文章添削の見本として自分の10年前の小説を羞恥で爆発しかけながらも自分で添削してみました(1)

記事
小説

※※※添削箇所に補足情報を追記しました 2021/7/30※※※

はじめに

こんにちは。鴨なんばんです。ココナラさんでは文章の感想添削サービスを提供しております。
サービスをはじめてからまだ約1年ですが、想像以上に多くの方々にご利用いただいております。 
たくさんの感想サービスの中から、何かのご縁から私のサービスをお選び頂きましたこと、まずは感謝申し上げます。本当にありがとうございます。

販売実績100を記念して

販売実績も100を超えましたので、何かしら記事を書きたいなあとはずっと思っていました。

で、今回は「昔の自分の小説を添削しよう」というドМな企画を思いつきました。

これを実行しようと思った理由は、まず、サービスにある文章添削コースについてもっとよく知ってもらいたいと思ったからです。

文章添削コースは、小説に対する感想を交えた総評のほかに、文章に直接「校正・添削」を施すというものです。
基本的にはWordのコメント機能を使用して書き込みます。

一応、下記記事でも、ざっくり指摘要項は上げています。
しかし今回は、実際の小説を使うことで、さらに詳しく添削の方向性などが伝えられるのではないかと思い、昔の小説を読み直すという恥ずかしさを堪えながら、なんとか実行してみました。

何かの参考になれば幸いです。

※今回は導入部だけですが、メンタルが回復したら、続きも添削するかもしれません。

今回の小説について

今回の小説は、とあるアニメの二次創作です。しかしながら、カップリング恋愛要素はありません。
キャラの名前は全て変えています。
作中で「彪子(あやこ)」となっている少女は10代前半で、ほかの洋名のキャラは人ではなく、巨大な機械人形という設定です。
文章添削目線で見るとかなり気になる点はありますが、今よりも描写に勢いがあり、楽しく書いていたことがわかるので、小説としては自分でも結構気に入っている作品です。

以下、添削前の本文になります。※1~※8は、詳しくは後述しますが、添削が入る部分です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 遊んでくれると約束したはずのトーマスがジョンのアシスタントに呼び出されてしまったので、彪子は退屈で仕方がなかった。
 ビーブはエルを迎えに行っていて、アンジェラはチャールズとツーリングだ。
 三人で腰掛けても余裕のあるソファで、彪子は一人寝そべり、口を尖らせていた。はみ出しぶらつかせた足の先で半ば脱げた靴が揺れている。彪子はそれをなんとなしに眺めていた。靴の描く平坦な軌道が今のつまらない自分に重なる。※1

「あーっもう!!」

 足を振り上げ、上体を勢いよく起こした。※2
 退屈は身も心も蝕む毒だと彪子は思っている。嫌いな勉強もない、大好きな機械人形たちと、秘密基地という最高のステージにいるというのに、”退屈”であるなんて信じられない。※3
 ふてくされた心地が今はほとんど苛立ちに変化していた。
 トーマスのところへ行こう。彪子にはよくわからない、ハイテクな回線がイカレたのだとか、ジョンはそんなことを言っていた。
 本当にハイテクなら壊れないんじゃないの?
 自分たちが基地内をうろちょろしてあれこれ立ち入ることをあまり好まないジョンには嫌な顔をされるかもしれないが、その時はそう言ってやろう。※4
 ソファを蹴って立ち上がると、足の裏にぐにゃりと違和感を感じて彪子は下を向いた。中途半端に踵を踏みつけて履いた靴。まだ、だらけている。彪子はふんっと鼻を鳴らす。生憎、自分はもうこの靴のように、退屈に服従する気はない。※5
 彪子は片足立ちになると、揺らした足を一気に蹴り上げた。だらだらしていた靴は彪子の生き生きとした力を得て小鳥のようにまっすぐ飛んだ。その飛び様を見て彪子は歓声を上げる。
 しかし、靴はすぐに飛ぶのをやめたので、彪子は目を丸くした。
 黒い巨大な手に捕まえられ、そのまま指先に摘ままれた彪子の靴は、いつもより一層小さく見えた。※6

