財閥倉庫に就職したら、将来安泰か?
結論から申し上げますと、将来の予想は難しく、「絶対に安泰である」とも「確実に苦しくなる」とも言えません。
ただ、倉庫業を取り巻く環境、財閥倉庫の強み、今後表面化するであろう課題を押さえた上で、最後に、業績シュミレーションを行います。
まずは、財閥倉庫の将来性に関わる基礎知識を一緒に学びましょう。
財閥倉庫の将来を知る手掛かりは取り巻く環境分析から
まずは、倉庫業界は成長産業なのか、それとも斜陽産業なのか。
財閥倉庫にとって脅威となるようなライバルは存在するのかという視点で取り巻く環境を分析していきます。
①倉庫業界の売上規模の推移
倉庫業界の市場規模は、総務省のサービス産業動向調査によると、以下の通りとなっております。
コロナ禍の影響で、2020年は減少しましたが、人口が減少傾向の日本において、2018年には過去最高を記録しております。
2021年は財閥倉庫では、2018年を凌ぐ業績を出しておりますので、2020年から2021年はV字回復が見込まれます。
人口が減少する日本においては、比較的成長が見込まれる産業と言えるでしょう。
②ライバル企業の動向
同業他社でシェアを急激に奪われるような会社は存在するのでしょうか。
以下は、倉庫業界の売上高ランキングですが、財閥倉庫の対抗馬となっているのは、「上組」、「日新」、「キューソー流通システム」、「トランコム」、「日本トランスシティ」、「名港海運」、「エーアイティー」、「キムラユニティー」、「ケイヒン」、「伊勢湾海運」です。
ただ、いずれの会社も従前からの対抗馬であり、急激にシェアを伸ばしている会社はありません。
2022年現在は財閥倉庫が安泰である理由3選
なぜ財閥倉庫は業績が良いのでしょうか。それは、財閥倉庫が以下の3つの強みを持つからです。
①不動産部門の収益率の高さ
②コンテナターミナル運営の参入障壁の高さ
③ブランド価値の高さ
以下で解説していきます。
①不動産部門の収益率の高さ
売上に占める割合は大きくないものの、利益に占める割合が実はとても大きく、ドル箱事業となっております。
各社の物流事業と不動産事業の収益、利益は下記の通りです。
不動産を中心に事業展開してきた訳でもない会社が、なぜ高い利益率をたたき出すことができているのでしょうか。
主な理由は、2つあります。
✓所有する土地の立地の良さ
✓リスク回避の戦略
不動産事業の利益を左右する1番大きな要因は、「立地」と言われています。
荷物が集まる場所として所有していた土地の中には、人が集まる場所に代わった土地があります。
例えば、不動産事業に注力している三菱倉庫は、横浜駅にほど近いみなとみらいに商業施設を所有しています。
従前は港ということで、物流の要衝でしたが、現在は人が集まる場所となり、商業施設に建て替えました。
神戸駅にほど近いハーバーランドにも商業施設を保有しておりますが、同様の経緯です。
このような土地は、新たに取得しようとすると莫大な金額になります。
財閥倉庫は所有していた土地にオフィスビル・商業施設・ホテル・住宅を建て、高い収益を得ています。
また、不動産事業が本業の会社とは異なり、リスクを背負って土地を購入したり、不動産を建設する必要がありません。
大手デベロッパーの、三井不動産、三菱地所、住友不動産と売上・利益を比較すると、ご理解頂けるでしょう。
営業収益、営業利益は、大手デベロッパーの方が圧倒的に高いですが、利益率では、財閥倉庫に分があります。
以上の理由から、財閥倉庫は大きな副収入を持っていると言えます。
②コンテナターミナル運営の参入障壁
コンテナターミナルとは、平たく言うと、海外から運ばれてきたコンテナ(大きな入れ物)を船から下ろしたり、海外へ運ぶコンテナを船に積む場所のことです。
上の画像を見れば、ピンと来る方もいらっしゃるかもしれません。
実態として、老舗の物流業者のみがコンテナヤード運営(港湾運送事業の1部)が可能です。
例えば、コンテナ貨物取扱量国内第3位を誇る神戸港で、コンテナターミナル運営を行っている会社は、以下の通りです。
運営会社は、財閥倉庫に加え、以下の会社のみです。
✓大手倉庫会社の㈱上組、㈱日新、山九㈱
