【インスパイア小説】Vaundy/踊り子

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小説
こちらは音楽から着想して私の頭の中で創られた短編小説です。

Vaundyの踊り子をもとに創作しました。MVとともに、BGMにしながらお楽しみください。






平日の昼下がり
じいさんばあさんの集い場と化した喫茶店で俺は詩を描いていた。

高校時代に組んだバンドで出した歌がほんの少しだが話題になり、そのままプロのミュージシャンになるためバイトしながら音楽活動をしている。

だが、現実は甘くなかった。
卒業して本格的に始めてから、2年経っても鳴かず飛ばず。むしろ、アイディアはまるで浮かばない。

メンバーは1人、また1人と減り、今は2人でやっている。

気晴らしに外に出てはみたが、描けない。

ふと、窓に映る自分に気が付いた。
優しい外の陽気に相応しくない姿は、まさにこの社会で浮いている自分そのままだった。

伸び放題の髭、ぼろぼろの服、まともな食事もほとんどせず、痩せ細りひょろりとした身体。
ボサボサの髪を掻きむしりながら、露でびちょびちょになったアイスコーヒーに手をつけた。

溶け切った氷で二層になったその液体をみて、イヤホンを外し、仕方なく店員を呼んだ。

「おかわりもらえますか、氷少なめで」

かしこまりました、と優しく目を細めた白髭のマスターが返事をした。

カラン

いらっしゃいませ、というマスターの声に合わせて、気持ちの良いそよ風が入ってきた。

なんともいえない優しい香りがふんわりと俺の横を横切った。

そっと視線をやると、今まで出会ったことのないような美女が通り過ぎて行った。

俺の斜め前の席に座った彼女と、ちらっと視線が合ってしまった。

咄嗟に視線を逸らし、イヤホンを付け直した。

マスターと仲良さそうに話す彼女のことが気になり、チラチラと横目で確認しては、集中しろ、と言い聞かせた。

気がついたら、おかわりのアイスコーヒーがテーブルに置かれていた。


窓を見ると、すっかり日も落ち、薄暗い外は雨が降っているようだった。

本降りになる前に帰るか、そう思った時、テーブルの向かいに誰かが来た。

そっと視線を上げると、さっきの彼女だった。

俺は驚き、鼓動が速くなるのを感じた。


向かいの席に座り、ほんの少し微笑んだ彼女の真っ赤なリップからチラッと白い歯がのぞいた。

俺の詩を興味深そうに見る彼女。なんとなくリズムに乗せ口ずさんでは、ちらっとこちらを見て微笑む。

どこか色っぽく、でも、そんな容姿から想像できない天真爛漫な表情は俺の心をぐっと掴んだ。


俺たちは同じタイミングで店を出ることにした。
外に出ると、雨は止んでいた。
地面に染み込んだ雨の匂いがツンと鼻に刺さる。

生ぬるい空気を感じながら、彼女の運転するオープンカーでドライブをした。

たわいもない話をしながら海沿いを走っていると、あたりはすっかり暗くなった。
無邪気な笑顔を見せる彼女の顔が少し見えづらくなり、なんだか窮屈さを感じた。

海辺に車を止め、丸い巨大なネオンを見ながら、俺たちはまた会う約束をした。


彼女は遊園地が好きだった。
このギャップにどこまでも惹かれてしまう。

俺たちが会うのは決まって夜。
夜の遊園地が定番のデートコースだった。

ほとんど人のいない遊園地で、彼女はメリーゴーランドを少女のように楽しみ、俺の歌を口ずさみ、少し踊りながら隣を歩き、くしゃくしゃの笑顔を俺だけに見せてくれた。


そして、あの喫茶店にも二人で行った。彼女は決まってアイスコーヒーを飲んでいた。氷は少なめで、と言って注文する。

二人で俺の作った曲を聴き(といっても学生の頃に作った曲だ)、新曲の詩が浮かんでは彼女が口ずさんだ。そして、なんか違うなぁと笑い合った。

そう言いながらも俺の中で彼女は、俺が作った歌を歌い踊る、完璧で最高に理想の踊り子だった。
彼女が歌い、踊ってくれたら、もうそれだけでいい。売れる音楽なんか書かなくていい。


