この仕事をしていて、時々残念に思うのは、デザインというと色や形や絵柄といったビジュアルなど表層的なものだと捉えられがちなことです。
「見栄えをよくすることでしょ?」的な。
また、企業の経営トップやプロジェクト担当者からたまにこういう声を聞いたりもします。
「デザインを変えても売上げには直結しないからなあ」
「売れるWebサイトにデザインはあまり関係ないよね」
このようなことを耳にする度に、とても残念な気持ちになります。
「いやいや、それ、すごい損失ですよ!」と、私は声を大にして言いたい。
というか、言う。(たまに言えないこともあるけど。。)
短いスパンでの利益にとらわれて、長い目で見た企業価値を軽視している、
使える資産をみすみす放置している、
これ、非常にもったいないことをしているなあと思うのです。
そもそも、「かっこいいWebサイト」と「売れるWebサイト」は両立しないという前提に立っていることが、大きな誤解なわけです。
そもそもデザインとは、決して表層的なものものではなく、色や形など目に見える、手で触れることのできるアプローチを駆使して、目に見えない無形のメッセージにカタチを与えること、人と人、人とモノをつなげるものなのです。
対象となるターゲットに向けて魅力的なメッセージを的確に発信するためには、広告や商品デザイン、Webデザインなど、クリエイティブが創り出すコミュニケーションを抜きには語れません。
そこで、企業ブランディングを考える時に重要なのは、経営戦略の視点から、あるいは経営戦略と平行してデザインマネジメントを意識的に行うことです。
つまり、ビジネスのコアとなる商品開発のフェーズから、経営者とデザイナーがキャッチボールを通じて、ブランドの方向性やコンセプトを考え、スタイルや世界観を設計し、一緒にゴールを目指していくことにより、一貫性を持ったブランドイメージでお客さんとのコミュニケーションを構築していくことが重要になってきます。
デザインマネジメントの対象とは、
ロゴやシンボルマークやネーミング
商品やサービスそのもの、商品カタログや会社案内、パンフレット
TVCM、Webサイト、広告、ノベルティ、プレスリリース
名刺、封筒、店舗の内装、そこで働く従業員の服装や言動に至るまで
企業が発信する表現のすべて、企業とユーザーとの間に存在するすべての発信媒体、ありとあらゆるコミュニケーションです。
つまり、すべての企業活動からブランドがつくられるのです。
そして、エンドユーザー(お客さん)が接するすべての機会を、タッチポイント(接点)といいます。
それぞれのタッチポイントにおいて最適なアプローチを考え、独自のデザインを打ち出すこと、そしてブレのない統一したコミュニケーションを設計し展開することが、ブランディング活動なのです。
こうしたデザイン戦略を抜きにして効果的なブランディングを進めることはできません。
経営戦略と一体化したデザインが、すべての情報媒体でブレることなく発信された時、デザインはその企業にとって大きな資産となります。
資産=ブランド です。
「うちのような吹けば飛ぶような零細企業に資産となるようなものなんてないよ」
「これといって個性のない店だからね」
とおっしゃる社長さん。
いやいや、そんなことないですよ。
ある程度企業活動をしてきた会社であれば、必ずそこにしかない「何か」があります。
目に見えるものだけでなく、経営者の思いだったり、商品やサービスの細部であったり、社内の人間では気付かないちょっとした雰囲気や微妙なニュアンスなど、その会社にしかないユニークな「何か」が必ずあります。
それはもしかしたらダイヤの原石のようなもので、その石を磨いて資産とするのがブランディングデザインなのです。
今あるデザイン資産の洗い出しや見直しをすることによって、次の新たな価値創造が可能になります。
それはそうと、“すべてのタッチポイントにおいてブレのない統一したコミュニケーション設計が必要” と書きましたが、「ブレがない」というのが実はとても重要なポイントです。
たとえば、「上質な暮らし」をコンセプトにしたラグジュアリーな家具を販売しているメーカーのWebサイトが、目がチカチカするようなバナーてんこ盛り商売繁盛感まるだしのECサイトだったら、ちょっとイメージが変わりますよね。
おしゃれなチェアや素材がいい感じのテーブルも、なんだかちょっと安っぽく見えてしまうかもしれません。魅力半減です。
会社のロゴはグラフィックデザイナーに、商品はプロダクトデザイナーに、パッケージはパッケージデザイナーに、ホームページはWebデザイナーに、というように、ブランドはひとつであるにも関わらず、それぞれ異なる専門家やクリエイターにその都度バラバラに発注することで、ユーザーが認識する企業イメージがブレてしまいます。
ブランディングで大きな成果をあげている企業は、プロジェクトの立ち上げの段階からクリエイティブディレクターやアートディレクターと共に、商品開発をはじめとした事業に取り組んでいます。
制作物単位ではなく、商品やサービスが生まれる前からデザインマネジメントを行うことで、経営者のビジョンとデザイナーの具現化力が掛け合わされ、ブランドの精度が格段に向上するわけですね。
とはいえ、小さな会社や個人のお店で、クリエイティブディレクターを雇うのはなかなか難しいと思います。
「まずは、名刺」「とりあえず、Webサイト」というように、できることから少しづつ取り組んでいくというのが現実的なのかもしれません。
けれども、小さな会社だからこそ、個人だからこそできるブランディングはきっとあります。
このブログでは、そうしたパーソナルブランディングのヒントとなるようなお話をお伝えしていければと思っています。
時々脱線したり、迷子になったりするかもしれませんが、それも含めおつきあいいただければ嬉しいです。