「オリガ。あなた、いつからそこにいたの?」

 先ほどまで基地内には彪子のため息の他、大きな物音はしていなかった。※7よくよく耳を澄ませばずっと遠くでジョンとトーマスが作業しているカー・・・ン、カー・・・ンというか細い音を拾えたが、自分以外の生きた気配と言えば、それだけだった。彪子には彼が、今までどこにいたのかさっぱり検討がつかない。※8
 元気な瞳で見上げる彪子へ、青い光が眩しげにぱちぱち点滅する。レンズと称するより綺麗な水をたたえた湖と見るのがしっくりくる。きれいな水面が、瞬きをする。その仕草だけが、彼はいやに幼い。だから彪子はオリガの仕草で一番、瞬きが好きだった。

(他のなにもかもが老けすぎよね、オリガって。何歳かなんて、もともとわかんないけど)

 達観し老熟した雰囲気を纏うオリガが、彪子に時々、直接触れてはいけない、恐ろしいほど神聖な美術作品を想像させる。彼のまばたきだけは唯一、彪子に遠い憧憬ではなく近しい親しみを感じさせるのだ。
 重たい振動と金属の足音を鳴らしながら、オリガは彪子のいるブースに歩み寄り、柔らかい靴を指先に乗せてそっと差し出した。

「奥の倉庫を整理していた。すまない、驚かせたか」
「さっきも今みたいに足音たててた?」
「同じように歩いてきたつもりだ」
「えー?なんで気づかなかったのかなー」
「何か考え事をしていたのだろう?」

 オリガは周囲を見回した。それから不思議そうに彪子を見下ろす。

「トーマスが今日は君とドライブに行くと言っていたが、君はなぜここに?トーマスは、どこへ?」
「ああ、いつものことよ。よいこのトーマスちゃんはジョンママのお手伝い」

 彪子は鼻の頭に皺を寄せて首をすくめた。彪子の愛嬌ある態度と皮肉な台詞に、オリガの眼の光がふと色濃くなりすぐ戻る。笑った、のかもしれない。確信はない。トーマスと違い、オリガの表情は少なく、色が薄くて彪子にはうまく判別できない。
 差し伸べられた手に彪子は目を移した。
 彪子はオリガの手をこんなに間近で見るのはほとんど初めてだった。トーマスの太い指に比べて、へらのように薄っぺらく、長い指。いつも自分を乗せたり、包み込んでくれるトーマスの手は彪子に「男の逞しい」手を連想させるが、オリガのそれは例えが難しい。

(なんだろ。マッチョらしくもないけど、だからといって、なよなよってるわけじゃないし)

 靴を受け取って礼を述べ、よろけながら履き直して、彪子はやっと思いついた。
 鳥の羽根だ。もっと幼い頃、彪子は教会で行われたイベントで鳩を両手に抱いたことがある。鳩の小さな身体とそれを覆う白い羽毛が折れてしまうのではないかと、しばらくは恐ろしいほどだった。 オリガの手はあの時の鳩の羽根に似ている。本当は力強く大空を羽ばた力を秘めていて、しかしその手触りや見た目は如何にも優しい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

添削内容

ここから、実際に添削部分を「添削前」「添削後」「添削理由」でまとめていいきます。


※1添削前
 遊んでくれると約束したはずのトーマスがジョンのアシスタントに呼び出されてしまったので、彪子は退屈で仕方がなかった。
 ビーブはエルを迎えに行っていて、アンジェラはチャールズとツーリングだ。
 三人で腰掛けても余裕のあるソファで、彪子は一人寝そべり、口を尖らせていた。はみ出しぶらつかせた足の先で半ば脱げた靴が揺れている。彪子はそれをなんとなしに眺めていた。靴の描く平坦な軌道が今のつまらない自分に重なる。

※1添削後
 三人で腰掛けても余裕のあるソファで、彪子は一人寝そべり、口を尖らせていた。遊ぶ約束をしていたトーマスが、ジョンに連れ去られてしまったのだ。今頃は基地修理のアシスタントとしてこき使われているだろう。 
 別の誰かと遊ぼうにも、めぼしい相手は誰もいない。ビーブはエルを迎えに行っていて、アンジェラはチャールズとツーリングだ。 
ソファからはみ出しぶらつかせた足の先で、半ば脱げた靴が揺れている。彪子はそれをなんとなしに眺めていた。靴の描く平坦な軌道が今のつまらない自分に重なる。