✓海運会社と関係の深い商船港運㈱、日東物流㈱
✓財閥倉庫と関係の深いニッケル.エンド.ライオンス㈱、㈱ユニエツクスNCT
そして、基本的に会社が入れ替わることもありません。
それによって、以下のメリットを享受できています。
✓過当競争が発生せず、適正な料金を収受することができる。
✓物流業務を手広く行っているため、お客さんの物流業務を全般的に請け負うことができる。
③ブランド価値の高さ
財閥倉庫故に、以下のメリットがありました。
① 同じ財閥企業とお付き合いをする機会が有りました
② ①に加え、財閥ブランド故に信頼されました
①に関して、例えば、三菱倉庫は、三菱系の船会社である日本郵船のコンテナターミナル運営を担っています。
他にも同財閥の顧客は各社沢山あります。
その結果、ノウハウや実績を築き上げることができました。
②に関しては、①の実績やノウハウの評価に加えて、財閥と言うブランドネームの評価で顧客獲得に結び付いたり、多少料金が高くても契約に繋がることがあると営業の方から聞いていました。
それ故、広告、営業活動に費やすお金を最小限にとどめ、お客様からは適正な料金を収受することができています。
将来的に財閥倉庫が抱える課題と対策3選
これから入社される皆さんには、以下の課題が課されております。
①倉庫スペース需要のパイの奪い合い
②物流システム・設備の近代化
③海外顧客獲得の経験値獲得
競合に負けずに課題を克服できたのならば、明るい未来が待っているでしょう。
以下で解説していきます。
①倉庫スペース需要のパイの奪い合い
商社・生保・不動産会社等が、倉庫施設の建設に乗り出してきました。
これらの会社が建設する物流施設を物流不動産と呼ばれます。
三菱地所のLogicross、三井不動産のMFLP、住友商事のSOSiLA、外資系では、GLP、プロロジスが有名です。
今後、倉庫会社の収益の柱である倉庫スペース料のパイを奪い合うことが予想されます。
ただ、現状は、倉庫会社は、扱っている荷物の合計金額(保管残高金額)、使用している面積ともに増加しております。
倉庫は数年掛けて建設されるため、すぐにパイを奪われるということは考えられません。
普通倉庫の保管残高金額と面積の推移(出所:国土交通省、グラフは業界動向サーチが作成)
②物流システム・設備の近代化
意外に思われるかもしれませんが、物流業者は、メーカーや商社等自社で物流を担う会社と比較すると、物流システム・設備の近代化において遅れを取っています。
この遅れは、以下の要因があるためです。
✓システム・設備は発展途上であり、投資タイミングを見定めているため
✓荷主との契約年数が短いために、多額の投資に踏み出しにくいため
例えば、下記の動画は、アマゾンの倉庫ですが、お客さんが注文した商品が載っている棚が、作業員の目の前まで運ばれてきます。
一方で、物流業者の倉庫であれば、お客さんが注文した商品が保管されている場所まで作業員が移動するでしょう。
ただ、当然物流業者も、お客さんが入れ替わっても使用できるような物流システム・設備には投資を行っています。
また、先端技術への投資のタイミングを図っています。
今後、物流システム・設備投資においても業界を引っ張ることができるか注目です。
言い訳のように聞こえるかもしれませんが、現状は技術革新の途上であり、人の作業をロボットに置き換えても、掛かった費用を回収することは難しいです。新たに倉庫建設する際に、人手不足をカバーするという意味合いが強いと感じます。
③海外顧客獲得の経験値獲得
倉庫会社も、マーケットが縮小される日本から、世界へ進出していく必要があります。しかしながら、海外企業との取引は増えていません。
なぜなら、倉庫会社の海外進出は、日本でお付き合いのある会社が海外進出する際に、その顧客用に倉庫建設するといったケースが主です。現地の企業から評価を得ている訳ではないからです。
実際に、国土交通省の調査でも、以下の通り指摘されています。
我が国物流事業者の課題・弱みに関する主な意見
ネットワーク網
・国際的なネットワーク網という点で、欧米の物流事業者と比べて見劣りする