ガシャン


彼女がアイスコーヒーのグラスを倒した。

うわぁ、ノートびしょびしょ!
やだなぁ、もう〜。

ノートなんかどうでも良かったが、ニヤニヤと笑いながらわざとそんなふうに大袈裟に言ってみて、やれやれという表情で彼女を見ると、そこには喫茶店の制服を着た彼女がいた。

お客様?
大丈夫ですか?


制服に身を包んだ彼女が布巾を持ってやってきた。
慌ててイヤホンを外し、あたりを見渡すと、店にはこちらを見ているマスター以外誰もいなかった。外は真っ暗だった。
テーブルの上は倒れたグラスから溢れた薄茶色の液体とそれに染まったノートだけが置かれ、彼女が丁寧に拭いてくれていた。



夢だったのか…


呆然とする俺の横で、テーブルから垂れ下がったイヤホンが微かに歌いながらクルクルと踊っていた。




fin.





afterward

この曲に出会ったのは冷たい雨が降る日。
近所のマクドナルドで仕事をしているときにBGMで流れてきたこの曲を聴いて、鳥肌がたったのを覚えています。急いでYouTubeやらApple Musicやらを漁り、Vaundyのことを初めて知りました。
悔しかった。数年前まで音楽好きと豪語していたわたしが、こんな才能にまみれたアーティストのことを今の今まで知らなかったなんて。
家に帰ってからMVを改めてじっくり見て、小松菜奈さんに心臓をブチ抜かれました。彼女の表現力は言わずもがなですが、Vaundyとの相性の良さったら。今となっては、踊り子の世界観との相性ですね。(Vaundyの音楽はとにかく多様性に富んでいるので、他の曲だと小松菜奈さんじゃないんだなぁというかんじ。)
それから彼の曲をたくさん聴きましたが、どれも本当に素晴らしいものですが、踊り子はずば抜けて大好きな曲です。MVも含め、全ての世界観が好き。
これはもうインスパイアつくるしかないわ、となり数ヶ月。なかなか着手できていなかったのですが、さてやるぞとiPhoneのメモにタイトルを入れた途端、瞬く間に完成。個人的にはあと数パターン作りたいほど無限に膨らむ楽曲です。
今回は、というかVaundyの曲はMVの世界観を大切にしたくて、それをベースに作りましたが(インスタにだけアップしている同じくVaundyの恋風邪に乗せてという曲もそのスタイルで作りました)、純粋に曲と詩だけでインスパイアしたものも作りたいなぁと考えています。もうこれはオタクの趣味の域なので誰が興味あるんだという感じですが。インスパイア書いている時がわたしにとって最高に至福の時なんですもの。
話はそれましたが、というわけで今回の小説に出てくる女性はもちろん小松菜奈さんのイメージ。男性は誰だろう。特にイメージしていなかったのでみなさんの想像にお任せします。この人イメージしました、などよかったらコメントください。キャスティング妄想も趣味なので、お友達になってください。笑
喫茶店に小松菜奈?って最初思ったんですが、この曲の背景にどこかゆっくりとした時間を過ごせる場所で作業をしているイメージがなんだかありまして。そこでいろんな妄想が広がるのと一緒に彼女との妄想が広がるんです。それを物語に落としました。解釈は自由なので、あくまで私の中でのストーリーです、温かい目線で読んでくださったら幸いです。
あとがきだけで数記事かけそうな勢いで語ってしまってるので、そろそろこの辺りで。
次回はhomecomingsを書こうかな。本命すぎてなかなか手をつけられない私です。

よかったらまた遊びにきて読んでいただけると嬉しいです。💐
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