどんな仕事?doda職種図鑑 > IT/通信系エンジニアとは? > 社内SE」)

これを見ていただくと、ITベンダーの給与が圧倒的に高いことが分かるでしょう。もちろん企業の一部門であるIT部門の給与は、その会社の給与水準に従って高低があるため、一般化して語ることはできません。それでもITベンダーの方が高い給与が得られることはIT業界では常識です。ただし、データサイエンティストについては必ずしもこの傾向にあてはまらず、ITベンダーではない企業でも高い給与が支払われる傾向があります。実はデータサイエンティストはIT部門とは別部門として組成されるケースも多く、IT関連の職種の中でも特殊な仕事だと言えます。この辺りはいずれ詳しく触れたいと思います。

さて、同じITベンダーであれば外資系企業のほうが給与が高い傾向があります。しかし、外資系企業は退職金がすくなかったり、福利厚生が日系ほどは充実していないケースも多く、単純に給与だけでは比較できない面もあります。外資系、特に米国系企業は「自己責任」を強く求める傾向があり、高い給与を支払う代わりに、自分の成長のための投資も含め、パフォーマンスを発揮するために必要なものは自分で負担するのがあたりまえという風土の企業も多くあります。また、日系企業に比べるとドライで、期待されるパフォーマンスを発揮できない人は、事実上解雇に必要な「著しく成績が低い」という証拠作りのためだけに存在するようなPIP(Performance Inprovmenet Plan)と呼ばれるプログラムに乗せられ、あっさりと退職を勧告されます。

また同じ外資系、あるいは日系どうしで比較すると、一般的にプロダクトベンダーやクラウドベンダーは、SIerに比べて給与水準が高い傾向があります。これはプロジェクトのたびにコンサルタントが開発作業を行わなければならないSIerに対して、プロダクトベンダーでは開発した製品をパッケージ化して複数の企業に提供することができるので、相対的に開発コストを抑えることができるためです。こうしたコスト構造の違いは、それぞれの企業で「花形」とされる部門の違いにも現れるのですが、これはまた違う機会にお話ししたいと思います。


社内IT部門が必ずしも楽とは限らない

ITベンダーの給与が社内IT部門より高いと聞くと、「クライアント相手の仕事は社内相手の仕事よりきっと大変だろうから当然だよね」と考える人がいるかもしれません。しかし、これは必ずしも正しくありません。何を「大変」と感じるかによっては、社内IT部門よりITベンダーの方が楽だと感じる人もいます。

ITベンダーはクライアントのためにITサービスを提供しています。クライアント相手の仕事ですから、クライアントの満足なしに成功はあり得ません。これはやはり一定のストレスがかかる状況です。営業であればクライアントに自社の製品やサービスの価値を認めていただいてご購入いただき、自分に与えられた売上目標を達成するというプレッシャーにさらされ続けます。コンサルタントであればプロジェクトの度に、クライアントが求める性能のシステムを予算内で納期までにデリバリーしなければいけないというプレッシャーに直面します。その代わり、無事に売上を達成できた時、あるいはプロジェクトを無事成功させた時には、分かりやすい達成感や充実感があります。こうした仕事環境をやりがいがあると感じるか、それともストレスに感じてしまうかは、その人の性格による部分も大きいと思います。

忙しさと言う観点も考えてみましょう。ITベンダーで働いていると、クライアントの都合に振り回されて、時間が自由にならないのではないかと想像する人もいるかもしれません。確かに以前はそういう部分もありましたが、最近では必ずしもそんなことはありません。クライアントとは事前に契約書で業務内容を細かく定義してからプロジェクトを開始します。プロジェクト開始後に無償で仕様変更を求めてくるタチの悪いクライアントがいない訳ではありませんが、あくまで企業と企業の契約に基づいたビジネスですので、あまりにも滅茶苦茶な要求に対してはNoと言うことができます。ただ、プロジェクトスケジュールが遅延したり、なかなか解決できない想定外の課題が出てきたりすると、やはり残業が増えるのも事実です。大切なのは適切にプロジェクト計画を立てることで、計画が現実的なものであればプロジェクトの現場が修羅場になることもそう多くはありません。問題は「無理なプロジェクト計画」で仕事を受けてしまったような場合です。大手のITベンダーよりも中小のITベンダーの方が交渉力が弱く不利な条件で契約してしまうケースが多いため、大企業に比べて下請けや孫請けをすることの多い中小ITベンダーはブラックになりがち…というのは他の業界とも共通する課題です。ITベンダーのワークライフバランスは企業規模にも関係しています。

