#201 「遠方だとつらい」 舞台が開演直前に中止で波紋 交通費、宿泊費は請求できる?

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「遠方だとつらい」 舞台が開演直前に中止で波紋 交通費、宿泊費は請求できる?



舞台公演やスポーツの試合などが、開始直前に急きょ中止となった場合、客は主催者に交通費や宿泊費を請求できるのでしょうか。


弁護士に聞きました。
舞台やイベントなどが急きょ中止となった場合の法的責任は?
 名古屋市の御園座の舞台「千と千尋の神隠し」(6月22日~7月4日)について、6月25日の公演が、当日の開演直前に急きょ中止が発表されたとして、ネット上で波紋が広がっています。


御園座によると、中止は公演関係者の新型コロナ感染が確認されたためだとしていますが、同舞台は、5月の博多座公演でも、出演者の新型コロナ感染で当日に中止を発表した日があり、
ネット上では「遠方から来ているとつらい」
「もう少し早く中止を発表できなかったのか」
「運営方法の見直しが必要」などの声が上がっています。



 今回のように、開演直前に急きょ中止が発表された場合、客は主催者に対して、公演会場に行くまでにかかった交通費や宿泊費を請求できるのでしょうか。
佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。
交通費や宿泊費の請求は困難



Q.舞台やスポーツの試合などを中止した場合、興行主催者が法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。
佐藤さん「チケット代金の返金を求められるなど、興行主催者が法的責任を問われる可能性はあります。まず、主催者と客との間で、どのような契約が結ばれているかが問題となります。


参加規約があり、客がそれに同意してチケットを購入しているようなケースでは、原則として、規約の内容に従うことになります。
例えば、規約に『不可抗力(災害、感染症、その他…)によりイベントが開催できなかった場合には、主催者はチケット代金などの返金義務を負いません』といった条項が含まれており、実際に不可抗力が原因でイベントが中止になったケースでは、客は主催者に返金を求めることが難しくなります。


また、『(いかなる場合も)主催者はチケット代金の返金義務を負いません』といった条項が含まれていることもあります。
この場合、イベント中止の理由が正当であるかどうかにかかわらず、原則として、客は主催者に返金を求めることが難しくなります。
ただし、こうした条項は、客の利益を一方的に害するものとして、無効と判断される可能性もあり、その場合は返金を求めることができます(消費者契約法10条など)。



一方、参加規約がなかったり、イベント中止の際の返金義務に関する条項が含まれていなかったりする場合、民法の定めに従うことになり、客はチケット代金の返金を請求できるケースが多いです。
例えば、主催者と客、いずれの落ち度でもなく、イベントが中止になったという場合には、客はチケット代金を支払う必要がなくなり(民法536条1項)、支払ってしまった代金については返金を求めることができます。
また、イベント中止の理由が正当であるかどうかにかかわらず、客は契約を解除して、返金を求めることもできます(民法542条1項1号)」






Q.では、今回の「千と千尋の神隠し」の舞台のように、開演直前に急きょ中止が発表された場合、客は興行主催者に対して、チケット代だけでなく、公演会場に行くまでにかかった交通費や宿泊費を請求できるのでしょうか。
佐藤さん「請求できないケースが多いでしょう。


イベントが急に中止になると、イベントに参加するために支払った交通費や宿泊費が無駄になってしまい、客としては、こうした費用についても、主催者に請求したいと思う気持ちは理解できます。


しかし、先述のように、まず参加規約に、イベント参加のためにかかった費用を主催者が負担しない旨の定めがある場合には、請求することは困難です。また、参加規約に定めがなかったとしても、主催者の落ち度により中止になったといえないようなケースでは、客は主催者に対し、イベント中止に伴って生じた損害の賠償を求めることができません(民法415条1項ただし書き)。



このほか、主催者の落ち度にかかわらず、交通費や宿泊費はチケット代と異なり、
イベント中止によって直接生じた損害ではないため、請求が認められないことも多いと考えられます」




Q.イベントを中止したことで、その後、裁判に発展した事例について教えてください。
佐藤さん「市が主催した花火大会において、開始時間後に急きょ花火大会が中止されたため、花火業者が市に対して業務委託費を求めて訴えた事例があります。


花火業者は『花火を打ち上げられなかったのは、打ち上げ現場の除草や整地義務を市が果たさなかったから』と主張した一方、市は『市には義務違反はない。


義務違反は、準備を完了できなかった業者側にある』として争っていたところ、裁判所は花火業者の主張を認め、市に対して1200万円の支払いを命じました(千葉地裁2021年8月31日)」
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