274号・忘れかけられている室礼空間の提案

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 遅れていたサクラの開花も春嵐で散ってしまったようです。日本には、季節の移り変わりがはっきりと感じられる、四季折々の美しい習慣がありました。ところが、住宅が高断熱化、高気密化、工業化されていく中で、確かに快適性は高まってきているが、反面、窓の開閉をしなくなり季節感が感じなくなりつつあります。
 また、食べ物においても旬の時季とは関係なく、年中いつでもどこでも食することができるようになり、果実(結果)への感謝の気持ちや季節感も希薄になって来ています。その結果、季節のケジメがなくなりつつあります。

 日本には、ついこの間まで季節ごとに感謝の気持ちを込めた祭事がありました。「正月、節分、ひな祭り、花祭り、端午、嘉祥菓子、七夕、お盆、重陽、月見、七五三、冬至」これらの行事が毎月のように行われていました。その月々に応じて、自然、神、祖先などへの感謝、祈願を表し、これを村中でのお祭りとして連帯感を作り、祝っていました。このような日本文化や習慣が失われつつあることは残念なことです。

何故このようになったのでしょうか
 それは戦後、両親から離れて住むという核家族化が一つの文化として急速に進んだことにあると思います。この頃から、こうした日本の文化や習慣を教える人が身近にいなくなり、受け継ぐことを忘れてしまったような気がします。和室よりもリビィングの広さが重視され、和室のない住まいも多くなってきました。和室があったとしても、床の間、仏間もない畳シートだけの子供の遊び部屋、応急的な客間としての部屋であって、本来の意味ある空間ではなくなっています。
本来、和室は廊下や他の部屋よりも畳の厚さ約六センチ分高くなっていることや、床の間や仏間があるために神聖な異空間となっていました。そこでは、日本的文化や習慣、季節の室礼、法要、接客、お茶やお花、書初め、様々な作法、躾等を知らず知らずのうちに身に付けていました。
ところが、今はどうでしょうか。バリアフリーとかいって段差のない畳シート、子供たちは走り回っています。
この辺りでもう一度、和室の意味を考えてみたいものです。
私たち世代が幼少の頃、和室は先述した祭事や先祖のお祭りをする場所であると同時に自然への感謝、作法や躾の場所でもありました。敷居や畳のへりを踏まない、床の間や仏間に足を向けない、正座で座る、暴れない、また、両親が和室で接客中の時等・・・。和室に他の部屋とは異なった空気があり、小さいながらもその気配を感じ、来客中の立ち振る舞いが自然と身についていました。

設計者にも責任が・・・
 高快適住宅も大切ですが、和室がなくても、季節や自然を感じることができるような仕掛け。玄関には置き花、飾り物、廊下、階段やトイレ、洗面などにちょっとしたニッチな飾り棚に季節を感じる工夫をするだけで、家族が季節を感じ、お客様がホッとするようなもてなしの工夫。また、子供の躾の仕掛けができている住まいを提案していくことも大切です。
日本人が誇るべきこれからの文化、習慣、作法、躾が復活できる住まいを設計者が提案をすることも大切だと思います。

2024・4・19
住宅工務店コンサルタント
ハウスビルダー販売支援研究所 代表 大出正廣


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