伊月美玲の仕事ぶりとお昼休みのひと時のお話:欲に満ちた世界ep12+【朗読動画】

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 おはようございます。こんにちは。こんばんは。ブログを閲覧いただきありがとうございます。

 youtubeにて「語り部朗読BAR」というチャンネルを運営しております。
 自身で小説を書き、声優さんに朗読していただいたものに動画編集をして公開しております。
 たまに作者自身の北条むつき朗読もございます。

 今回ご紹介の朗読動画は、伊月美玲の仕事ぶりとお昼休みのひと時のお話です。
 良かったら聴いていただけると嬉しいです。

・朗読動画もご用意しております。
・文字をお読みになりたい方は、動画の下に小説(文字)がございます。
◉連続小説ドラマ
 欲に満ちた世界

作者 北条むつき
朗読 いかおぼろ


第12話 仕事振りと笑顔

 今夜空いているかと、誤解する言葉を笑い飛ばしながら山江さんは、もう一度聞いてくる。それは男性としての言葉というよりも、仲間意識で言った言葉だとわかった時には、私の戸惑いも解けて一緒に笑っていた。

「山江さんって、結構唐突に変なこと言うから気をつけてね?」

 と、念押しで笑い合う富沢さんを見て、山江さんは「コラコラ、これでも係長なんだぞ!」と言う。
 びっくりしながら受けごたえしていた私は、今夜の歓迎会のお誘いだと言うことに気づくと一緒に笑っていた。

「こう言うおっちょこちょいな係長の部下は大変なんですよぉ〜」と促す富沢さんと山江さんとの息はぴったりで思わず、関西人の漫才を目の前で見ているようだった。

 そんな楽しいランチタイムはあっという間に終わりを告げ、昼食終わりの10分前ベルが食堂に響いた。

「さて、行きますか」
 そう促す係長でもあり、ちょっとおっちょこちょいの山江さんに促されてみんな席を立ち部署に一緒に戻る。
 その際、係長の山江さんが私に耳打ちするように小声で言ってきた。

「朝井主任の厳しさは、勘弁してあげてね。部下ができることで楽しいんだと思うから」
「えっ……」
 戸惑い返事をした私に、山江さんは「朝井さん、君と同じ派遣上がりの転職組なんだよね」と言う。
「そうなんですね?」
「そうそう、だから気負いをしてる部分があるかもだけど、最初だから多めに見てあげて……」

 なるほど、それで今朝部署から移動する足取りが重そうだったのかと気づいた。気負ってんのね。まあ、私も初出勤だからそう言うのはわかっているつもりだった。
 部署に戻ると朝井さんが、私を見て言う。

「あら? もう別室ので作業は終わって?」
「いえいえ、これから戻るところです」
「そう……。じゃあ午後もお願いね? 私もあとで説明に伺いますので」
「はい、わかりました」

 山江係長は、その様子を見ながら、自分の席に着いた。私も別室へと移動し、また朝の続きのカテゴリーなどを覚えて行く。そして昼も30分も過ぎた頃、朝井主任が、チラシの説明に別室へと現れた。

「よろしくて?」
「えぇ……はい」
「ごめんなさい。遅れて……。あら? あなたすごいわね。もうこのページまで読み終えたの?」

 渡されたマニュアルのページを見てびっくりする朝井主任は、笑顔になり私にチラシの内容説明をし出した。

「マニュアルを見ながらで結構ですので、ラフ案を本日、もしくは明日の昼までに提出してくださる? 今日はランチで聞いたかもだけど、あなたの歓迎会だから、定時で上がってね?」

「はい。ありがとうございます。頑張ります」

 そう促されると私と朝井さんは別室を出て、部署の自分たちの席に戻る。
大きなマニュアルを抱えて戻ってきた私に、隣の席の富沢さんが「お疲れ様、どう? なんとなく出来そう?」と尋ねてくる。

「初めてですけど、頑張ります」と言うと手を挙げて合図を返してきた。

 朝井さんは、丁寧にチラシの概要とデザインについて話すと自席へと戻る。私は少し気合を入れるべく、頬を軽く叩いて気を引き締めた。

 大きなマニュアルを一回一回振り返りながら、イラストレーターとフォトショップを立ち上げて、デザインラフを作るべく、自分のノートを出して軽く鉛筆で手書きでアウトラインをつけて描いて行く。イメージを掴むため、ネット検索もしながら、黙々と作業を続けていた。

 そのやり方に、私の部署の人たちは、「へえーそう言うやり方があるのか」と山江係長初め、見崎《みざき》さんが私の席に寄ってきた。

「えっ……」

 必死に作業を続けていたら、私の周りは部署の人たちで囲まれていたのだった。

「さすがね〜。以前の人とは全然違う……」

 富沢さんが隣で言うと「ハッ」と我に返り、周りに囲まれていることに気づいて、少々やりづらさを感じた。

「なかなか手際いいわね」

 見崎部長が私の作業机を見ながら言うと「さっ、邪魔だから皆んな各自仕事……」と私の周りから離れるように言ってくれた。

 どうやら私は一応部署の仲間として認められた瞬間だとも思い心の中でガッツポーズを取った。

 マニュアルを振り返りながら、鉛筆ラフを書き上げた私は、夕方近く、朝井主任に声をかける。

「えっ……もう出来たの!?」
「とりあえず鉛筆ラフです。デザインラフは明日に持ち越すと思いますが、見ていただけますか?」

「すごっ……」

 小さく笑顔で応えた山江係長と富沢さんの声が聞こえたが、無視して朝井主任の顔色を見ると一瞬硬直した顔が、和かな表情に変わった。

 初っ端から、挫けられないと思った私の作業は、甲を評し、朝井主任のOKサインが出た瞬間でもあった。
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