恋愛に答え合わせはない

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なんでふられたんだろう

そう思う時がある。多少、思い当たる節があることもあれば、考えても理由が思いつかず、消化しきれない気持ちが心に残ったまま、ということもある。

あれは、7年ほど前。彼女は、32歳くらいだった。

確か、マッチングアプリで知り合ったはずだ。写真とプロフィールに惹かれて、少し熱量の高いメッセージをクリスマス前に送ったのだが、一向に既読がつかず、数週間後、諦めていたところに、返事が来た。

うれしいです。お会いしたいです

七草の節句も過ぎた頃である。

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その後は、とんとん拍子で話が進んだ気がする。

最初に会って、たくさんしゃべって、2回目に会ったくらいで結ばれたように思う。彼女は美人という訳ではなく、江口のりこさんに似た風貌で、しかも骨太でがっちりしていて、柔道でもやっていそうな感じ。都会的なキャリアウーマン風のおしゃれをしていたが、少し気負いが出ていて、「元からおしゃれな人」という訳ではなさそうだった。

ほんの短い間しか付き合わなかったし、7年も前なので、断片的な記憶しかないが、強く心に残る人であった。あの表情、言葉、忘れないだろう。強さと弱さが混在した人だった。


彼女の生き方は、すごかった。いや、尊敬できる人だった。

実家はあまり裕福でなく、家庭環境は悪かったと聞いた覚えがある。
彼女は高校を卒業後、すぐに働かなくてはならなかったが、職を転々としたあとに、当時のベンチャー企業ブームのなかで、ある小さな企業の非正規社員として働いた。最初は、「雑用係」と彼女が言う総務部の配属だった。

この「ある小さな企業」は、その後、世間を騒がせた日本有数のIT企業に成長した。総務部の雑用係だった彼女は、自分の仕事の合間や、退社後や休日などの自分の時間を使ってIT技術を学んだ。「ここに就職するまではパソコンなんてほとんど使ったことがなかった」と言っていた彼女は、数年してシステムエンジニアになり、社内の花形の部署の正社員になった。会社は急成長し、彼女は管理職にもなった。

「給料がうなぎのぼりで、社内に活気があって、みんな野心を持ってて、すごく楽しかった」と、彼女は回想していた。

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その後、その企業は、大きな事件に巻き込まれ、瓦解することになった。

彼女は、自分の努力で得た立場を、一瞬で失うことになったが、その後も彼女はIT系企業を渡り歩いて経験を積み、僕が出会ったときは、小さな企業だが、あるネットインフラ技術では他社の追随を許さないベンチャー企業の女性マネジャーになっていた。30歳を少し過ぎただけなのに、ベンチャー企業の若手にインフラ系のテクニックや、ベンチャー企業の若手社員の生き方などについて講演などもする人になっていた。

僕が出会ったのは、その頃である。
忙しくてあまり時間が取れないし、面倒くさいから、本格的な彼氏はいらないけど、たまに寂しくなるから
彼女がマッチングアプリに登録していたのは、そんな理由だった。

彼女のスペックを聞いて、「俺で見合うのか」と思ったが、なぜか彼女のほうはマスコミをかなり上位に見ている様子で、僕と出会ったことを喜んでいた。せっかく喜んでくれているので、僕はそれに乗っかったが、「たまたま今の会社に入れただけの、ただの社員記者で、個人ライターとしても目が出ない僕なんかより、自力で今の場所を手に入れた貴方の方がずっとすごい」と思っていた。

彼女は、強気の時はとても強気な人で、過去にインタビューで「ITの技術系に女性は少ないから、得できる」「女性であることで得をするなら、仕事の成功のためにそれを使って何が悪い」などと発言して、ネットを炎上させていた。よく分からないグラビアめいたインタビュー記事もある。ただ、ビジネスにおいてはファイティングスタイルなのかもしれないが、プライベートに関する限り、必ずしもそうではなく、甘えた、弱い面をもつ人だった。

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1か月半くらい付き合って、5回目のデートぐらいだっただろうか。
彼女が忙しく、なかなか予定が合わなくて、10日くらい空いてのデートだったと思う。

店は、はっきり覚えている。虎ノ門ヒルズの野菜中心の和食バルのような店である。検索してみたところ、もう今はないようだ。彼女の食生活が乱れていたので、野菜を食べさせたいと思ったのである。

彼女は遅れるというので、僕は先にお店に入って、カウンターに座っていた。
その時の様子は、ドラマのワンシーンのように色濃い映像でよく覚えている。
「遅れてごめんなさい!」と言いながら、カウンターに来た彼女の顔が、僕を見るなり急に険しくなった。一瞬のことだが、目が合ったときに眉間にしわが寄った。

僕は取り立てて何もしていない。普段通りである。鼻毛が出ていた訳でもなく、かつらがとれたわけでもなく(※注:そもそも着けてないです)、「働いたら負け」などと書かれたオタTシャツを着ていた訳でもないのだが、彼女が嫌悪感を示したのだ。思い当たることはなく、変わった様子といえば、先に飲んでいたので顔が少し赤かったくらいである。

いつも彼女は僕に対しては丁寧で、その後も丁寧に応対してくれたが、様子が全然変わっていた。非常に他人行儀になった。話にも乗ってこなかった。その後、1時間半くらい、その店で食事をして別れたのが、最後になった。何回か送ったが、僕のLINEに彼女の既読がつくことはなかった。

もちろん体の関係もあり、それまでは普通に付き合っていた。ほぼ毎日、連絡をとっていて、何気ないやりとりもしていた。にもかかわらず、これである。

すごく忙しいなか無理して来たのに、ねぎらいが足りなかった。

僕を改めて見て急に幻滅し、「こんな男か、こんな男のために駆けつけるなんてバカバカしい」と思った。

僕が想像する答えは、上の2つのどれかなのだが、答え合わせはできない。
別れたらそれっきり。特に、大人になってからの恋愛は、そうである。

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※写真は、O-DANの無料素材です。

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