おはようございます。こんにちは。こんばんは。ブログを閲覧いただきありがとうございます。
youtubeにて「語り部朗読BAR」というチャンネルを運営しております。
自身で小説を書き、声優さんに朗読していただいたものに動画編集をして公開しております。
たまに作者自身の北条むつき朗読もございます。
今回ご紹介の朗読動画は、神崎さんと飲みながら、美玲は神崎の中にいる女性の面影を思うお話です。
良かったら聴いていただけると嬉しいです。
・朗読動画もご用意しております。
・文字をお読みになりたい方は、動画の下に小説(文字)がございます。
◉連続小説ドラマ
欲に満ちた世界
作者 北条むつき
朗読 いかおぼろ
第16話 泣きと私の気持ち
「あっ、でもお財布無いし……」
「アハハハッ、気にしないで良いよ! 今回は僕の奢り」
夜も深夜になろうとする時間帯。
私は財布も持たずに姉のマンションを飛び出して、コンビニでナンパにあった。そこで大阪に出張で宿泊している神崎さんに遭遇した。
ナンパ男を撃退してくれた上、私は神崎さんに飲み直そうよと誘われた。
「軽く一杯だけ付き合ってよ」
そう促され私は、姉マンション近くの最寄駅の居酒屋の暖簾《のれん》をくぐった。季節は夏が終わったというのに、まだ夜でも半袖でもいいぐらいの暖かさ。ムシャクシャしていた私は、神崎さんの誘いに乗った。
「伊月さんも羽伸ばそう!」
そんな言葉を言われたら、お酒があまり強くは無い私でも、ちょっと人と話したい思いもあり神崎さんの誘いに乗った。
「いやぁ、でもビックリだよ。まさか伊月さんがいるなんさぁ。 僕もね、今日嫌なことがあったって言ったじゃない? だから、もう伊月さんに聞いてもらおうかなぁ?」
居酒屋に入って、30分ちょっと、一杯だけと言ったはずの神崎さんは15分も経たないうちに2杯目、3杯目と注文して、ちょっと上機嫌になっていた。
人材紹介の営業マンとしての立ち振る舞いと違い、これが神崎さんの素の姿なのかと思えるほど笑いながらも、ちょっとした愚痴をこぼしながら話す。
神崎さんのそのちょっとしたおどけぶりというか、子供っぷりというか、二面性に私にも気を許してくれているのかなぁ? と思え、私も強くないくせに、2杯目の注文のオーダーを出していた。
今日は会社の歓迎会も併せ、姉マンションでも少し晩酌していたこともあり、酔いがちょっとまわり、気持ちいい感覚に陥っていた。
「あー! 神崎さんも、言いたいことあるんですねぇ! 言っちゃいましょう!」
「ちょっと乗ってきた? 伊月さんもペース早いしぃ〜!」
と、乗っけから調子の良い素振りで話していたと思ったら、急に神崎さんは真顔になった。
「でも、助かって良かったよ……」
「あっ、さっきは本当にありがとうございました!」
私も、コンビニの件だと思い、その場で立ち上がりちょっと調子良く頭を下げた。
すると……。神崎さんは、ちょっと神妙な面持ちで答えた。
「違うよ……。1ヶ月前の駅のホームでさ。電車に飛び込まなくて良かったってこと……」
「……」
私はその言葉を言われ、ハッと自分のしでかしたことに、顔を赤《あからめ》た。そしてその場で頭を下げながら、真剣な眼差しを神崎さんに向けた。
「神崎さんのおかげで、今があります。ありがとうございます。あの時は私……」
その言葉を聞いた神崎さんは手で私の言葉を制しすると、ビールジョッキを持ち、喉を鳴らす。そして私に真顔で言った。
「色々あったのはわかる。俺も同じように自暴自棄になったこともあるし、それに……」
次の言葉を言おうとした神崎さんは、ちょっと感慨に耽った。
どうしたんだろう……。いい気分で憂さ晴らししていたと思ったら、急に押し黙る神崎さん。私は次の言葉が気になった。
「無理して、言いたく無いことは言わないでおきましょう?」
そう言った。私はそう気遣ったはずなのに、どうしてか神崎さんは、酔っていることもあったのか、その場で歯を一瞬食いしばったかと思うと、眉間に皺《しわ》を寄せて項垂れ泣き始めた。
「良かったよ……。ホント……良かった……」
「ごめんさなさい……。私……。本当にありがとうと思えるんです。泣かないでください。神崎さん……?」
普段をあまり知らない神崎さんだったけど、お酒を飲むとこんなにも泣き上戸になるのか、それとも今日も色々あったためなのか。
私といることで何かを思い出したのか。
少し酔いが覚めたけど、私は神崎さんの歯を噛み締め泣く姿を見て、誰かと私を重ね合わせているのかと思った。
この人は、私を助けるに至った経緯にも、何か訳があるんじゃ無いか。
ちょっとそう感じた瞬間だった。私は意を決して聞いてみた。
「神崎さん、そんなに泣かないでください……。私は、あなたのおかげで元気です! 過去に、私を助けるに至った理由があるんですよね?」
私は小さく諭すように言いながらも疑問を神崎さんに聞いた。すると……。
「いや、いいんだ。伊月さんは伊月さんだし……」
その言葉に、やはり何かがこの人の中にあって、私を助けるに至ったんだと感じた。そんな思いで、私は急に神崎さんのことをもっと知りたくなった。
この人の過去に何かあったことで、私の今……、命があるのならば、尚のこと神崎さんの過去を知りたいと感じた。だから私は、この男性をもっと知りたいと思った。
「神崎さん? 私でよければ、話してもらえませんか? 私、神崎さんのこと、もっと知りたいです……」