傘、失くしますか?

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コラム
彼女はとにかくよく失くした。
学校、図書館、スーパー、電車は絶対、雨が降る、出かける、止んだら最後、傘は戻ってこなかった。
1年で3本・・多いと5本、小さな傘屋さんができそうなくらい。
「懲りないな」と若いママだった私はため息ながら娘に言った。
いや、懲りていないのは私のほうだった。
厳重に言い聞かせたから大丈夫だろう、なんて思う。
そんな訳がない・・持たせる私が悪いのだ。無駄な「ビニール傘出費」で痛い思いをしてようやく懲りるのであった。
「なんで忘れちゃうの?」「どうして?同じことを繰り返すの?」
決まって答えは「・・わかんない」である。
私は悟った。   (忘れるのに理由なんてない)
「なんで」「どうして」という質問こそ愚問なのだ、ということを。

・・・そういえば、私の父は持参した傘と別の傘を家に持ち帰るのが常習だった。 厳格で几帳面な父であったが、傘だけは「高級」「安物」「男子用」「女性用」という区別がつかなかったようだ。傘はただの傘に過ぎなかったのだろう。
或る時一度しか使っていない私の「ungaro」の「高級」傘は駅の売店に売っているピンクの傘にすり替わっていた。
娘の私は両腕を捩りながら叫んだ「どうして~」
父も「何故」そうなのか、分からなかったはずである。
失くした真っ赤な傘の悲しみと「私にもこんなまぬけな所があります」
と言わんばかりの行動で、威厳溢れる父だっただけに、どこかで私を安堵させたのを記憶している。



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