「ありがとう」の言葉で伝わる幸せな生き方

記事
コラム
介護の仕事の一環で、ある高齢者の自宅を訪問していた時の話

その方は92歳の女性
中重度の認知症で意思疎通は困難だが、歩行の足取りは達者な方だった

毎食、ヘルパーさんが食事の準備で訪問する

そのたびに彼女はヘルパーさんに
「ありがとう」
と、笑顔でお礼を言う
入れ歯をせずに、歯がない状態で歯茎だけで食事をしながらモゴモゴと話す

ヘルパーさんが部屋の掃除をすると
「ありがとう」

トイレの介助をすると
「ありがとう」

買い物をしてくると
「ありがとう」

お風呂の介助をすると
「ありがとう」

何か物を取ってあげると
「ありがとう」

何をしても「ありがとう」と愛くるしい笑顔で返してくれる

当然のように、その方はヘルパーさんから人気があった

大きな地震があった際に、担当していたヘルパーさんが自主的に安否確認をしに行ってくれたりもした
その方のためなら、という思いがヘルパーさん達の中にはあったようだ

認知症になっても周りから愛され慕われる、その魅力は、とてつもない高尚な精神性を感じる
何かしてもらったら素直に「ありがとう」と言える心を持つ
そんな人生を歩んできたのだろうか
独身の息子の結婚相手がみつからないと、
そんな悩みをヘルパーさんに吐露する、一人の母でもあった


それから数年が経ち、彼女は寝たきりになった

オムツ交換をすると
「ありがとう」と、モゴモゴ言う

車いすに座らせると
「ありがとう」とモゴモゴ


さらに数ヶ月

しだいに彼女は「ありがとう」が言えなくなってきた

それでも彼女はヘルパーさん達に慕われ続けていた

僕は現場を離れ、今も彼女が存命なのかはわからない

全てに感謝し、「ありがとう」を伝えながら生きる生き方もあることを教えてくれた彼女
それは、とても貴重な人生の学びだったと思う

人は認知症になったから不幸とは限らない
むしろ愛されるキャラクターになることだってある
大事なのは、その人の生き方だ
何を思い、何を感じ、何を伝えて生きてきたかではないだろうか

「全てに感謝できる生き方」
なんて幸せな生き方なんだろうと思ってしまう

かんたんには真似できない生き方だが、
その生き方を少しでも目指していければと思う

ひとつの幸せな生き方のモデルを見せてくれた彼女に
今度は僕が「ありがとう」を伝えたい
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