手に入らない愛情ほど、欲してしまう。【完結】

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小説
手に入らない愛情ほど
欲してしまう。

ピアノを弾く綺麗な指が、
先生の肌に触れる。

先生は、
結婚するんですよ?
婚約している人が
いるですよ?

それなのに、
先生がいいんですか?
私じゃだめなんですか?

大好きな先輩×
婚約者のいる先生×
片想いの後輩。


2023.11.16スタート
2023.11.20完結


手に入らない愛情

今日も聞こえる。

大好きな先輩の

奏でるピアノの音。

音楽室から聞こえてくる

先輩の伴奏。

長身、半袖から覗く腕は

筋肉質。

きっと脱いでも

腹筋が割れていることを

想像させる綺麗なライン。

クールな印象、

長めの前髪、

黒髪、

口数が少なく、

成績は上位。

先輩のファンは

たくさんいるけど、

先輩は女子とつるまない、

男子とばかりいる。

恋愛に発展するところは

見たことない。

ずっと、

ずっと、

目で追っていた。

先輩が、

ピアノに触れるときだけは、

優しい姿を見せるから。

鍵盤を弾く指が優しくて、

先輩の普段のイメージと違って、

奏でるピアノの音が

優しく甘く響くから。

恋に堕ちたんです。

私だけを見てほしいなんて、

烏滸がましいことは

思っていなかった。

あの瞬間に出くわすまでは。



 音楽準備室から漏れてくる、甘い声。

 耐えている様子が籠る吐息から伝わるのに、それを許さないように責め立てる指が見えた。

 先輩の指は、先生の気持ちいいところを容赦なく責め立てる。

 両手で口を塞いで耐えるのに、指を含んだ場所からくちゃくちゃと漏れる音は遠慮がない。

 先輩は顔色ひとつ変えず、いつも通りのクール表情のまま。

 私が覗いていることを知っているのか、気づいていないのかわからない。

 先輩が、こうしていることがバレてもいいと思っていそうな感じがするのはなぜだろう。

 開けた先生の豊満な胸元に先輩が顔を埋める。

 先生が必死に首を横に振って、何かを訴える様子をじっと見てから、先輩は主張したつぼみを口に含んで、噛みついた。

 背中をそらしてのけ反る先生から指を抜き、噛んだそこを優しく含んで、先生の中に先輩のあれを押し込んだ…。

 一部始終が、私の覗いている場所から丸見えで、目をそらさなければ、全ての蜜ごとが見えてしまう。

 (…先輩、わざとしてる…?)

 必死に声を堪える先生の左手には、先日婚約を公表した相手からもらった指輪が光っている。

 先生の中で暴れ回る先輩のあれは、先輩の本心を表しているように見えた。



 先輩と先生の関係に気づいたのは、2週間前の放課後。

 いつも通り、開けられた音楽室の窓から聞こえてくる先輩のピアノの音が、いつもと違う場面で止まったこと。


 それが気になって、好奇心から、今まで向かうことを躊躇していた足が動いた。

 先輩のピアノの伴奏が風に乗って届くだけで満足、そう思っていたのに。

 クールな先輩が、どんな姿でピアノを弾いているのか、どんな風に鍵盤に触れているのか。

 あの、長くてきれいな指が、どんな風に動いているのか。

 それを生で見たかった、そう思ったのに、私がその日に目撃したのは、鍵盤を鳴らす指ではなく、先生の肌の上で声を鳴かす先輩の指だった。

 長くてほしくて少し骨ばった綺麗な指が、先生の胸を歪ませて、先生の主張するそれをつまんで弾いて、押し付けて、赤い舌で抑え込む。

 いやらしい音を奏でて飲み込む蜜口に、先輩の長い指はどんどん吸い込まれていく。

 初めて見たときの衝撃は本当にすごくて、自分のスカートの裾が濡れていたことに気づいて、自分が泣いているのが分かった。

 涙が止まることなく、ぽたぽたと水滴を落としていって、苦しいのか悲しいのか、興奮しているのか、自分の感情が分からない。

 わかることは、その行為を見て、自分が大号泣していることだけだった。



(感情の理由は、あとになってわかるもの)

 普段とは違う先輩の姿で先生の愛でる姿に、衝撃と衝動が同時に来た。

 あんな風に私も愛されたい、求められたい、気持ちを揺さぶられたい。

 先輩の特別になりたい。

 婚約者がいる上に、年上で、教師で、イケナイ関係なのに、衝動が止められない2人の姿は、私に大きな影響を与える。

 今日も目の前に広がる密会から、視線を逸らすことができなかった。




 行為が終わった後も、空気に甘い香りと吐息が混じっている気がする。

 体力が残っていないのか、心伴い手元で乱れた衣服を整えていく先生の後ろに、開けた制服をそのままに、遠くを見つめる先輩の姿が。

 行為後の賢者タイム…というわけではなさそう。

 先生の方を向いていない先輩の視線でも、近くにいる先生に意識を向けている気配は感じとれた。

 先生はそれを察知する余裕がもう残っていないのか、自分の身なりを整えることに手一杯で、もう少しすれば、準備室の扉を開けに来るだろう。

 私は慣れた足取りで、バレないように先生たちの視覚に入る場所に身を隠す。

 私の読み通り、準備室の扉を開けて出てきた先生は、何事もなかったように、先ほどの行為の様子を一切感じさせない「先生の表情」で、音楽室を歩いていく。

 (先生…)

 左手に光る薬指の指輪が光で反射する。

 先生は、こういうことをする人ではないと、現場に遭遇した後も、心のどこかで信じられなかった。

 それほど、2人の組み合わせは意外すぎて…。

 先生の気配と余韻が完全に消えてから、私は立ち上がる。

 いつもだったら、先生がいなくなってから、私もそのまま姿を消していた。

 今日は、そうしない。

 今日の先輩は、確実に私に気づいていた、私に見せつける様に先生を抱いていた。

 バレていたんだ…、覗いていたことに。

 気づいている、私が知っていることに。

 準備室の前まで来て、扉に手をかける。

 がらがら…

 引きずる音を小さく立てて、準備室の扉を開けた。

 中を見れば、乱れた制服を普段どおりの着崩しまで直した先輩がぼーっとした状態で座ってる。

 今日の先輩は、様子がおかしい。

「…先輩?」

 余韻も匂いも消えた準備室に、私の声は想像以上に大きく響いた。

 先輩の目線が、ゆっくりと私に向く。

「…先輩、好きです」

 絶対、今じゃない、今じゃないと分かっているけど、言わずに居られない。

「好きです。先輩が好きです。先生じゃなくて…、私を見てください」

 先輩はまっすぐに私の目を見たまま、反応をしない。

 私の気持ちがまっすぐ先輩に届くように、視線をそらさず見つめ返すしかできない。

 反応を見せない先輩に、私はゆっくりと、自分の制服のボタンに手をかけた。

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