不眠症は「自分は石ころ」と唱えれば治る

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コラム
しばらくの間、眠れない日々が続いていた。「デエビゴ」という下っ端怪人のような名前の睡眠薬は持っているのだが、飲んだ翌日は一日中強烈な眠気と戦わなければならないので、手をつけなかった。最終手段が残されている安心感はあるものの、それ以上の価値は見出せなかった。

俺はその代わりに、インターネット、テレビ、本と、あらゆる媒体で仕入れた入眠法を使った。

列挙すると、こんな感じだ。

・入浴はぬるま湯に15分以上浸かる。
・睡眠前の3時間以内にアルコールやカフェインが入ったものを飲まない。
・睡眠前の1時間以内にスマホなどのブルーライトを発する電子機器を触らない。
・ストレッチをする。
・深呼吸をする。
・部屋は真っ暗にせず、間接照明で照らす。(真っ暗だと脳が情報を求めて考え事をしてしまうため)
・体の各部位に2、30秒力を入れて抜く
・シャッフル睡眠法(脈絡のない事柄を次々と思い浮かべること。)を行う。
・睡眠用BGMを聞く。

嘆かわしいことに、俺はこれら全てに効果を見出せなかった。やってみると眠気はするのだが、すぐに取り留めない想像が不安を引き連れて頭に浮かび、何度か寝返りを打っている内に、デコの辺りが固くなる感覚がして、「こりゃ無理だ」と白旗を揚げざるを得ないくらい目が冴えるのである。

ちなみに「結局羊を数えるのが最強よ。」という意見があるとしたら、それは陳腐なアドバイスと言わざるを得ない。そもそも、羊を数える入眠方法は、英語圏でしか効果がないらしい。なんでも、羊を表す「Sheep」と、睡眠を表す「Sleep」の発音が近いことから、「1 Sheep、2 Sheep……。」と羊を数えることで、自然と睡眠に入れるのだとか。

何にせよ、俺は寝られなかった。
しかし、ついこの間画期的な入眠法を手に入れた。

その方法とは「希望を捨てること」である。

断っておくと、俺は眠れなさすぎてノイローゼになったわけではない。論理的に考えて「希望を捨てる」入眠法を編みだし、実行し、効果を得ているのだ。
なぜ「希望を捨てる」と眠れるのか。それは希望を捨てれば、不眠の根本的な原因である、「自分への期待」を消せるからだ。

眠れない夜には、将来に対する不安がつきまとう。「明日のあれ、大丈夫かな」とか「自分は将来どうなるんだろう」など、未来という闇の中にいる自分の振る舞いに想像が膨らんでしまう。

そして将来に対する不安は、自分自身への期待によって発生している。最初から「自分には何も価値がない」と思っている人は、将来の自分の振る舞いなんてどうでもいい。プレゼンで失敗しようと、納期に間に合わなかろうと、たとえ路上生活者になって地域の不良少年たちにリンチされたって、構わない。しょせん自分の価値なんて、窓のサッシに落ちている名前も分からない羽虫の死骸くらいのものなのだから……。

少なからず自分に期待しているから、不安になって中々寝付けないのだ。よって希望を捨て、期待を失えば眠れるようになる。

では、具体的にどうすればいいのか。方法はとっても簡単。表題の通り「自分は石ころ」と唱えればいいのだ。

石ころに期待する人はいない。石ころに分かりやすいプレゼンを期待する人はいない。石ころが明日何をして将来どうなろうが、どうでもいい。

寝具に寝転んだら、ひたすら頭の中で「自分は石ころ」と唱え続ける。

自分は石ころ。自分は石ころ。自分は石ころ……。

こうしている内に、期待が熱せられた氷のように溶け、いつの間にか眠っているのだ。

俺は現在「デエビゴ」の存在を忘れるくらいに快適な睡眠を取れている。
もし、あらゆる入眠法に挫折している人がいれば、ぜひ一度試してほしい。妙な話だが、前向きに石ころになってほしい。

読んでいただきありがとうございました。
あなたに達成感と共に倒れるように眠れる夜が訪れますように。
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