復縁祈願の法華経寺住職神宮司龍峰 父の事について

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コラム
復縁祈願の法華経寺住職神宮司龍峰 父の事について

父がまだ生きています
今年で95歳
鹿児島市内の老人福祉施設で生活しています
その施設に父との面会の事で電話したら
6月26日から対面の面会が可能になったとの事
それまではコロナの影響で直接の面会が出来ませんでした
それまでは施設の玄関の入り口のガラス越しでの面会でした
昨夜。父の夢を見ました
あんまりいい夢ではなかったのですが
父の顔を見たくなりました
父はもう健康な人ではありません
私の事を息子だとも誰だとも識別出来ない
オムツをして
言葉を発することもなく
思考することもなく
ただ生きているだけの人間になってしまった
あの元気で溌溂とした父はもういない
父の一生は決して幸福ではなかったような気がしています
祖父に全く頭があがらなかった
祖父の偉大さと父権に畏怖して従属するしかなかった
父は若いころに祖母に大事に育てられた次男坊でした
旧制高校時代の写真には青春を謳歌する華やかさと幸福に満ちています
父は若い頃は鹿児島県肝属郡大根占町神川(現・錦江町)に住んでいました
父が二十歳になるかならないときに
鹿屋市で大型バイクが売りに出ていて
どうしても欲しくなり
お金は後で払うからと
大型バイクに乗って
大根占の自宅に帰りました
祖父はびっくりして
『なんだ。それは』
『どうしても欲しくて』
今の金額で2000万円するような大型バイクでしたが
祖父は即金で支払いました
父は大隅半島で初めて個人で大型バイクを所有する人間になったのです
それからというもの
大型バイクに友人を二、三人乗っけて
鹿屋市の歓楽街に何度も繰り出しています
祖父の名前さえ出せば
鹿屋市の歓楽街の料理屋でいくらでもツケがきいたのです
祖父は戦後の材木商で莫大な資産を得た人でした
その頃の父の写真には大型バイクが必ず映っています
その周りに大勢の友人たちがいます
その頃が父の人生の絶頂期であったと思います
父は結婚したい女性がいて
祖父に相談しました
熱烈な恋愛だったようですが
祖父の反対により
その女性と結婚することは出来ませんでした
父が私が子供の頃
頻繁に『雨に咲く花』という流行歌を歌っていました
その歌詞の内容から察して
その女性を思い出していたのでしょう
その女性と結婚していれば
父の人生は違ったものになっていたと思います
きっと幸福であったと私は確信しています
しばらくして
父は鹿屋市の教育者の長女とお見合い結婚しました
私の母です
母との結婚生活は一年と続かずに離婚
私は生まれていましたが
父は鹿児島市薬師町の薬局経営の長女とお見合い再婚
父は継母との結婚には乗り気ではなく
結婚式当日まで
『いやだ。いやだ』と言っていたと
父の妹である叔母が私に教えてくれたことがあります
父は望まぬ結婚をしたからでしょう
私が幼少期に家にいた記憶が乏しいのです
いつも夜遅くに帰って来ました
継母の妹は日本銀行の行員と結婚していましたが
毎晩。その妹は継母に電話してきました
『いつ離婚するの。早く別れなさい』
そんな会話をいつもしているのを
子供心に悲しいものだと私は考えていました
その電話は何年も続いていました
『あの女は、女中なんだ』
父のそんな言葉も覚えています
夫婦仲が悪いわけですから
継母の私への対応は最悪でした
継母の家系は学歴が高くて
父はコンプレックスがあったようです
継母の長兄は大阪の旧制国立音楽大学の作曲科の学生
学徒出陣で亡くなっています
継母自身は関西の名門女子短大卒でした
継母は大阪市の生まれです
そんな父と継母でしたが
祖父が鹿児島市の南風病院に入院していた当時に
祖父のベッドの下でござを敷いて仮眠しながら
懸命に看護しました
それから数年後に祖母が自宅で寝たきりとなり
これまた祖母の下の世話から
懇切丁寧に介護しました
継母は実に立派でした
それから父の継母への接し方が大きく変わり
父は継母を大切にするようになりました
いつしか継母は
父にとって
『女中から、おかあちゃん』に変っていました
大切な人になったのです
歴史は繰り返す
継母の息子
つまり私の弟ですが
弟が東大法学部卒業の年に司法試験合格
その2年後に
九大理学部卒業の女性と結婚したいと父に相談しましたが
父はどういう理由なのか不明ですが、反対
結局はその女性と結婚しましたが
継母と父が弟の自宅に電話しても
いつも留守番電話
必ず留守番電話
絶対に留守番電話
その翌日に
弟から
継母に
『なにか用事があるの』と勤務先の法務省から電話
弟夫婦には子供が出来なかった
親の反対を押し切って結婚した夫婦の末路の哀れさ
親は自分の子供がかわいいのである
父も継母にも責任はない
今度。父に会ったら
小声で耳元に囁きたいと思います
『お父さんの人生も良かったよ』
継母は10年前に鬼籍しています
今の私は、継母に心から感謝しています
立派な女性だったと思います

2023/06/23 神宮司龍峰
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