「カメラや写真に興味はあるけども、撮るものが思いつかない。カメラを買ったところで使いそうにない」と考える人は少なくないかもしれません。あるいは、「買うには買ったが、全然使わずにホコリをかぶっている」人もいるでしょう。
お散歩写真を始めてみませんか。普段の散歩のコースにしてもいいぐらいの近所で、見慣れたものを写真に撮るのです。これから写真撮影を覚える人には、特定の撮りたいものがあるよりも、上達の早道になるかもしれません。
「カメラを向けたら写真が撮れる」と思っていませんか?
「近所に写真になるようなものがないしなあ……」
知人に、「私が協力しますから、カメラを買って、写真を撮り始めたらどうですか? 元報道カメラマンの私がアドバイスします。こんな機会は、そうはありませんよ」と話したときの返事です。
おそらくは、この人が「写真になるようなもの」でイメージしているのは、風光明美な海や山、季節の花々が咲き乱れるスポット、名所・旧跡、お祭りなどだったと思います。
確かにこういったところに居合わせれば、「カメラを持っていたら楽しかったかも」と思うかもしれません。おそらく、その頭の中では、「その光景にレンズを向け、シャッターを切ったら、ひとまずは写真が撮れる」と考えているのではないでしょうか。確かに、カメラにセットした記録メディアには、何らかの画像データは残るでしょう。
「写真になるようなもの」の考え方がまったく違ったようでした。思い切っていってしまうと……
カメラの扱い方・写真の撮り方を知らないのだから、「写真になるようなもの」かどうかを判断する能力は、まだありません。目の前でどんなにすばらしい光景が広がっていても、無駄です。たまに、まぐれで「写真になる」ことはありますが。
「写真が撮れる」とは、どういうことか
カメラの扱い方・写真の撮り方を無視し、「カメラがあれば写真が撮れる」と単純に考えるのは、絵画でいえば「絵筆・絵の具・画用紙などがあれば絵が描ける」に相当します。
絵筆を握ることはできるでしょう。先端の毛の部分に絵の具をつけることはできるしょう。それで、画用紙に「へのへのもへじ」ぐらいは描けるはずです。あるいは、「♪お山がひとつありました……」と絵描き歌レベルのものぐらいは、大半の人が描けそうです。しかし、これで「私は絵が描けます」と表現する人はいるでしょうか。
「写真が撮れる」は、「構図を考える」「被写体に応じたシャッタースピードを選ぶ」「ピントを正しいところに合わせる」「その場の明るさに応じて、シャッタースピードと絞り値を組み合わせる」などができて初めていっていいことです。多少厳しくいえば、そうなります。
確かに、これらのうちの多くは、今のカメラならばオートでやってくれます。しかし、「たとえオートを使うにしても、何をオートに任せたかが分かる」「オートで撮った写真について、失敗かどうか、失敗ならば失敗で何がだめかを判断できる」ぐらいにはなっておかないと、「写真が撮れる」とはいえないのではないでしょうか。
「構図」のオートについては、搭載しているカメラもあるにはあります。ただし、特定の状況でいくらか調整してくれる程度のものです。また、「撮影時に構図を決めてくれる」のではなく、「撮ったものに対し、カメラが自動でトリミング範囲を決めてくれる」機能です。「似て非なるもの」とみなして、「構図は100パーセント自分で決めなければならない」と考えておいたほうがいいでしょう。
「撮るものがない」は「撮るものを見つける目がない」?
「構図」は、初心者が覚えるのは、かなり後回しになるようです。
なにか写真を撮るつもり出かけてきた初心者が目にしても、素通りしてしまう狛犬(こまいぬ)があったとします。近所の名もない神社ならば大半がそうでしょう。
しかし、これが中級者・上級者ならば、「○ミリ相当のレンズを使って、こっちのアングルから見る。すると、○が背景になって……」と、カメラを構える前に、頭の中に構図が浮かんで、撮り始めるかもしれません。
同じく初心者、中級者・上級者といっても、興味の持ち方は違います。あくまで、「可能性としては、こういうこともある」程度の話です。その前提で話を続けると、何が違うかといえば、「撮り方次第でおもしろくなるものを見つける目」や「平凡なものでも、一枚の写真としてまとめる能力」です。
説明は別の機会にしますが、「撮り方次第でおもしろくなる」は、構図だけではなく、色や光の当たり具合でもありえます。
手始めにお散歩写真、神社・お寺でもあればOK
「カメラを買っても、撮るものがない」と考えている人は、自宅近くで、「撮り方次第でおもしろくなるものを見つける」「平凡なものでも、一枚の写真としてまとめる」から始めてみませんか。
つまり、それがお散歩写真です。もちろん、住んでいる場所にもよりますが、外観に特徴のある建物・店先に出ている商品・玄関先に置かれている植木・道端にいる犬や猫などなど、被写体は意外に多くあるものです。
中でもおすすめが、神社やお寺です。観光名所ではなく、名のないところで十分です。狛犬以外にも、本殿・拝殿、池と橋、灯ろうなどなど、レンズによる切り取り方次第で絵になるものは、たいていはいくつもあります。
このお散歩写真をしばらく続けたら、撮り尽くしたり、飽きたりするでしょう。その後で、風光明美な場所や、名所・旧跡に行くと、お散歩写真を経験せずに行ったのとはまったく違った写真を撮っているはずです。