※1添削理由
小説の出だしは、読者に「画」を想像させる書き出しにするほうがいいかもしれません。
読者は上から下(本なら左から右)と順番に情報を処理するので、情報の提示順番は「想像がしやすく」「連続性が分かりやすい」順推奨。今回の場合、まず彪子の見た目の状態(どこでどんな姿でいるか)を明かし、そのだらしない姿から、彼女がどんな気持ちでいるかをそれとなく読者に提示し、情報を補足するように彼女の気持ちに言及する方が流れがスムーズに読めるかもしれません。

※補足
ただし、小説の場合、理屈よりも自分の持つ文章のテンポを優先するべきだと個人的には思っています。
導入部は自分の持つ文章の雰囲気を速攻で伝える大切な部分でもあるので。
どの添削内容にも言えることですが基本は「こういう書き方もあるかも」という一例にすぎません。


※2添削前
足を振り上げ、上体を勢いよく起こした。

※2添削後
彪子は足を大きく振り上げ、反動をつけて上体を起こした。

※2添削理由
「足を振り上げ」るだけでは、上体は起き上がりません。描きたい「画」は足を振り上げて、下ろす勢いで状態を起こす動きのはずなので、その様子を追記しています。

※補足
こういう「元の文章でも大体想像がつくけど、基本は不親切」な文章はあらゆる場面で結構見かけます。

何してるか大体わかるんだしいいじゃん!とか、論文ではないのだから綿密に書くのが野暮なこともあるじゃん?という気持ちはめっちゃあります。
でもこういう文章が1つや2つならともかく、いくつもあったり、知らずに書き方の癖になると、それが自分の文体となってしまい、読者の想像力と解釈にぶん投げの作品しか書けなくなったりします(自戒


※3添削前
 退屈は身も心も蝕む毒だと彪子は思っている。嫌いな勉強もない、大好きな機械人形たちと、秘密基地という最高のステージにいるというのに、”退屈”であるなんて信じられない。

※3添削後
 彪子は”退屈”を身も心も蝕む毒だと思っている。それが元からつまらない学校や家に蔓延って自分を苦しめるのには、まだ諦めがつく。けれど、大好きな機械人形たちと過ごせる秘密基地という最高のステージにいながら辛酸をなめるのは、どうしても我慢ならなかった。

※3添削理由
一行目と二行目の繋がりが明確になるよう、何がどうしてそうなった、という要素をいくらか追記しました。

※補足(心の声)
元の文章はかなりテンポ重視な感じ(自分で書いたのに曖昧
好きに書きたい小説なら、こういう表現を優先するのも全然ありだと思います。
添削後はちょっとくどい。



※4添削前
 トーマスのところへ行こう。彪子にはよくわからない、ハイテクな回線がイカレたのだとか、ジョンはそんなことを言っていた。
 本当にハイテクなら壊れないんじゃないの?
 自分たちが基地内をうろちょろしてあれこれ立ち入ることをあまり好まないジョンには嫌な顔をされるかもしれないが、その時はそう言ってやろう。

※4添削後
 トーマスとジョンのところへ行こう。彪子はふと思い立った。
 ジョンには嫌な顔をされるかもしれない。彼は子供が基地内をうろちょろして、あらゆる場所へ立ち入ることを好まないから。でもそんなものは無視してしまえばいい。 
 ハイテクな回線がイカレたのだとか、トーマスを引っ張っていきながらジョンはそんなことを言っていた。 
 本当にハイテクなら壊れないんじゃないの? なんて、”退屈”にされた意趣返しで、そんな嫌味の一つも言ってやろう。思いつきがどんどん加速し、彪子の胸は高鳴っていく。 

※4添削理由
添削前は、一つ一つの文章が独立しすぎている印象があります。(トーマスのところへ行こう、という思いつきと、その直後の文章の始まり「彪子にはよくわからない」は関係がほとんど読み取れないので、文章に連続性がなくなっている)彪子の思いつきの理由や心情を書き足すことで、文章の連続性を補強しています。

