【超ショートショート】「影恐怖症」など

記事
小説

「影恐怖症」

影が怖くて、
怖くて怖くて、
それはもう怖くて堪らない女の子がいた。
女の子は、物心がつくのと同時に、
人の影に恐れを抱いた。
そして初めて、
あの黒くて怖いのが、
自分の足元から伸びているのに気付いた時には、
悲鳴を上げ、
小便を撒き散らしながら逃げ回った。
だけどいくら逃げても、
影を撒くことはできない。
だけど撒けないといっても、
怖いものは怖い。
おまけに医者にかかっても、
「分からない」の一点張り。
こうして女の子は、
四六時中走り回るようになった。
影がいなくなる夜を除いて、
飯を食うのも、
服を着替えるのも、
全部走りながら済ませた。
だけどある日、
余りにも怖かったんだろうね。
家から飛び出して、
背後に気を取られていたものだから、
トラックに跳ねられて死んじゃったよ。
葬式では、皆口々に、
「可哀想だけど、
これで楽になれるね。」
って言っていた。
だけど妙なことが起きた。
女の子を火葬して、
遺骨を箸で拾っている時、
両親が気付いたんだ。
女の子の影が、
女の子が生きていた時の形のまま、
そこに残っていることに。
そして両親は思ったんだと。
「遂に追いつかれちゃったんだ。」って。

「長い間違え」

めんつゆかと思って、
麦茶を飲んでしまった。
……意外と飲める!
というより、めんつゆより飲みやすい!
今度からこっちにしよう。
麦茶って、
飲む分には丁度良い濃さだな。
麺類のつゆにしたときは物足りないけど。

「少年」

「あの2人なんだろ?お前の両親。」
クラスメイトたちの言葉に、
少年は静かに俯く。
するとクラスメイトたちは、
教室の端に視線を向けながら、
こそこそと話をする。
少年は両親の仕事について尋ねられる度に、
父は映画監督、
母は女優だと言っている。
嘘ではないが、
正確には違う。
両親はポルノ映画専門の、
映画監督と女優なのだ。
少年は恥ずかしくって、
誤魔化した言い方をしているというわけ。
だけど今は誤魔化しようもない。
「そろそろ始めるぞ。」
辺りに声を響かせたのは、父。
その号令を聞くと、
クラスメイト役の役者たちが大急ぎで、
各々の持ち場につき、
父の脇にいた母が、
教室のセットに入って来る。
「エキストラとはいえ、
仕事は仕事だからね。」
服を脱ぎながら言う母の横で、
少年の顔は真っ赤。
その様子を見て、
母は溜息を吐く。
「全く、いい年をして。」と。
しかし撮影は始まる。
切り替えていかなくてはならない。
母は少年役のもう40歳になる息子を尻目に、
腐った洋梨を露わにした。

「普通の人間」

ある人物がいる。
妙なことに、名前がない。
性別や血液型、
国籍や人種、
あまつさえ姿形も、
何もない。
コミニュウケーションも取れないから、
いないのと同じだ。
だけどどういうわけか、
皆が皆、そいつのファンなんだ。
誰もがそいつになりたがり、
「こうゆう感じだろう」と想像して、
それっぽく振る舞う。
更に妙なことに、
だからといって、
幸せになれるわけじゃないんだ。
寧ろ、そいつっぽくなることで、
本来の自分が何を求めているのか、
分からなくなっている。
皆そいつの奴隷だ。

読んでいただきありがとうございました。
あなただけが改札で引っ掛かって他の人を待たせることがありませんように。

サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す