【ゲーム音楽語り018】高いポテンシャルを秘めたワンダースワン音源

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音声・音楽
ワンダースワン音源については語りたいことがかなりたくさんあります。

ツクールやデザエモンなどのコンストラクション系ソフトの他、開発環境系のソフトも収集していた私は、まだ大学生でお金がない中、定価で2万円くらいするワンダーウィッチを思い切って買いました。

当時、まだチップチューンという言葉が国内では浸透しておらず、自分も特にピコピコしたサウンドを作りたくてワンダーウィッチを買ったわけではありません。ワンダーウィッチの説明書にPCM音源と書いてあるのを見て、スーファミのような音が鳴らせるのか!と当時は思いました。説明書に書いてあったPCM音源というのは、どうやら波形メモリ音源のことだったようです。

雑な言い方をしてしまえば、波形メモリ音源は1周期がものすごく短いサンプリング音源のような使い方ができます。FM音源のような音だと1周期が短い音も多いので、FM音源のような音なら割と簡単に再現できます。「デジモンフロンティア ディープロジェクト」のBGMなどがそうです。

波形メモリ音源の優れたところは、波形を自由に作れるため、サンプリング音源のような音も鳴らそうと思えば鳴らせる点です。例えば、エレピ(エレクトリックピアノ)などはFM音源よりもきれいな音を鳴らせます。あまりこういう使い方をしているゲームソフトを知らないのですが、「ロマンシングサガ」の「迷いの森」のオルゴールとコーラスの音色は未だにどうやって表現しているのか分からず、まるでスーファミ音源のようです。

ワンダースワン音源の表現の幅が広がったのは、S.W.氏が開発されたWTDの功績によるところがかなり大きいです。特に音色の時間変化ができる点が非常に大きく、「立ち上がりの音」「途中の音」「終わりの音」で音色を時間変化させられるようになったことにより、ピチカートストリングス、オルゴール、ティンパニ、パンフルート等々、Microsoft GS Wave Synthくらいの音なら表現できるようになりました。昔のWTDは波形が16個まででしたが、最新版のWTDでは128個まで波形を定義できるようになり、さらに自由が利くようになりました。

ワンダースワンのゲームソフトでしばしば話題にされるのが「beatmania for Wonder Swan」の音質の良さなんですが、このソフトも恐らく波形メモリ音源の特性を利用しており、ワンダースワン音源が搭載しているボイス機能を使っているわけではないと思います。beatmania for Wonder Swanは、4トラックの音をボタン操作で鳴らせるんですが、標準ボイスチャンネルは1トラックのみなので4音も鳴らせないはずです。4チャンネルの波形を1周期ごとに切り替えて音楽を鳴らしているものと思われます。これを実際にやるとは…という実行力にはたまげます。

ワンダースワンのゲームソフトで恐らく最も音楽の評価が高いのは「約束の地リヴィエラ」。ゲームボーイのような音色が多めなので「ワンダースワン音源ってゲームボーイ音源から1音増えただけでしょ?」と思われがちなのがやや残念ではありますが、オーケストラのような音やハープシコードの音を表現していたり、パンも緻密に振って残響を表現しているなど、ワンダースワン音源をよく理解して作り込んでいる印象です。

スクウェアマスターピースの音楽も、スーファミのゲームのBGMを電子音4音にきれいに落とし込んでいて良いです。中でも「チョコボの不思議なダンジョン」は、元々プレステのゲームなので、よく4音に落とし込めたなという緻密さです。

「マリー&エリー ふたりのアトリエ」はエレピや柔らかい音色を使っていて、けっこうワンダースワン音源の特性を理解しているように思ってましたが、ネット情報によるとワンダーウィッチで開発されたソフトのようで、その証拠に音色がワンダーウィッチの標準ドライバsound.ilと同じです。よくワンダーウィッチの標準の音色で、あそこまで柔らかいサウンドを表現できたものだと感服します。

「ジャッジメントシルバーソード」のM-KAI氏が開発され、一時期公開されていたvsound.ilは、PCMボイスを曲中に使用できるという優れもので、これがあるとオケヒやPCMドラム、声などを入れることができ、面白い曲が作れます。まだ開発中で音色もエンベロープもsound.il標準のものしか使えないのが残念な限りです。

また、最近気づいたのですが、ワンダースワンカラーやスワンクリスタルと比べると、初代ワンダースワンのほうが音質が良いです。なぜかは分かりませんが、ヘッドホンアダプタを通しても明らかに違うので、気のせいではないと思われます。

ワンダーウィッチを手に入れた学生時代、せっかくワンダースワンの時代が来ると思っていたのに、ゲームボーイアドバンスの登場によりワンダースワンの敗北を確信し、悔しいので何とかしてワンダースワンでGBAのようなアコースティックな音を再現しようと苦心して制作したのが「正史エクレシア記 サウンドトラック」でした。

当時、ワンダースワン音源のサントラが殆ど出ておらず、同人作品としてもかなり物珍しい代物だったと思います。

それから16年、いつかワンダーウィッチでRPGを開発しようと世界観をそのままに音楽を一新したのが「新・正史エクレシア記 サウンドトラック完全盤」です。なぜこんなに間が空いてしまったかというと実生活でいろいろあって作曲そのものから離れていた時期が長かったからなんですが、ストイックさを取り戻して、前作以上にこだわって作りました。こちらは同人書店さんでお求め頂けますので、宜しければご検討いただけますと幸いです。

ワンダースワンの後継機のサウンド仕様がどういうものだったのかは知らないのですが、波形メモリ音源8音だったとしてもなかなかイカす仕様だと思うので、お蔵入りになったのは悔しい限りです。
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