※補足
ご依頼の中でも「文章がぶつ切りの印象がある気がする」とか「文章に連続性がない気がするけどどう直せばいいかわからない」というお悩みがとても多いです。
それは多くの場合、この文章と同じで、「作者の中では連続性があるのだろうけど初見の読者には一瞬繋がりがわかりにくい」状態になっているからです。(何度か読んだり、読み進めれば理解できるけど、”一瞬”よくわからない。この”一瞬”が話への没入感を崩す違和感のもとになったりしちゃう)
そういう時は、前後の文章で提示された情報に関連を持たせたり、心の動きの描写なんかを入れてやるといいかもしれません。



※5添削前
 ソファを蹴って立ち上がると、足の裏にぐにゃりと違和感を感じて彪子は下を向いた。中途半端に踵を踏みつけて履いた靴。まだ、だらけている。彪子はふんっと鼻を鳴らす。生憎、自分はもうこの靴のように、退屈に服従する気はない。

※5添削後
ソファを蹴って立ち上がると、足の裏にぐにゃりとした感触があった。正体は、さっきから中途半端に彪子の足にぶら下がっている靴だった。こいつは、まだ、だらけている。彪子はふんっと鼻を鳴らした。生憎、自分はもうさっきまでの自分とは違う。この靴のように、”退屈”に服従する気はない。

※5添削理由
大きな変化は加えていませんが、文章のテンポであったり、連続性を意識して細かい部分を変えています。

※補足
最初の一文に情報量が多いかも……とか、重要な要素が分かりにくいかも……、とかパッと読んでわかり辛かった部分にはコメントをします。
でもそれは個人の読み慣れている文章によっても変わってくる印象なので、「絶対こっちの書き方のがいいよ!!」ってことではありません。



※6添削前
しかし、靴はすぐに飛ぶのをやめたので、彪子は目を丸くした。
 黒い巨大な手に捕まえられ、そのまま指先に摘ままれた彪子の靴は、いつもより一層小さく見えた。

※6添削後
靴は、どこまでも飛んでいくかのように見えた。しかし、そうはならなかった。 
 彪子は目をぱちくりさせた。
 黒い巨大な手に捕まえられ、そのまま指先に摘ままれた彪子の靴は、いつもより一層小さく見えた。

※6添削理由
物語の展開、意外性を強調するにはこういう書き方もできるという「書き換え案」です。

※補足(心の声)
これはもはや好みの問題の域





※7添削前
先ほどまで基地内には彪子のため息の他、大きな物音はしていなかった。

※7添削後
先ほどまで基地内には彪子のため息のほか、大きな物音はしていなかった。

※7添削理由
この場合の「ほか」は漢字にしないほうが読みやすいかもしれません。

※補足
私の添削は、漢字の使用についての専門的なサービスではないので、こういう部分は本来あまり指摘しません。
(特に二次創作の場合は漢字の使用にも好みがあると思うので。賞を目指すとか、商業ものです、という時は気をつけて見ます)



※8添削前
 彪子には彼が、今までどこにいたのかさっぱり検討がつかない。

※8添削後
 彪子には彼――オリガが、今までどこにいたのかさっぱりわからなかった。

※8添削理由
「検討」は誤字。
「見当がつかない」よりは「わからなかった」と言い切ってしまうほうが話の流れ、キャラクターの性格や年齢にも合っているかもしれません。

※補足(心の声)
誤字脱字の指摘は、見つけちゃったときは、します。けどこれも専門ではないので、見落としはあるかもです。



おわりに

……というような感じです。いかがでしょうか。今回は導入部だけを添削してみましたが、少しでも文章添削コースの雰囲気や性質が伝われば幸いです。
添削理由をここまではっきり書くことはあまりありませんが「なぜそのような添削が入ったのか?」を聞いて頂ければ詳しく説明させて頂いております。

あくまで一人の人間の感想の域ではあるのですが、1人で創作をしていて行き詰まりを感じている人や、ちょっと第三者の意見が聞きたい、という人のお力になれれば嬉しいです。
(何度も言っていますが、添削内容が絶対というわけじゃないので、気に入らない部分は「そういうのもあるのか」って適当に流してもらっても全然大丈夫です)

