今回は、システム2の能力をどのように高めればいいかの2つ目
それは、ものごとを因果関係で捉える姿勢です。
心理学の面でも、何が原因で何が結果かを理解することで、私たちは不安を和らげ、次の一手を考えやすくなることが知られています。
わかりやすい例をあげると、疾病の因果関係の解明です。
結核は古くは古代エジプト時代からあった病気で、19世紀まで原因が不明で、その対処法は療養しかありませんでした。1882年に原因が細菌であることを特定し、1994年にそれに有効な抗生物質ストレプトマイシンを発見し、その投与による解決の道筋を付けました。この結果、20世紀には結核の死亡率は90%以上減少し、感染率も大幅に低下しました。
このように、原因を知ることで、有効な対処が可能になり、安心すると言うことですね。
システム1は安直な結論を出したがる
ところで、この因果関係の類推という思考ですが、意外かもしれませんが、最初にシステム1(直感思考)が働きます。
何故なら、今まさに起っている困り事を直ちに解釈し、対処しなければならない場面が日常でも頻発するからです。
ファスト&スローの著者ダニエル・カールマンは、システム1は因果関係が大好きと論証しています。
この時の脳の働きはと言うと、原因の特定に向けて、今思い浮かんだいくつかの原因候補で因果を類推します。
つまり、自分流の理由で構築しようとします。
「こうなったからこうなったのでは?」という因果類推を、自分の体験からくる認知や自分が知っている他の類似事例に当てはめて結論を得るという、言わば、独りよがりの理由付けが行われているのです。
時間がないので当然と言えば当然ですが、問題は、「自分流」という所で、あくまで自分の記憶に真っ先に浮かんだものから類推したり、統計化したりしているということです。
この場合の統計的処理と言っても、十分なサンプルではなく、せいぜいサンプル1とか2くらいの中で行われているということです。
原因特定という行為に対し、システム1は安直に結論を出して、安心したがる傾向があるのですね
。
2つのキークエスチョン
なので、ここはシステム2を働かせて検証する態度が大切になります。
もちろん、自明の事象はシステム1のままで構いませんが、少し疑ってみるべきことについては、2つのキークエスチョンを働かせて検証しましょう。
その一つは、それは統計的に正しいか?
ダニエル・カールマンは、システム1は、母数を無視する傾向があると指摘しています。
例えばこんな会話。「俺の友達なんだけど、そいつ長年不動産売買を分析していて、これからはインバウンド需要で土地価格は必ず上がる。だから今は買いだって言ってたぜ。俺はそれ当りだと思うんだよね」
あるあるの会話ですね。
この場合、友達一人の因果推論なわけで判断しているわけで、人間には、そういう意志決定の傾向があって、ここで、しっかりシステム2を働かせた方が何かと正しい判断ができるわけです。
サンプル1での判断を回避する手っ取り早い方法としては、世の中の通説や論調を冷静に調べてみることです。
(通説や論調は統計的な処理も含め、客観的に論述されているという前提ですが)
2つ目のキークエスチョンは、それは相関関係か、因果関係か?ということです。
相関関係とは、二つの変数間に統計的な関連が見られることを指しますが、それが必ずしも一方が他方を引き起こすというわけではありません。つまり、相関は関連性を示すだけの関係です。
因果関係は、文字通り一つの事象が別の事象を引き起こす関係です。これは、ある特定の条件下で一方の変化が他方の変化を必然的に生じさせるということです。
わかりやすい事例で説明すると、
「気温が高くなると、アイスクリームの売上げが増える」 これは因果関係ありとみなせます。
一方、「アイスクリームの売上げが増えると、水難事故が増える」 これは相関関係に留まっています。
つまり、本当に因果関係があるかを確かめるには、推定した原因が、本当に根っこになっているかを見極める姿勢が必要です。
このケースで言えば、根っこは「気温の上昇」であって、それがアイスクリームの売上増や水難事故増の共通の原因になっている ということになりますね。
これは科学的思考の基本姿勢でもありますが、ビジネスでも市場環境分析においても、根っこを見極めるのは極めて重要な仕事です。
ですが、ビジネス界ではこれを疎かにしている人も多いという指摘もあります。
Ask AI !
ものごとの因果関係ありなしを磨くには、ChatGPTに聞いてみるのが手っ取り早く、極めて効果的です。
何しろ、世界中の文献をあさっていますので、それらから信頼性のある情報を得る確率は高いのです。
今までは、グーグルの検索でもそれをできたわけですが、それに関連するサイトの紹介から始まりますので、あくまで間接的でした。
これが生成AIの登場で、直接Q&Aできるようになったのですから、これを利用しない手はありません。
前回、AIとの共創関係を築くには、AIに「なぜ?」と問おうと指摘しましたが、今回の「因果類推」に関しても、同じです。
システム1は勝手なストーリーづくりが好き
今回のテーマ「因果を見極めたい情動」も人間の本能の一つです。
で、システム1のこのクセは、勝手なストーリーづくりにつながっています。
「~だからこうなった。」 これは既にお話しづくりの原型になっており、「だから、次はこうなるよ。」と話をつなげていくわけです。
つまり、ものごとを因果で捉えることによって、お話が作りやすくなるのです。
システム1で起動していますから、元々がわりと荒唐無稽な捉え方であっても、もっともらしければそれでいいわけです。そのようにして、お話しはどんどんつながっていき、ストーリーができあがります。
次回はこの人間の妄想(ストーリーづくり)について考察します。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。