・日本のメーカー等荷主企業が進出した国や地域にしか展開しなかったと考える
現地化
・管理者が日本人ばかりでは、日本の荷主企業にしか目線が向かない。現地人材・グローバル人材ではないため、日本の荷主以外の取引先を探さない
勿論、日本と海外では商習慣が異なり、さらに、現地での実績が乏しい中で、海外企業との取引を増やしていくことは至難の業です。
しかしながら、今後は、M&Aや業務提携を通じて、プレゼンスを高めていく必要があります。
財閥倉庫の行く末に大きな影響を与えるキーファクター2選
財閥倉庫の行く末に影響を与えるキーファクターは以下の2つです。
①規制緩和
②物流システム・設備の革命
他の業界でも、起こり得ることですが、物流業、特に倉庫業界でどのような想定がされているのか解説していきます。
①規制緩和
具体的に財閥倉庫が恐れているのは、コンテナターミナル運営の参入規制が撤廃されることでしょう。
参入障壁が撤廃されると、財閥倉庫では以下が発生するでしょう。
✓顧客離れ
✓価格競争による値下げ
なぜならば、現状、財閥倉庫が享受している以下のメリットに魅力を感じる業者による国内外から参入が見込まれるからです。
✓物流を一貫で請け負うことができる
✓料金設定が業者有利である
現状、日本のコンテナターミナル運営のレベルは、外国と比べて高いとは言えません。
大型船が入ることのできる港がないことも一因ではありますが、国土交通省の調査からコンテナ取扱量は、世界の中で相対的な地位を下げていることが分かります。
コンテナ取扱量ランキング
・神戸 4位→63位
・横浜 10位→58位
・東京 15位→30位
・大阪 31位→75位
国内のコンテナターミナル運営のレベルが高くない要因は、国内の同業他社との競争が働かないためです。
例えば、国内のコンテナターミナルでは、人海戦術で行っている仕事を、海外の業者では全自動で行うまでに進歩しています。
一方で、国内の運営会社は、「従業員の雇用を守れなくなる」、「全自動設備の初期投資が高額であること」も主な理由として、二の足を踏んでいます。
そのため、財閥倉庫では、規制緩和がされないことを願っております。
ただ、日本は貿易立国であり、コンテナターミナル運営が滞ることは国民生活に大きな支障をきたします。
現状の参入障壁も、国民生活を守るための意図で作られておりますので、参入障壁が撤廃される迄には長い時間が掛かるでしょう。
②物流システム・設備の革命
現状では想定しえないような、物流システムや物流設備の革命的進歩(リープフロッグ型発展)が起こった場合、時代に取り残されてしまう可能性があります。
なぜなら、老舗の倉庫会社の倉庫は、以下の理由から進歩に対して素早く身動きを取ることが難しいからです。
✓少し大袈裟ですが「100年倉庫」と呼ばれることがあるくらい、長く営業することで収益を確保しています。
✓直接雇用ではありませんが、お付き合いのある作業会社では多くの作業員を抱えています。
例えば、100年営業する予定で建設した倉庫が20年後に時代遅れになってしまったとします。
その場合、倉庫建設の費用を回収することが出来ない状態で、顧客離れが進むことになります。
また、高性能な物流設備を購入することで、人件費を大幅に削減できる見込みが立ったとします。
しかしながら、例えば三菱倉庫であれば名菱企業㈱、住友倉庫であれば新港作業㈱といった作業会社と長年のお付き合いがあります。
その作業会社の雇用を守るため、二の足を踏むことになるでしょう。
従って、財閥倉庫では、物流の進歩が緩やかであることを願っております。
ただ、国内では高齢化による労働不足の問題を抱えております。
そのため、雇用を守ることも大事ですが、人手不足を解消する必要もあるため、否応なしに変化に対応せざるを得ない状況になってきていると言えます。
最後に
まったり高給と言われる財閥倉庫の将来性について解説しましたがいかがでしたでしょうか。
現在の財閥倉庫のまったり高給の実態についてご興味がございましたら、下記の記事をご覧下さい。
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