今回、添削用に持ってきた小説は約10年前の二次創作作品です。正直、稚拙すぎる部分も多く、自分の小説ゆえに厳しめな目で読んでしまいました。
本心から言うと、添削の域を超えて、まるまる書き直したい!もっと書き込みたい!という部分もありますが……今回は我慢しました。
なぜなら、私のサービスの添削や校正は「作者の文章を生かしたまま」をモットーにしているからです。
私が「私が読んで心地よい文章」を追求して添削を行えば、それはもうニュートラルな添削ではなく、最終的には「自分好みの小説に仕上げる」ことになってしまいかねません。
私のサービスは「書き換え」ではなく、あくまで「添削でサポート」のレベルを意識しています。
それぞれの作者様の文体や表現を尊重して、少しだけ新しい方向性や、いち読者視点のアドバイスをさせて頂き、何かしらのお役に立てれば嬉しいです。

文章添削コースにご興味があれば、お問い合わせだけでもお気軽にどうぞ。
みなさまの力作をお待ちしております。


添削内容を意識して書きなおした小説


ここからは添削内容を元にして書き換えた小説になります。添削内容をそのまま使うのではなく、文章のテンポなどを考えてさらに細かい部分を変えています。
最初の状態の小説とどのように変わったか、ご興味のある方だけどうぞ。

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 遊んでくれると約束していたトーマスが、基地修理のアシスタントととしてジョンに連れ去られてしまったので、綾子は一人退屈していた。誰も見ていないのに、口を尖らせ、大きなソファを大の字で占拠して、如何にもという態度で不貞腐れている。

 ソファからはみ出しぶらつかせた足の先で、半ば脱げた靴が揺れていた。
 別の誰かと遊ぼうにも、めぼしい相手は誰もいない。アンジェラはチャールズとツーリングに行ってしまったし、ビーブはエルのお迎えだ。 
今頃、みんなお楽しみだろう。彪子は強く嫉妬すると共に、靴の描く平坦な軌道に、だんだんと、今のつまらない自分が重なっていく。
「あーっもう!!」
 彪子は足を大きく振り上げ、振り子の原理で上体を勢いよく起こした。 
 ”退屈”を身も心も蝕む毒だと、彪子は思っている。それが学校や家に蔓延っているのは、もう慣れた。けれど、大好きな機械人形たちと過ごせる秘密基地という最高のステージまでも侵されるのは、どうしても我慢ならなかった。  
 トーマスとジョンのところへ行こう。彪子はふと思い立った。子供が基地内をうろちょろして、あらゆる場所へ立ち入ることを好まないジョンには嫌な顔をされるかもしれないが、そんなものは無視してしまえばいい。 
 ハイテクな回線がイカレたのだとか、トーマスを引っ張っていきながらジョンはそんなことを言っていた。 
 本当にハイテクなら壊れないんじゃないの? ”退屈”にされた意趣返しで、そんな嫌味の一つを言うのもいいだろう。思いつきが加速するに連れ、彪子の胸も高鳴った。
 ソファを蹴って立ち上がる。足の裏にぐにゃりとした感触があった。さっきから中途半端に彪子の足にぶら下がっている靴だった。
 こいつは、まだ、だらけている。 
 彪子はふんっと鼻を鳴らした。生憎、自分はもうさっきまでの自分とは違う。この靴のように、”退屈”に服従する気はない。  
 彪子は片足立ちになった。上げている方の足を軽く後ろへ揺らし、一気に前へと蹴り上げた。だらだらしていた靴は、彪子の生き生きとした力を得て、小鳥のようにまっすぐ飛んだ。その飛び様を見て彪子は歓声を上げる。
 靴の鳥は、どこまでも飛んでいくかのように見えた。
 しかし、そうはならなかった。 
 黒い巨大な手に捕まえられ、そのまま指先に摘ままれた彪子の靴は、いつもより一層小さく見えた。 
 歓声を飲み込んだ彪子は、目をぱちくりさせた。
「オリガ。あなた、いつからそこにいたの?」
 先ほどまで、基地内には彪子のため息のほか、大きな物音はなかった。よくよく耳を澄ませば、ジョンとトーマスが作業しているカー・・・ン、カー・・・ンというか細く遠い音を拾えたが、自分以外の生きた気配と言えば、それだけだった。 
 だから彪子には、彼――オリガが、今までどこにいたのかさっぱりわからなかった。
※ここから以下は添削無し※
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