中小企業経営に役立つ情報発信ブログ4:経営センス

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今日もブログを読んでいただき、ありがとうございます。
ビジネスに携わる多くの人は、「すぐに良く効く新しいスキル」を求め、「○○時間でわかる…」などハウツウ本やあんちょこ本がよく売れています。しかし、財務諸表の読み方やPC操作などはスキルを身につければなんとかなるものの、スキルだけで経営はできません。経営にはセンスが必要です。
今日は、楠木建氏著「経営センスの論理」(新潮新書)をベースに経営センスについて書いてみます。楠木氏は、名著「ストーリーとしての競争戦略」の著者で、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授です。机上の学問にしかすぎない(言い過ぎですが)経営学ですが、実務との橋渡しを考えた理論展開をされている数少ない研究者の一人です。また、スキルよりセンスの重要性を指摘した「仕事ができるとはどういうことか」(宝島新書)という山口周氏との対談形式の本も面白いです。
経営戦略を創るというのは、スキルだけではどうにもならず、センスが必要なのです。センスとスキルをごっちゃにし、センスの問題をスキルの問題とすり替えてしまうと、悲惨なことになってしまいます。
楠木氏は、スキルよりもセンスが重要となる典型例として「異性にモテる・モテない」を例に説明します。異性にモテるというのはセンスです。ところが、巷の雑誌や本には「こうすれば異性にモテる」というスキルめいたものが、山のように紹介されています。そこで紹介されている方法をすべて実践したら、本当にモテるのでしょうか? 間違いなく完全にモテなくなります(笑)。
経営も同じです。多くの本や雑誌で、「儲かるための戦略」「上手くいく戦略」など多くの戦略がノウハウ的に紹介されていますが、経営センスもなくそのノウハウだけを取り入れても、儲かるどころか損をし、上手くいくどころか失敗します。
スキルであれば、それを修得するための方法があります。教科書があったり、教育機関があったり、研修プログラムがあったりします。センスにはそうしたものはありません。楠木氏は「数多くの戦略ストーリーを読み解き、その本質を見て見破る、その繰り返しの中で、ゆっくりと、確実に磨かれていく」と言われています。つまり、「センスがいい」戦略の具体例に多く触れて、その文脈で「センスの良さ」を読み解きつかみ取っていくしかないということです。要は、「自分で磨け!」という身も蓋もない言い方ですが、センスとはそういうものです。失敗をして、その原因を感性でつかみ取り(これができるかどうかもセンスですが)、その繰り返しの中で磨かれていくものです。
経営というのは、どこまでいってもケースバイケースで特殊解です。だからノウハウ本のスキルでは経営を行うことはできません。経営に必要なのは、特殊解を引き出す「センスの良さ」です。例えば、イノベーションですが、技術進歩の「できるかできないか」の問題ではなく、「思いつくかつかないか」「気づくか気づかないか」といったセンスの問題です。
楠木氏は、リーマンショックや東日本大震災の事例を挙げていますが、今回の新型コロナウイルスも同様です。「景気」や「業界の競争構造」にばかり目を向けていれば、個別の戦略がおろそかになります。これでは「森を見て木を見ず」です。このような危機的状況だからこそ個別の戦略が必要です。景気や業界のせい、コロナのせいにしていれば、自社が抱える課題や問題が浮き彫りにされず、結局はこの未曽有の危機を乗り切ることができなくなります。景気や業界構造、コロナのせいにするのではなく、戦略と関連付けて原因を特定することが大切になります。また、個別の施策(葉)を見て戦略(木)を理解したつもりになるのも、「葉を見て木を見ず」となり早計です。木(戦略)に目を向けて危機的状況を乗り切るには、やはりセンスが必要です。
若干政治の話になりますが、楠木氏は「『こういう段取りでこういう順番で問題を片付けていく。この先にはこういう未来が開けているのだからついてきてほしい」という強いメッセージが政治家から聞こえてこない」「首相には骨太で平明なストーリーを作るという仕事に、すべてに優先して取り組んでほしい。言葉と体のすべてを動員して、そのストーリーを堂々と国民に伝えてほしい」と言っています。全くその通りです。これは、東日本大震災直後に書かれたものですが、今回の新型コロナ禍でも同じことが言えます。
続けて、楠木氏は、「トップに立つものが未来に向けたストーリーを語るべきというのは、企業でも同じだ」と言われています。
企業(経営者)は、ミッション、ビジョン、バリューを明確に定義して、社員だけでなく、社外のステークホルダーに示さなければなりません。逆境を正面から受け止め、問題の本質を直視して腰を据えて戦略ストーリーを作り、それを社内外のステークホルダーに嫌というほど繰り返し発信し、理解と共感を得るのもスキルではなくセンスです。
最後に、楠木氏は「政治がだめでも、企業は自由に動ける。政治に依存して企業が良くなったためしはない。日本の経営者、企業人には自らの力で逆境を踏み越える気概を示し、政治に『ほら、こうやったらできるだろう!』という手本を見せつけてもらいたい」と言っています。全くごもっともです。経営者の方には、政治の失敗のあおりを受けることなく頑張ってもらいたいものです。
今回の新型コロナの危機的状況の中、またウイズコロナの新しい時代に、中小企業がこれを乗り切るための明確なスキルはありません。
思いつき、ひらめき、そこから新しいアイデアが生まれます。新しいアイデアを生み出すのに必要なのは経営センスです。センスというのは、人それぞれ、千差万別です。自分が「センスがいい」と思うものにできるだけ多く触れ、自らから体験して、掴み取っていくしかありません。
繰り返しになりますが、経営はスキルだけでは上手くいきません。センスが必要です。しかし、センスは天性のものではなく、磨くことができるものです。
経営センスを磨いてください。この本には、センスを磨くにはどうすればいいかのエッセンスがちりばめられています。面白く読める本です。


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