何か誤用?

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コラム
お盆あたりの日のこと、なじみのお店を訪問してみると、シャッターが降りていて、そこには「誠に勝手ながら、本日から3日間、休業させていただきます」との貼り紙が。別に休んでもらっても構わないが、この誤用表現が、つい、気になってしまう。間違いを堂々と紙に書いて世にさらしているのだから、これを見た人が正しい表現と認識し世に流布してしまうだろう。丁重な謙譲語として、改まった席でも使われる「~させていただく」。元来、どんな意味なのだろうか。「させていただく」は、動詞「する」+接続助詞「て」+「もらう」の謙譲表現である補助動詞「いただく」で成り立っている。「(ご了承のうえ)訪問させていだだきました」のように、基本的に相手の許可を得て自分が何かを行い、その恩恵を受けることに対して敬意を払う場合に使うのがもともとの意味である。とにかく、相手の許可を得て〜するというのが基本義であるから、先のお店の貼り紙の場合であれば「いや、だれも休んでいいとは言っていないよ。」、とついツッコミを入れたくなるのである。厄介なのは、この誤用が、あまりにも定着しすぎていて、使っている本人は、正しいと思いこんでいるどころか、最高の謙譲表現を用いていて、充分にへりくだった気分になっていると思われる点だ。このケースなら「誠に勝手ながら、本日から3日間、休業いたします。」でよい。「休業いたします」、ときっぱり言い切ってしまうと、断定的で何かもの足りない感じがするのだろうが「休業する」の部分が「休業いたす」のという謙譲語になっていて、それに「ます」という丁寧語までついているのだから、何も問題はないのである。
 もちろん、「させていただく」が正しい場合もある。例えば、会社で、上司が「君、顔色があまりよくないね。具合がわるいのなら、帰ってもいいよ。」「はぁ、少し気分がすぐれなくて。申し訳ないのですが、今日は早退させていただきます。」「よし、良かろう。」このケースなら、前提として、上司の許しがあるから、大いに正解である。でも、それもない状態でやにわに「今日は早退させていただきます。」なら、ぶしつけというものだろう。言葉は変化していくものだから、そこまで厳密に言わなくても、という意見もあろうが、言葉に関わる仕事をしている以上、強いこだわりをもっていたい。

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