さて、SNSの普及により、個人のブランディング、またブランディングデザインが今後のビジネスのカギとなる時代がきたと言われています。
起業や独立を目指す人はもちろん組織で働く人も、
・自分の個性やつよみは何か
・会社としてではなく個人として何ができるか
自分のブランドを意識することで、これからの仕事が大きく変わっていくことは確かなようです。
今の時代、私たちのまわりにはモノが溢れ、必要なものは何でも手に入りますよね。
物質的なニーズは過剰に満たされ、モノが売れない時代になっていると言われています。
また、技術のデジタル化などによって性能の同質化が進み、商品やサービスの技術・機能には差異が出しにくくなり、企業活動は技術開発アプローチから感覚的で感情的なアプローチにすでにシフトし始めています。
「これを買ったら楽しいことが起きるような気がする」
「きっと快適になるだろう」
そういう予感や期待をさせる”買った先にストーリーが見える”商品やサービスをつくること、
つまり、”モノを通して、消費者の心まで満たすことのできるブランドづくり”が重要なテーマとなっています。
これからの時代、ブランディング抜きにビジネスを考えることは難しいかもしれません。
ブランディングとは
ところで、ブランディングとは何でしょう?
ブランディングとは、文字通りブランドをつくる手法、戦略のことです。
では、ブラントとは何でしょう?
真っ先に思い浮かべるのは、エルメスやシャネル、ルイヴィトンといったハイブランドと呼ばれるファッションブランドかもしれません。
ブランドとはもともとは家畜の牛に焼印を押したときの焦げ(Burned)という言葉が起源であるというのは有名な話ですが、その後イギリスに渡り、自分でつくったウイスキーを他人がつくったものと区別するために木樽に刻印する習慣として定着したそうで、ファッションや高級品に使われるようになったのは、ごく最近のことのようです。
つまりブランドとは、もともと自分のものと他者のものを区別するための”しるし”のことだったわけですが、現代ではその”しるし”は、ほかと区別するだけではなく、ほかより価値があり魅力的なものであることを示すことで力を発揮するようになりました。
そして、ブランディングとは、ほかとは違う価値をつくる戦略のことをいいます。
たとえば、「東京タワー」と聞いて何を思い浮かべますか?
展望台、ライトアップ、電波塔、333m、水族館といった具体的なイメージや、東京のシンボル、高くてシュッとしている、といった抽象的なイメージ、修学旅行の中学生グループや、外国人観光客といったターゲットイメージなど。
もしくは、ゴジラに破壊されているシーンを思い浮かべる人もいるかもしれませんし、夢をもって上京したばかりの若かりし日の自分や、はじめてのデートでみた夜景の美しさを思い出し、当時の甘酸っぱい気持ちやわくわくした気持ちが呼び起こされるかもしれません。
きっとさまざまなイメージが浮かんでくると思います。
こうした頭に思い浮かんだものすべて、価値や世界観などさまざまなイメージの集合体がブランドと言えます。
そして、このイメージの集合体が他にはない独自のものであればあるほど、ブランド力があり、逆に、思い浮かぶものがほとんどなかったり、他の企業や商品と同じようなイメージしか浮かんでこない場合は、そのブランドは弱いブランドといえます。
ブランディングとは、こうしたイメージを設計し、そのイメージの価値や世界観をデザインする戦略のことです。
そしてそれは、パーソナルブランディングにおいても同じです。
とはいえ、価値や世界観をデザインするとはどういうこと?と思いますよね。
価値=社会に提供できるもの
世界観=その人らしさ(個性)・独自性
と置き換えるとわかりやすいかもしれません。
つまり、パーソナルブランディングとは、その人らしさ(個性・独自性)を可視化し、提供できるものを明確にして、意志を持って伝えていく活動です。
パーソナルブランディングについての誤解のようなもの
昨今、ブランディングという言葉は、至るところで使われるようになってきました。
本屋さんに行けば、ブランディング関連の書籍が並んでいますし、「パーソナルブランディング」「セルフブランディング」といったキーワードでネット検索すれば、たくさんの記事を見つけることができます。
パーソナルブランディングの方法論についてもネット上にはさまざまな情報が氾濫していますが、その多くは、自己啓発の文脈で語られていたり、マーケティングのフレームワークに沿ったものに偏っている印象があります。
たとえば、
”パーソナルブランディングにはSNSでの情報発信は欠かせない”とか、
”ブログを毎日更新しなければならない”とか、
”Facebookで友達増やして人脈つくらなければならない”とか、
”著名人から推薦コメントをもらおう”とか、
”差別化すればブランドになる”
というような感じです。
確かにこれらもパーソナルブランディングの重要な側面だと思います。
合理的で再現性が高いのかもしれませんが、これらは自分を宣伝、アピールすることであって、短期的な集客はできてもブランドにはならないと思うのです。
また、みんなが同じことをすることで同じ雰囲気のものが量産されるという、それこそブランドとは正反対の均一化に向かう方法論のようで、本当の意味でのブランディングにはつながらないものが多いように感じます。
大企業が徹底的にマーケティングリサーチを行い、戦略的なターゲットアプローチによってつくられ、メディアに大々的に取り上げられて発売したにもかかわらず、あっという間に世の中から消えてしまった商品やサービスは数え切れないほどあります。
タレントさんなんかにもいますよね。
昨日まで無名の女の子がいきなりCMに登場して、デビュー曲がドラマ主題歌とタイアップして、鳴り物入りでデビューしたのに、すぐに露出がなくなって今何しているんだろう、という人。
ところで、エルメスは自社マーケティングについて尋ねられた時、
「エルメスはブランドではない。マーケティングも行っていない」
と答えるようです。
つまり、職人の手仕事によって最上級の品物をつくっているだけ、という姿勢を貫いているのです。
ブランドの王様はマーケティングもブランディングもしていない、というわけです。
「ブランドはつくるものではない。生まれるものだ」という言葉を聞いたことがありますが、確かにそうかもしれない、と思うエピソードです。
エルメスが長い時代にわたって世界中でたくさんの人に愛され、ブランドの象徴のような存在としてあり続けているのは、エルメスが誇るその職人の技術と、圧倒的な美意識によるものづくりへの姿勢ではないかと思うのです。
私は、素晴らしいブランド、愛されるブランドには「美意識」が宿っていると思います。
それは「センス」というのとはちょっと違って、もっと深いコアにある決してゆるがない価値観のようなものです。
そしてその「美意識」はマーケティングからは決して生まれることはありません。
(長くなりそうなので、次回に続く)