短編①『想い』

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小説

※⑷ 過去に掲載したものを、改正して再投稿。【短編集(シリーズ)より】



[本文]


鈍よりした灰色の空…


肌を刺すような寒さが増してきた

僕はうす暗い空を見上げながら…
今夜はきっと雪が降るだろうと思った




やっと、土曜の午後のバイトを終えて、
これから伺う、家主への手土産に大福餅を買い
久しぶりに藤原家の玄関のインターホンを押した。




「ピンポーン」


チャイムが鳴り
奥から、先輩の妻である由比子さんが出迎えてくれた


「いらっしゃい。リュウちゃん!」

いつものように優しく微笑みかけてくれる


「はい。これ、先輩の好きな大福…
美味しそうなお店があったから」


「ありがとう!わたしも大好きなんだよね」












先輩と同じ郷里から進学の為に上京して以来、
月に数回ほどのペースで週末の土曜日には、
先輩の家で夕飯をご馳走になっていた



僕は、小さなキッチンの付いた四畳半一間、
風呂無し・共同トイレのアパートを借り、
学費以外はバイト収入での自活の学生だった

身寄りの無い僕にとって、
たまに味わう家庭料理とお風呂を頂ける藤原家は、
すごく居心地のいい空間でもあり、実家のような存在だった。



「先輩は今…お出掛けですか?」

と聞くと、急な出張で今夜は泊まりだと由比子さんは答えた




三人で夕食をする予定だったのだが…

ひとりで鍋をするよりはふたりの方が美味しい、と
すでに「すき焼き」が準備万端になっていた


「リュウちゃん、夕食前に
お風呂をどうぞ!」







今日の由比子さんは、薄化粧に長い髪を束ね上げて、
妙に後れ毛が色っぽく、いつになく女の甘い雰囲気が漂う。


先輩は学生の時、由比子さんの働いていた職場で知り合い、
先輩が一目惚れをして、二つ年上の由比子さんと付き合うこととなった

先輩が卒業をするまで同棲をしていて、
その後ふたりは入籍をした。




ふたりの間に、子供はまだいない











藤原家に通いつめて僕は三年以上お世話になっている。

由比子さんの手料理は、すごく美味しかった。
中でも、若い年齢には見合わない、酒の肴の小料理が最高だった。




久しぶりに藤原家のお風呂の湯船に浸かりながら、
今夜は、先輩の居ない夜に、由比子さんとふたりきり…




[ 背中までのばしている黒髪
人目を惹くような端整な顔立ち ]


先輩が惚れて自慢するだけあって、由比子さんは綺麗だ…。
僕の憧れの人でもあった。


『今夜…もしや?
先輩の留守の時に何が…?  
まさか…そんな事はあるわけないよな~!』

なんて…(笑)
あり得ない人妻と、一夜の情事を妄想していた自分に…ハッとして苦笑した








ゆっくりと湯に浸かりお風呂から出ると、
すき焼きの良い匂いがしてきた


「出張で…弘司がいないけど、
リュウちゃん!バイトお疲れさま~遠慮なく食べてね♪」

ビールで乾杯を交わした

肉をたんと頬張り、ほろ酔い気分のまんま
由比子さんと話しが弾んだ

先輩の居ない留守に、憧れの由比子さんを前に話し過ぎたからか
僕はいつもより早く酔いが回っていた











気がつくと…夜11時を過ぎていて、

僕は、つい炬燵で寝てしまっていた…












「リュウちゃん、今夜は大雪だから泊まった方がいいわね」














「……うん」



終電には まだ間に合ったが、そのまま由比子さんの言葉に甘えた。









「酔い醒ましに、リュウちゃんが持ってきてくれた、
大福でも食べようか?」

そう 言うと、由比子さんはお茶を煎れてくれた








大好物の大福餅をパクついている由比子さんは、
まるで幼子のようにあどけない顔をしていた…








あっという間に大福を食べた由比子さんは、
いつしか
少女から、大人の色気のある女の顔にもどっていた

その眼差しを、僕はおぼろ気に眺めていると…  



















「リュウちゃん……」




哀願するような潤んだ瞳で…僕の顔を見つめ返してきた


その魅惑的で妖艶な由比子さんに見つめられると
酔いの回った、今の自分には拒む事なんて出来なかった…



















そして

時が止まったかと思った瞬間
























由比子さんの柔らかい唇を素早く奪い 
…思わず、冷たい床に押し倒していた。























…今夜は雪がしんしんと降り続いていた



つづく…
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