喫茶★失恋 ~ 告白

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 貴方の初恋は、いつですか?
 小学生?中学生?高校生?
 初恋は、実らないものだと言われています。
 でも、中には実る人もいます。
 時間をかけてゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと……
 でも、恋は実るのがゴールではありません。
 実って熟し種を巻きその種は花を咲かし、咲いた花がまた実り熟し種をまく……
 その繰り返しで、実はゴールなどありません。
 これは、そんな恋の苦く切ない初恋の物語です。


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僕の初めての恋は、小学生の頃だった。
 きっかけは、共通の友だちの転校したことが、きっかけで少し話をした。
 そして、もうひとつのきっかけ……
 それは、その共通の友だちが引っ越したことで席が開くので席替えをすることになった。
 そこで、僕は彼女と隣になった。
 彼女は、物静かだったけどその共通の友だちと仲が良く、その子とはよく話をしていた。
 僕も彼女とは少し話をしたことがある程度で、深い仲というわけでもなかった。
 話すと言っても挨拶程度……
 可愛いといえば嘘になりブサイクと言われればそうじゃない。
 ショートカットで、優しい顔をした女の子。
 そんな彼女が、席が隣になって一週間くらいしたとき、休憩時間に声をかけてきた。

「姫野くん、元気にやってるんかなー」
 彼女は、そう言って苦笑いを浮かべた。
 僕は、なんて答えたら良いかわかんなかった。
 わかんなかったけど、こう答えた。
「アイツは、なんだかんだ言ってどこでもやっていけると思うよ」
 そう言うと彼女は、ニッコリと笑ってこう答えた。
「そうだよね」
 多分、彼女は姫野のことが好きだったんだと思う。
 よく泣くヤツで、かっこつけだったけど女子にはこっそりと人気があった。
 それに反して僕は、どちらかと言われると嫌われている方で、あまり人から話しかけるってことはなかったし嫌っている人とは話したいとは思わなかった。
 挨拶をするだけで精一杯。
 それが僕だった。
 それに毎日いじめられて泣いていた。

 靴を隠されたり喝上げされたり虫を口にねじ込まれたり……
 無視は、少なかった。
 むしろ、構うようにイジメを繰り返されていた。
 一通りの嫌がらせを受けていた。
 今更ながらに思う。
 よく耐えたよ僕。
 それから、僕と彼女は毎日、話すようになった。
 僕は彼女に少しずつ心を開くようになった。
 そして、それと並行するかのように嫌がらせは僕にではなく……
 彼女にへと少しずつ移っていった。

 一緒に遊ぶことはなかった。
 だけど、休憩時間に話す時間は長くなった。
 僕と話すことで彼女は、嫌われていくのに……
 僕は、彼女と話すのが楽しくて話してしまっていた。
 彼女の優しさに甘えていたのだ。
 気がつけば、僕は彼女の他に友だちが何人か出来ていた。
 一緒に遊んでくれる友だちができていた。
 放課後、友だちと遊ぶのがこんなに楽しいのかと思うくらい楽しかった。

 そんなある日……
 僕はその友だちに言われたんだ。
「な、これからアイツのこと無視しようぜ?」
 僕は何も言えなかった。
 嫌だといえる勇気がなかった。
 ただ、僕は黙って彼女の悪口を聞くことしか出来なかった。
 その次の日も彼女は優しい口調で話しかけてくれていた。
 僕は、相槌をうつくらいしか出来なかった。
 そして、それから数日後……
 彼女の顔は切なく、そして寂しそうにこういったんだ。
「私って、貴方と気が合うと思う」
 その言葉を聞いた僕は、なぜだか胸がチクりと痛んだ。

 さらに彼女の言葉は続いた。
「貴方は、よく私の話を聞いてくれるし、話をしていると楽しい。
 だから、きっと――」
 彼女がそこまで言いかけたとき、僕は言葉を遮った。
「そんなことない!」
 すると彼女の少し照れた表情は、だんだん暗くなりそして静かになった。
 僕も内心思っていた。
 彼女とは気が合うって思っていた。
 楽しいって思っていた。
 きっと僕は、彼女のことが……

 好きだったんだと思う。
 そして、すぐに席替えがあり僕と彼女は離れた席になった。
 それ以降、僕は彼女とは、話してはいない。
 謝りたい気持ちでいっぱいだった。
 罪悪感でいっぱいだった。
 でも、そのまま僕たちは小学校を卒業し……
 別々の中学校へと進学した。
 その後、同窓会の誘いなどはあったけれど、嫌な思い出のほうが多いので行かなかった。
 だけど、僕の心のなかには彼女への罪悪感でいっぱいだった。
 いつか、謝りたいと思っていた。
 でも、きっと彼女は覚えていないと思い自分を誤魔化して生きていた。
 だけど、現実はほんの少し残酷だった。

 彼女は、中学1年生の夏休みの家族旅行。
 そこで、事故に遭い亡くなってしまっていたのだ。
 彼女だけではなく、彼女の家族も亡くなっていた。
 親戚付き合いもなかった彼女の一家は、無縁仏として埋葬されたのだ。
 僕が、そのことを知ったのは二十歳のころだった。
 せめてお墓に手を合わせに行こう……
 そう思ったけれど彼女たちの個別のお墓はない。
 集合墓が、あると思う。
 だけど、それを調べるすべは無かった。
 彼女が、住んでいた場所は都市開発が進み僕たちが小学生の頃とはかなり変わり元近所だった人も、探しようがなかった。
 近所の人も知っているかどうかはわからない。
 ただ、僕が彼女にした仕打ちは残酷で許されるものではないだろう。
 ただ、ただ、ただ、思う……
 許されるのなら、産まれ変わったらまた同じ小学校に通い、そしてまた雑談がしたい。
 もう、きつい言葉を浴びせたりしないから……
 あの時の僕は、友だちを失うのが怖かった。
 だけど、君を失って思う。
 友だちよりも君を失いたくなかった。
 君といたあの僅かな時間がなによりも楽しかったのだから……
 僕は、君とよく話した雲の話を思い出しながら空を見上げる。

「ねぇ、なんで雲って動くんだろうね」
「それはね、地球が回っているからだよ」
 彼女の質問に僕は毎回そう答えていた。
 懐かしい思い出。
 その思い出はもう、返ってこない……
-終-
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 さて、今回の話は、どうでしたでしょうか?
 失恋とは少し違うかもしれません。
 彼のことを自分勝手だと思う人もいるかもしれません。
 だけど、彼が失ったモノは測りきれません。
 ただ、彼は祈り続けるでしょう。
 彼女の来世のしあわせを……
 そして、彼は夢見るのです。
 また、彼女と話せるその日を願って……
 さて、今宵も夜が更けてまいりました。
 それでは、みなさん。
 おやすみなさい。
 みなさまにいい夢を……
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