プログラミング(番外編)

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IT・テクノロジー
あれは18年前だった。
46歳だった俺は現場で倒れたんだ。
脳出血だった。

右半身に麻痺が残り、呆然としている日々が続いたっけ。
会社は一番仕事が出来る奴に譲ったよ。
俺は会長とかに収まるつもりはないんでね、あっさりと譲っちまった。
でもさ、もう俺には何にも残ってないんだなって思ったよ。
体一つで電気職人になって、俺と女房で電気工事会社を立ち上げて、下請けさんも3社ほど出来て。。。頑張って育てた会社だったけど、社員がもっと頑張ってくれたから会社は育ったんだ。
だから、俺の右腕にくれちまった。
俺の体の右腕は、うまく動かなかったけどな。

そんな時だ、俺が会社を立ち上げた頃からお世話になった元請けの電気工事会社の社長から連絡があったんだ。
「齊藤君(俺のことね)大変だったね。これからどうするんだい?」
「いや、どうもこうもないっすよ。この身体じゃ現場には出れないっすし、車の運転もままならないんっすよ」
「そうか、もう諦めるか?」
「え?諦めるって、何をっすか?」
「仕事だよ。齊藤君は、もう仕事をするのを諦めるのかい?」
「仕事ったって、なんも出来ねえっすよ」
一瞬、社長は黙ったけど
「齊藤君らしくないな。一人で東京へ丁稚に行って一人前になって帰って来て、いきなり会社を立ち上げた元気はどこへ行ったんだ?」
「どこったって。。。」
「馬鹿者!!!」
え?温厚な社長がいきなり怒ったんだよ。
「トーマスエジソンの言葉を思い出せ!」

あ、この前作ったプレゼンで、俺が新人電気工事士さんに言った言葉だ。
ってか、この話は社長に教わって、ずっと若い衆に言ってた言葉なんだ。
エジソンは初めて電球に灯りを灯した時に言ったんだよ。
「私は一度たりとも失敗はしていない。これでは電球は光らないっていう発見を一万回しただけなのだ」
ってね。

「一万回の発見っすか?」
「そうだよ、それだよ。齊藤君は何回発見したんだ?」
「いや、まだ。。。」
「齊藤君、よく聞きなさい。今回の事は、齊藤君にとって一回目の発見なんだぞ?わかるか?」
「一回目っすか。。。これが一回目。。。」

確かに、小さな失敗=発見は沢山してきたけど、こんな大きな発見は初めてだな。
「社長、わかってるんっす。わかってるんっすけど、身に染みてないんすね」
「よし、わかってるならもう一度俺とやるか?」
「やるって、何をっすか?」
「また仕事を手伝ってもらう」
「仕事っすか?」
「そうだ。今回、ウチはハードだけじゃなくてソフトも扱うようになったんだ。齊藤君にはプログラミングを覚えてもらいたい」

はぁ?プログラミングぅ???

「ウチは、ソフトのプロを集めたから、そこで覚えてもらうよ」
って、社長、もう決めちゃってるし。
「何年かかってもいい。今度の齊藤君の挑戦はプログラミングだ」

こんな事から俺はプログラミングを習い始めたんだ。
46歳の手習いだよ。

30歳で電気の道に飛び込んで、5年の弟子時代に二種・一種電気工事士、2級・1級電気施工管理技士を取っちまった。
でもね、やっぱり歳だよね。
プログラミングで社長に認められたのは、18年後の今年の初めさ。

「齊藤君、よく頑張ったな。もう独立しなさい。俺が仕事を回すから、家でプログラムの仕事を請け負いなさい」
もう社長は80歳近くになってるんだ。
俺は64歳。
泣けた。
社長の前で、子供みたいにボロボロ涙を流して頭を下げたっけ。

それからまだ10ヶ月ちょっと。
仕事は順調に入って来てるんだ。
だけど、社長にお世話になったこの技術を、もっと生かしたくてさ。
俺には、もう営業なんて出来ないし、社長に相談してこういったサイトで腕を磨くのもいい勉強だって許してもらったんだよ。
だから、今日からプログラムの出品もしたんだ。

正直、怖いです。
社長の手を離れ、こういったサイトでの仕事は怖いです。
でもね、社長が
「いつまでも俺の世話になるなよ。俺も先が短いんだから、あっはっは」
って言うんですよ。

35歳で電気工事会社を興せたんだ。
今回だって、やったるで。
リアルでは社長の仕事、サイトでは俺の仕事。

またひと花咲かせてやっかぁ。
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