短編③『不本意』

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小説

※⑷ 過去に掲載したものを、改正して再投稿。【短編集(シリーズ)より】



[本文]


あの大雪の晩、

後輩のリュウを交えて久しぶりに三人で乾杯を
…と話が決まっていたが


その日の夕方から、急に
自分の出張と言う名目で、愛人のかすみとの逢瀬が決まり
ふたりをあの家において、何故ともなく‥

由比子とリュウとの間に何かが起こることを予感していた。


自分がいない晩

二人きりで逢って、何も起こらないはずはない…

そう、弘司は思った





時に…リュウは、

猛々しいような視線を、由比子に投げかけているのを何度も目にしていた。
あまりにもリュウの、由比子に対する純粋な気持ちが解りすぎるくらいだった…


由比子は時が経つにつれて
次第にリュウに対して息苦しさを覚えるようになっていく様子に、
弘司は、煮えたぎるような嫉妬とは別に
若いかすみの方に傾いていく自分を押さえられないでいた。


夫婦であるが故に、
当たり前の日常・当たり前の流れが
いつしか時が経ってくると、
男と女という壁を易々と乗り越え、ただの空気のような関係になっていく…


この世でもっとも近しい
誰よりも安心して寄り添える親友のようになっていくものだと、
信じて疑っていなかった


しかし…
妻の痴情の果てをつぶさに眺めては、
嫉妬にかられた鬼のような形相を、自分は見せているのかもしれなかった


自分は何人もの女と寝ながら、
妻に対しては一度の浮気も許さない
…そんな男は案外、世の中にはたくさんいるだろう。










それに…

自分が由比子と別れて、独身のかすみと一緒になり、
由比子をリュウにみすみす渡すには、自分のプライドが許さなかった


それでも…

自分の気持ちとは裏腹に、リュウを受け入れ
由比子との仮面夫婦を演じていくにちがいない


愛人がいても、昔と変わらず由比子とは戯れ交わっている…

子供は出来なかったし、あえてつくろうという気もなかった
















そんな仮面夫婦を数年続いたある日、由比子は妊娠をした。






「弘司…やっと授かったわ~
わたし…赤ちゃんを産みたい!」






『ゆ、由比子!お願いだ…
誰の子か!?頼むから!答えてくれ…』

弘司は心の中で叫んだ




























  『ええ…
もちろん、わたしの愛した“人"よ………』




妻は意味深な微笑み返しをした



-終-
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