一方の社内IT部門はどうでしょうか? 確かに社内IT部門の場合はクライアントにサービスを提供するわけではありませんが、経営者や業務部門からの依頼に基づいてサービスを提供するわけですから、やっていること自体はITベンダーとそう大きくは変わりません。クライアントが社内にいるだけの違いです。しかし社内プロジェクトの場合、プロジェクト計画が曖昧なまま見切り発車のような形でスタートしてしまったり、社内だからという甘えもあって、後から無茶な要件追加を求められることも少なくありません。それを社内IT部門が拒否するのは簡単ではありません。社内プロジェクトのために契約書を取り交わしませんし、IT子会社がグループ会社にサービスを提供する場合でも、相手がグループ会社ということで契約内容の交渉を「なあなあ」で済ませている場合が多いので、言った言わないの議論になってしまうことが多いからです。こうなると社内IT部門の立場は弱いのです。社内IT部門は一般的に「コスト部門」と呼ばれます。コスト部門というのは企業の外から利益を獲得しない部門のことで、反対に外から利益を獲得する営業部門などは「利益部門」と呼ばれます。コスト部門は利益部門に対してサービスを提供している訳ですから決して純粋な意味での「コスト」ではないのですが、利益部門と比べるとどうしても社内での立場は弱く、無茶な要求を受け入れざるを得ず、結果として残業が続いたり休日出勤が増えるケースも多くあります。必ずしも社内IT部門が楽というわけでもないのです。

さらに社内システムというのは「正常に動いていてあたりまえ」と思われがちです。正常に動いている時に褒められるわけではないのに、システムが止まった時だけ厳しい言葉で責められたりします。また、ITベンダーの様に分かりやすい達成目標がある訳でもなく、自分の仕事のパフォーマンスについての評価基準が不明瞭だと感じるケースも少なくありません。こうした状況の中でやりがいを見失ってしまう人もいるようです。

私はITベンダーと社内IT部門の両方を経験していますが、個人的にはITベンダーの方が評価基準が明確で、達成感と充実感が感じられて、自分に向いていると感じます。しかし、ITベンダーで働くのは嫌だと感じる人の気持ちも理解できます。結局は性格傾向による向き不向きの問題なのです。IT業界を目指すのであれば、まず最初に自分の性格を分析して、ITベンダー向きなのか、それとも社内IT部門向きなのかを良く考える必要があります。


次回の予告編

今回はITベンダーと社内IT部門の違いについていくつか触れましたが、両者の違いは他にもたくさんあります。もっと詳しく知りたい方は私のサービスを購入してみてください。

さて、次回は「IT関連のお仕事」の広がりについて考えてみたいと思います。近年、ITは私たちの生活の隅々まで浸透しています。例えばマーケティングの主流は「デジタルマーケティング」に移行し、自動車は「高度運転支援システム(ADAS)」をはじめとしたソフトウェアで制御され、「メタバース」と呼ばれる仮想世界で音楽イベントが行われたり、デジタルアパレルが売買されたりしています。ありとあらゆるものがデジタル化する状況の中、もはやどこからどこまでを「IT業界」と呼ぶべきなのか、その境界線を定めることは事実上不可能です。そしてITエンジニアの活躍できるフィールドはどんどん広がっています。

もし、次回のブログも早く読みたいと思っていただけたら、「いいね」をもらえると書くモチベーションが上がって、ちょっとだけ書き終わるのが早くなるかもしれません。笑

それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました。またお会いしましょう!
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