社員がキャリアに関心を持つようになるには ~やることの上乗せにならない方策を考える~

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キャリア自律というワードがあります。聞いたことのある方もちらほらいるかもしれません。「その人が、主体的に自らのキャリアを考えて、目指すキャリアの実現に向けて能動的に行動する。」といった意味合いで捉えていただければよいかと思います

 こういった考え方は、大量生産・大量消費の実行こそが企業の使命であり続けた昭和・平成の社会における価値観・教育観ではあまり見られなかったものです。どちらかというと、「会社が社員のキャリアについて画一的に管理し、社員は定年までの終身雇用の保証を受ける。出世はある程度運による。」という型の方が会社も個人もお互いに都合がよかったと言えましょう。

 しかし、企業の寿命よりも個人の寿命と就労年数の方が長くなってしまった現在においては、自分の一生を100%会社の庇護を期待して委ねることはリスクでしかなくなりました。そのような背景があって、昨今だんだんと学び直し、リスキリング、副業・兼業、転職、起業等について、関心が高まってきているのだと思います。したがって、キャリアについて誰もが関心を持ち、そのための何らかの資源を自ら確保しておくことは喫緊の課題であると思います。

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 現状は、会社による社員へのキャリア自律に関する支援を進んでやっている、というケースはまだまだレアなのではないかと思います。本業が忙しいから、とか、キャリアをどう支援するかの知識やノウハウが無い、とか、人が足りない、とか、効果がよくわからず単に気乗りがしない、とか色々な理由があるのでしょう。現業に「上乗せ」するかたちで、キャリアというよくわからないものについて取り扱うことには中々腰が上がらないだろうと思います。

 私自身、会社の中でキャリアの話を少しずつするようになって1年ほどが経ちますが、理解者はまだまだ少数という印象です。やることの上乗せなどしようものなら、すぐに抵抗に遭いそうな気がします。そこで、会社でキャリア自律に関する支援をおこなう場合、以下の2つの道があるかと考えています。

 1つは、「トップダウンで、ガツンとキャリアに関する方針を打ち立てて、人事関連の制度運用ごと刷新する。」
もう1つは、「現行の施策や制度運用に、キャリアに関する事柄をじわじわと染み渡らせる。」
この2つです。

 前者のトップダウンは分かりやすいですが、ハレーションも大きいかもしれません。制度はすぐに布けますが、運用サイドはその後かなり苦労するように思います。一方、後者の染み渡らせる方は根気が要るものの、慎重に試みて小さな成果を積み重ねることで、社員の学習と納得を促しながら進めることが可能なように思います。

 ここからは、後者の「染み渡らせる」方策を考えてみたいと思います。

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 会社ではすでに色々な人事に関する取り組みがされているでしょうから、そこに「上乗せ」ではなく「組み込む」「滑り込ませる」ようなやり方でアプローチするのが有効でしょう。 

あくまで私の妄想に近い案ですが、いくつか挙げてみます。 

・すでに行われている社員教育の場に、キャリアの話題を添える。例えば、会社の理念や方針を扱う際に、併せて個人のWill,Can,Mustに目を向ける場面を持つようにする等。もしメンター制度がある会社であれば、メンターがキャリアに関する知識やスキルを獲得してメンティー支援につなげることも考えられる。 

・目標設定や人事考課の実施の際に、部下の育成責任を負っている(ことをきちんと教育されている)上司の側から部下が主体的にキャリアのことを考え始めるためのインタビューを行うことを組み込む。部下の希望があれば、本人のキャリアに関する記述を考課シート等にキャリアの欄を設けて記録し、昇進や異動の参考資料にする。

・確定拠出年金の説明会などの場で、ライフプランに関する話題に差し掛かった時に、キャリアについての考え方や向き合い方を併せて伝える。例えば、ライフ・キャリアとワーク・キャリアの概念や、転機への備えに必要な資源(4S)などの理論をデリバリーする等。 

・手上げ式の参加形態で、年代別キャリア開発研修を実施する。キャリアに関する書籍の読書会などを組み合わせるのも一つの手。キャリアに関心がある社員の学びを促進してコミュニティを形成できるかもしれない。

・管理者向けの研修で、必ずおこなうであろうコミュニケーションスキルのパートにおいて、部下に対する傾聴スキルを特に手厚く扱う。例えば、1on1面談のトレーニングの場面で、部下のキャリアに関する思いの「きき方」をトライアングル式にロープレする等。

・従業員満足度サーベイやストレスチェックの質問項目に、キャリア自律に関する質問項目を設ける。社員のキャリアへの関心についての具体的なデータを得て施策のブラッシュアップにつなげるということはもちろんのこと、そのような質問項目があるということで、会社が社員のキャリア自律を促したいというメッセージになる。 

・人事部か人材開発部のHR部門、あるいは外部EAPを活用して、キャリアカウンセリングの窓口・担当者を配置する。内製であれば、採用担当経験者が主に若年層を担当し、定年後継続雇用の管理者経験者が中堅以上を担当する。(キャリアカウンセリングに必要な資格取得は会社が支援する) 

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「上乗せ」をなるべく回避すべく、考えられることを色々と挙げてみました。あらためて挙げてみると、キャリアに関して今からやれることはたくさん入り口があるように思いましたがいかがでしょうか。こういう入り口もあるよ!ということを教えていただける方がもしいらっしゃいましたら、ぜひコメントをお願いいたします。

目の前の仕事をこなすために心身と時間を削っている社員の方々であれば、どうしても中長期のことや他の人にかかわることは後回しになりがちです。ましてや中間管理職の方は多くの方がプレーイング管理職の立場にあることを余儀なくされているかもしれません。雲をつかむようなキャリアの話なんて・・・、と思ってしまう方もいることは仕方のないことでしょう。

しかし、社員がキャリア自律の状態にあることは、何も中長期のことだけでなく、目の前の仕事にどのように取り組み成果を出すか、ということにポジティブな効果が期待できる、というまなざしを持つことが大事だと思います。会社が1人ひとりの社員のキャリアを支援してくれることは、社員にとって本当に有難く、この会社で働いていてよかったと思ってもらえることは疑いようがありません。(参考:厚労省 平成29年能力開発基本調査 )

 私自身、企業内キャリアコンサルタントのひとりとして、社員のみなさんのキャリア自律の支援に、ポジティブなまなざしを送りながら粘り強く取り組んでゆくつもりです。

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 今回は、社員がキャリアに関心を持つようになるには、についてお話しました。私は会社勤めとの複業でライフキャリアデザインカウンセラーとして個人や世帯の職業生活設計や資産設計のお手伝いを志しております。保持資格としては国家資格キャリアコンサルタントとAFP(日本FP協会会員)をコアスキルとして、これまでの会社生活や人生経験で学んできたことを活かして会社内や地域社会に向けた価値創造につなげてまいります。ご関心を持っていただいた方、ご相談事がある方は、どうぞお声がけください。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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