従業員が病気や、ケガなどで健常者から障害者になる(一般の枠から障害者枠に移行する)ケースはよくあります。
しかし、これと全く逆のケースが起きたら、事業所はどのような対応を取っているのでしょうか?
私は、実際に障害者枠から一般の枠に移行した経験を持ちますが、私のようなケースはあまりにも珍しいため、これまで日本の事業所は、そのような事例が発生したらどう対応するか、ほとんど考えてきませんでした。
他の社会保険労務士に訊いても、「そのようなケースに遭遇したことはない」と言われるばかりです。
つまり、障害者枠から一般の枠に移るケースは、事業所も全く想定していないわけです。
発達障害者ではないのに、障害者手帳を取得している人がいる!
しかし、現代の日本では、発達障害の誤診・過剰診断はごくありふれたものになっています。
小児科医で、お茶の水女子大学名誉教授の榊原洋一氏によると、他の医師から受けたASD(自閉症スペクトラム障害)の診断に不満を持って、自分の所にセカンドオピニオンを求めてきた患者の約2割が、実は誤診・過剰診断であったと言います(『子どもの発達障害 誤診の危機』{ポプラ新書、2020年}の記述より)。
榊原氏は、「ASDとは見なせない」と判断した子供たちの経過も継続的に確認していますが、その大部分は、幼稚園・保育園や、小中学校の通常学級にも問題なく通えていたと言います。
そう考えると、本当は発達障害者ではないのに、ASDなどの診断を受けている人が大量に存在するのは明らかと言えます。
しかも、近年の日本では発達障害や、精神疾患のある人を、選考時にふるい落とそうとする傾向がより強くなっています。
「人材採用で失敗しないための不適性検査」なるものが、大企業を中心に、短期間で急速に広まったことを見れば明らかと言えます。
この検査によって「不適性な人材」という烙印を押された人は、一般の枠での内定獲得が望めないため、就職時に仕方なく、障害者手帳を取得せざるを得ないわけです。
一般の枠と障害者枠の壁
しかし、知的障害を伴わない発達障害者の場合、障害者枠を利用していても、一般の枠で採用された人と変わらない質・量の仕事をこなせるケースも珍しくありません。
私の場合も、最初から1日8時間×週5日の勤務を、難なくこなすことができていました。
しかも、社内ニートになっていたわけではありませんでした。
そのような状況にも関わらず、障害者枠で採用されると、初めから昇給・昇格の可能性が閉ざされてしまうわけです。
図1では伝統的な企業の雇用システムを示していますが、新卒時に一般の枠で採用されれば、課長や、部長などといった出世の階段を登っていくことができます。
出世と同時に、賃金(基本給)も上昇して行きます。
図1:伝統的な企業の雇用システム(その1)
出典:『左遷論』(楠木新、中公新書、2016年)103ページの図に筆者が加筆
だが、障害者枠だと出世レースに参加することができないため、勤続年数を重ねるほど、一般の枠で採用された人との待遇格差は開いていくばかりです。
このような待遇格差を見せつけられたら、私のように「障害者枠から脱出したい!」と思う人が出てくるのも、至極当然と言えます。
このような待遇格差に耐え切れなくなった私は、本当に障害者枠から脱出してしまったほどです。
障害者枠からの脱出が企業にもたらす影響