”白昼夢” 散文サンプル

記事
小説
背丈の短い浅緑の草は
優しいそよ風に頬を撫でられ
さわさわ さわさわ
静かな寝息を立てておりました
眠れる草々の広がる野原の真中に
優しいそよ風がゆるりと吹き抜け
ゆっくり ゆっくり
静かに回るメリーゴーランドがありました
陶器でできた白い馬は
優しいそよ風を硝子の眼で見上げ
いつも いつも
羨ましいと思っておりました
白い馬は
眠りに落ちても 夢から覚めても
同じ景色しか見たことがありませんでしたから
空を自由に駆け巡って
色々の所を気ままに旅する
自由なそよ風が
とても とても
羨ましく思えたのです
  貴方は何故そんなにも悲しい眼をして
  この私を見つめるのです
  風よ
  私はあなたになりたい
  あなたのように自由な身となりたいのです
  私の背中を通っているこの細い棒は
  私をずっとここに留めています
  私は一生同じ景色しか見られない
そよ風は
困ったように微笑み
何も言わずに 白い馬を深い眠りに誘います
そよ風は知っていたのです
白い馬を野原の真中に留めているあの細い棒は
同時に
白い馬の硝子のような儚く不安定な心を
世界の数多い無情と混沌から守っているのだということを
背丈の短い浅緑の草は
優しいそよ風に頬を撫でられ
さわさわ さわさわ
静かな寝息をたてておりました
眠れる草々の広がる野原の真中では
優しいそよ風がゆるりと吹き抜け
きれいな きれいな
子守唄を歌っております
陶器でできた白い馬は
優しいそよ風がその硝子の心に映し出す
儚い 儚い
世界の美しい部分だけの夢を見て
深い 深い
眠りに身をゆだねております
優しいそよ風は
悲しい一欠片の微笑を
白い馬のたてがみにそっと投げかけ
何も言わずに去って行きました
そよ風のいなくなった広い野原は
まだ
しずかに しずかに
微かな寝息をたてておりました

こちらのサービスで物語や詩を執筆しています!

サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す