【ショートショート】『バイオリズム』
所沢雄二は市内の小学校に通う六年生だ。クラスの友人に対して明るく振舞う性格は、女の子から人気で仲の良いグループの中心だった。
しかしある時から彼の性格は一変した。音楽好きな父の勧めでバイオリンを習い始めたのがきっかけだが、雄二は一つのことに熱中するタイプで周りを見ようとしなくなった自分に気が付いていなかった。「習い事は何よりも大事」と教え込まれていたためか、無意識に友人を避けるようになっていたのだ。
常に心の変化を監視し続けることは不可能だ。出来るとすれば本人以外、例えば両親が常に子供の様子を観察し、もしかしたらと想像することぐらいで、無口になった雄二の心中を誰も分からない。
「僕はこたつなんていらない。一度入ったら出られなくなる」
いつも灯油ストーブのダイヤルを回し、電池切れになって役に立たない点火装置の代わりにチャッカマンで火をつけるのが彼の日課になっていた。一回で点いたら飛び上がるほど嬉しくなる、とはいかない。
「雄二にはストーブ当番、任せようかね」
「どうせたまたまだろ」
母親が褒めるが仏頂面でそう答えた。
彼の家は冬場になってもこたつを置かない。バイオリンに熱中している雄二が「こたつは人をダメにする。僕の足を引っ張るならいらない」と嫌がったのを聞いて、すぐに撤去した。
中学に上がってからも変わらずバイオリンにのめり込んでいた。コンクールに幾たびも出場し、入賞したこともあった。
ある日、近所の橋の上から川面を眺めていた雄二は奇妙な物を発見した。最初は黒いゴミ袋が石に引っ掛かっているだけかと思ったが、よく見てみると人だった。
川岸まで降りてみると、その人
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