私は20年以上摂食障害でした。
苦痛ばかりの時間に思えますが、
自分は確実に痩せているというある種の万能感や、食べたいものをお腹いっぱいになるまで食べ尽くす一時の快楽は確かにあって、
それらを求めてひたすら苦痛を受け止めた20年だったとも言えるような気がします。
そんな摂食障害の最中、私は大食い番組を見ることが好きでした。
TVチャンピオンの世代で、ギャル曽根さん、アンジェラ佐藤さん、赤坂尊子さん(知ってる人いますかね)といった大食いタレントと言われる人たちを、中村有志さんの実況とともに見ていました。
今も地上波で大食い番組はありますし、大食いをYouTubeで発信している人はたくさんいるみたいですね。それだけ見る人がいるということなのでしょうけど、
皆さん、大食いタレントや大食いしている人を、どんな気持ちで見ているんでしょう?
「すごいなー」って見ている
きっとこれが圧倒的ですよね。
超人的なことを成し遂げる様は、なんだってすごいなーって見たくなります。
これにプラスαで「美人」なんてワードが付くと、もっと超人的なことのように思えて魅了され、もっと見たくなるのかもしれません。
しかし、
恐らく拒食症や過食症の人たちは、大食いタレントさんや大食いする人を、もう少し別の角度から見ています。
私は録画して何回も何回も見るほど、TVチャンピオンの大食い企画が好きでしたが、
大食いする選手を見て、頭の中で大食いの「疑似体験」をすることに、至福の時を感じていました。
超人的なことを黙々と成し遂げている、そのことにモチロン「すごいなー」って思いますが、焦点はそこではありませんでした。
拒食症の時、自分で決めた食べ物以外食べることは絶対に禁止なので口にしません。潔いのですが、食べたい気持ちはくすぶっていました。
ドーナツやケーキ、ふんわりしたパンなど、食べたいものをノートにイラストにして、そこでも描くことで食べる疑似体験をしていました。
同じような疑似体験として、旅番組もそうですし、報道番組のグルメ特集もそうでした。
食べたーい行きたーいという視点というより、食べているタレントさんを見て、「自分が食べているように感じたい」その感覚を求めるように番組を見ていました。
これは、私だけではないと思うんですよね。
拒食症の人が、家族に料理を作って食べることを強要するとか聞いたことがありますが、これはまさに「疑似体験」をしたいがためなんですよね。
拒食症や過食症の人は、そんな「疑似体験視点」で大食い番組を見ているのではないかなと、思っています。
一言で言えば、「食べることに飢えている」ということですね。
食事を拒む拒食症はもちろんのこと、大量に食べる過食症にしても、毎食過食しているわけではないから、どこかで食欲を抑制しています。
そんな食欲のコントロールと関係なく食べている姿が羨ましい、食べたいだけ食べられるこの人になりたかったって思いながら疑似体験しているのでしょう。
大食い番組を見ている視聴者の中には、昔の私のように疑似体験を求めている拒食症や過食症の人が、案外いるのかもしれませんね。
一方で、大食いレベルが超人的すぎるので、自分のように食べた後に吐いていないのかと思いながら見ていたりもしましたが、実際そんな人もいるみたいなので、複雑な気持ちになりますね。
吐いている人が大食いタレントをしているからって、責めるネタかと言ったら、一応胃に収めているから嘘ではないし詐欺でもなくて、
ただ、「大食いタレント(吐いてます)」だと、超人的なすごいなーって感覚は失われ、哀れみの目線になり視聴者は減ってしまいそうなので、大食いタレントを仕事にする場合には、なかなか公にはできないことなのでしょうね。
今の私は、疑似体験視点で大食い番組を見ることはなくて「今の時代は平和だな〜」「身体に悪そうだな〜」って思いながら見ています。
「今の時代は平和だな〜」という視点は、食べ物やフードロスに溢れるデパ地下に行った時の感覚に近いです。
拒食症と過食症で、散々食べ物をトイレに流してきた私が言うことではないかもしれないけど、
過去、食べ物を粗末にしてきた経験があるから、今の私は食べ物を大切にしなきゃいけないと思っています。
大食い番組のモラルを問われていることは確かで、SDGsの流れからも、豊かな国の裏で、飢餓で死んでいく国が存在することも忘れてはいけないという波は来ています。
私たちの価値観が大きく変化して、大食い番組が地上波で放送しなくなる時は、SDGsとかの綺麗事ではなく、リアルに私たちの物質的な豊かさが衰退している時でしょう。
例えば、地震や台風による被害で食べるものに不自由していた人に、大食い番組はどう映るでしょう。
大食い番組1つ取っても、いろんな見方、考え方があります。良い悪いは価値観の問題になってきますし、その時の経済状況といった社会的背景も大きく影響されると思います。
そんなことを考えると、地上波で大食い番組が放送されている今この平和な時が、とても尊く感じます。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。