目覚める朝は彼の腕の中、ちょっと甘えたな訳あり少女の小説:目覚め+【朗読動画】

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 youtubeにて「語り部朗読BAR」というチャンネルを運営しております。
 自身で小説を書き、声優さんに朗読していただいたものに動画編集をして公開しております。
 たまに作者自身の北条むつき朗読もございます。

 今回ご紹介の朗読動画は、目覚める朝は彼の腕の中、ちょっと甘えたな訳あり少女のお話です。
 良かったら聴いていただけると嬉しいです。

・朗読動画もご用意しております。
・文字をお読みになりたい方は、動画の下に小説(文字)がございます。
◉目覚め
 作 者:北条むつき
 語り手:鳴瀬 舞

 ぎゅ…。

 もう一回。

 ぎゅ…。

 ねえ、もうい……。

 雄哉《ゆうや》は何度も朝の目覚めに私をぎゅっとする。
 襟足が長い髪に朝だから余計にウェイブがかかってボサボサな彼。
 おまけに私の左耳に雄哉の顎髭があたりぞわぞわした。

「ヤッもう。ヒゲそんなよ…」
「アハハハッ!優希《ゆき》はそうやって喜んでんだろ?」
「バカッ!」

 雄哉はちょっと変態ちっくに言い、Yシャツに袖を通す。
 今日は私が朝食の当番だったのに、ぎゅっとされたいためにちょっと遅れて起きる。

 マンションに転がり込んで、もう数週間。朝起きるときはいつも雄哉に抱きしめられて起きる私。こんな心地よい朝が以前はくるとは思っていなかった。
 父親との葛藤の末、学生の私は家を飛び出した。
 行くあてのない子犬だった私を拾ってくれたのは雄哉だ。

「もう行かないと」
「ああ、もう一回…」
「甘えん坊だな?優希。それに学校にも通えよ?いくら俺のマンションが居心地いいって行ってもずっとじゃな?」
「うん。わかってる。バイトも探すよ」
「…そうしてくれるとありがたい。じゃあ行ってくる。あっ今日はごめんな、戻るの遅いから、早く先に寝てな」そういう雄哉はジャケットを着て出かけてしまった。

 この数週前、雄哉との出会いは突然だった。田舎待ちから飛び出して、この繁華街に出て来た夜だった。お金もそんなに持ち合わせていなかった。もうこの街を離れようかと思った。だけど行くあてもなく、深夜の2時過ぎ、ひとり橋の袂でビル群のネオンを眺める。

「おねえさん?暇してんの?俺とどっかいかない?」

 そんな誘い文句は何度も聞いた。だけど私はついて行かなかった。半ば強引に車に乗せようとしていた2人組の男たち。

「ヤッ!やめて!嫌だ!」
 深夜の繁華街、行き交う人もまばらで、私をみて止める人などいないと思っていたところ、雄哉が助けてくれた。
 最初見たときは、夜の男かと思うぐらいなチャラい格好だった雄哉だけど、やることはやる。男二人に物オチもせずに対峙する。男二人はすぐさま逃げて行った。

「君さ?こんな夜中に一人じゃ、そら危ないで?早く帰んな」
「ありがと、でも帰れない」
「……きみ……高校生か?あかんわあ!そらあかん!補導される!はよ帰り。この街はな、そういう街や、危ない連中いっぱいおるで?はよ帰り!」
「大学生。かえれない…」と私は嘘をついた。
 本当は大学など行っていないし、年齢も今年17になる。もういい大人だ。なのにこんな深夜の繁華街で、誰かを待つように誰にも拾われても良かったはずなのに、私は拒否し続けた結果これだ。
「はあ…」その助けてくれた人は、ため息をついた。
「うちどこ?タクシー呼ぶわ」と手を挙げた。
「いや、帰れない」とその人の袖を持った。
「何?なんで?とにかく帰んな!うちわかるよね?どこ?」
「……福岡」と私は答えた。
「はあ?はああああああ???」男の人は大声を挙げて続けた。
「福岡って、ここ大阪!ミナミ!わかるよな!そんな子が何してんの?」
「おねがい、お金ない」私はカタコトで外人のように答えた。すると雄哉が「うち今晩だけ、泊まんな!」と行ってくれた。

 そこから始まった居候生活。夕食はちゃんと作った。バイトも探している最中と言ってずっとこの家にいる。夕食はいつも近くのスーパーで買い出しをしてあげる。そして私が腕をふるう。
 気分はもう新婚カップルのよう。いつも美味しいと行って食べてくれる彼の喜ぶ顔が見たいためにしていることだ。
 今日も早く帰ってこないかな?と思っていた。先にベッドに横になった。
朝の光が差し込む感じで目が覚めた。

「……う、ううん…ぎゅ!」
「なあにがぎゅっだ!」

 そこにいたのは、雄哉とうちのお父さんの姿だった。

「帰るぞ!この家出娘!お遊びはこれで終わりだ」

雄哉は私に隠れて、私の家を探していたんだと気付いた瞬間だった。

「雄哉…」ひどいよ。雄哉、私の気持ち弄んで…。


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